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復帰初ゴール。久保裕也が描く、日本代表定着のために必要な”突破力”。

豊福晋ライター
(写真:田村翔/アフロスポーツ)

すっきりとした表情が印象的だった。

スペイン南部、へレス・デ・フロンテーラ。高級ゴルフリゾートの片隅にあるピッチで、日本代表FW久保裕也は久しぶりの感覚を楽しんでいた。

ハノーファー96との練習試合で、久保は後半開始から45分間プレーした。実戦をこなすのは約2ヶ月ぶりのことだ。

「ユーヤ、よかったぞ!」

ピッチに戻ってきた久保を試合後にチームメイトがねぎらう。コーチ陣も嬉しそうな表情を浮かべている。復帰に向け調整を続けてきた久保にとって、手応えを感じることができた貴重な時間だった。

「いい感触でした。まだ思い切りシュートを打つのは少し怖いですけど、それ以外は全く問題なくプレーできたので」

負傷したのは、久々に復帰した日本代表、11月のサウジアラビア戦でのこと。前半早々に右膝を痛めたが、痛みをこらえて踏ん張った。代表で結果を残したいという気持ちは強かった。異変に気がついた清武弘嗣が「裕也、大丈夫か?」とピッチの上で何度も声をかけた。45分間耐えたけれど、最終的にはチームのことを考え、交代を訴えた。

当初は2週間で復帰できるとの診断だったが、練習復帰直後に再び痛めた。その後も戻っては離れてを繰り返し、冬季休暇を前に日本に帰国。19歳の時にスイスへと渡ってから、これほど長い間日本にいたことはなかった。

「あんまり長くいたので日本の雰囲気に染まりそうになりました」と久保は笑う。日本では2月のシーズン再開に照準を合わせ、じっくりとリハビリに取り組んだ。負傷の箇所が靭帯ではなく腱だったことも幸いし、いまでは痛みはない。

18日に行われた練習試合では復帰初ゴールを決めた。2月5日から始まる後半戦には万全の状態で挑めるだろう。

「シーズン後半は前半戦以上に結果を出したいし、もっと試合に出続けたい。とにかく点を取りたい」

今季、欧州でプレーする日本人選手の中で最も多く得点を決めている。ゴールは久保がキャリアにおいてずっと追い求めてきたものだ。ハリルホジッチ監督が代表招集へ動いたのも、スイスで着実に重ねている結果を見てのことだろう。

しかしピッチに戻ってきた久保の頭には、もうひとつの思いがある。

「最近、致命的かなと感じていることがあるんです」

11月の代表合宿でのことだ。代表選手たちとこなす練習で、試合で、彼は危機感のようなものを感じたという。

「個人で突破できないこと、です。代表ではやれた部分もあったけど、足りないと感じた部分の方が多かった。いま伸ばしたいのは個人の突破です。代表で右サイドをやったということもあるけど、どのポジションであれ、前の選手なら突破できた方がいい。個で突破する、というイメージを持ってやらないといけない。縦への突破と、コンビネーションでの突破。自分のところで突破できる力が大事だと。課題が見えました」

サウジアラビア戦では本田圭佑のポジション、右サイドで起用された。久保は本来はサイドの選手ではない。持ち味は精度の高いシュートであり、ゴール嗅覚だ。しかし、目指すのはあくまでも代表の攻撃陣に定着すること。ポジションは重要ではない。

そのために必要な縦への突破力をつけることー。スペイン合宿でも、サイドの久保が個人技で仕掛ける場面が多く見られた。

「どのポジションでも監督が使いやすい選手になりたい。サイドでも勝負していきたいですし、真ん中もやれるというのも見せたい。チャンスが回ってくるポジションで結果を出すこと。サウジ戦で右から裏のスペースへ飛び込んだようなプレーがありました。ああいう場面はどんどん増やしたいし、あれで得点に絡みたい。結果に絡まないと、どれだけいい突破をしても意味がないので」

センターフォワード、セカンドトップに左右両サイド。対応できるエリアは広大だ。まだ23歳になったばかり。これからプレーの幅を広げ、欧州で経験を積む中で、どんなアタッカーへと変貌していくのか。

スペイン合宿中にはバスでセビージャに向かい、セビージャ対レアル・マドリードを生観戦した。『リーガ前半戦のベストゲーム』といわれるハイレベルの90分間にも刺激を得た。

「僕はまだ代表で点も取ってないし、これからです。2017年、代表では結果を求めたい。3月のUAE戦も、クラブでポジションをとって結果を出さないと呼ばれない。代表に定着して、しっかり結果が出る年にしたい。もちろん、クラブではステップアップも目指しながら」

負傷で終えた2016年を経て、リスタートを切った久保の頭には、自らが進むべき道がしっかりと描かれている。

ライター

1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経て、ライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み、現在はバルセロナ在住。伊、西、英を中心に5ヶ国語を駆使し、欧州を回りサッカーとその周辺を取材する。「欧州 旅するフットボール」がサッカー本大賞2020を受賞。

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