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緊急事態宣言による禁酒令で飲食店だけ瀕死! 協力金の先払いに疑問を抱くワケ

東龍グルメジャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

東京都は緊急事態宣言へ

菅義偉首相は2021年7月8日、新型コロナウイルスの感染拡大が続くとして、7月11日がまん延防止等重点措置の期限となっていた東京都に対して、7月12日から8月22日まで4回目の緊急事態宣言を発出しました。

埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府にはまん延防止等重点措置が8月22日まで延長され、北海道、愛知県、京都府、兵庫県、福岡県には7月11日の期限をもってまん延防止等重点措置が解除されます。

東京都ではまん延防止等重点措置の期間中、飲食店に対して20時までの時短営業、特定の条件を満たせば、19時まで2人かつ90分以内で酒類提供を許可していました。しかし、緊急事態宣言へ移行するにあたり、原則的に酒類提供は禁止となります。

飲食店に対する引き締めを強化

飲食店は大きな制限を受けますが、これだけではありません。

酒類を販売する事業者に対して、つまり、飲食店および消費者に販売できる酒類小売業免許をもつ事業者に対して、酒類提供停止に応じない飲食店と取り引きを行わないよう要請するとしています。

これに加えて、西村康稔経済再生担当大臣は金融機関からも働き掛けるように要請すると発言しました。しかし、予想以上に大きな反発があったからか、この発言がすぐ撤回されるなど、混乱が見受けられます。

緊急事態宣言が発出されるにあたり、飲食店にはより厳しい措置がとられる一方で、大規模イベントや大規模施設への措置は、まん延防止等重点措置の時と変わりありません。つまり、緊急事態宣言は、飲食店への制限を強化するためだけの施策なのです。

鞭とバランスを取るための飴なのか、今回は自粛期間が終了する前に協力金を申請できるようにするともアナウンスしました。

しかし、飲食店は4度目となる今回の緊急事態宣言に納得していません。同様に私も納得しておらず、特に協力金の先払いに対して大きな疑問を抱いています。

長引く売上の低迷

飲食業界では一般的に、繁忙期は3月と4月、12月、閑散期は2月と8月であるとされています。もちろん、ロケーションや業態、提供プランによってかなり違っているでしょう。住宅街にあるのかオフィス街にあるのか繁華街にあるのか、ラーメン屋なのかビアホールなのかファインダイニングなのか、個室があるのか飲み放題があるのかコースが中心であるのかなどによって事情は異なります。

フードとドリンクの売上比率であるFD比によっても受ける影響は違うものです。たとえば、ラーメン店であればドリンクの売上は全体の5%程度なので影響は少ないかもしれません。しかし、居酒屋であれば40%程度、ファインダイニングであれば30%近くをドリンクが占めているので、酒類提供の禁止による影響は大きいです。

1月8日に2度目となる緊急事態宣言が発出されてから時短営業を強いられており、酒類提供の禁止が2ヶ月に及んでいます。このような状況であれば、繁忙期か閑散期なのかは関係ありません。1円でも多く稼ぐために、1日でも多く、1時間でも多く営業したいものです。

どの飲食店も経営的な体力が削られているので、まん延防止等重点措置の期限が終了した後に、営業時間が延びたり、酒類提供の制限が緩和されたりするのかと期待していました。それだけに、経営的にはもちろん精神的にも大打撃です。

プラン変更の確認

7月と8月の暑い時季に合わせて、様々なアルコールのプランやメニューが提供されます。たとえば、スパークリングワインのフリーフローを行ったり、テラスでビアガーデンを開催したり、軽やかなカクテルを創作したりするでしょう。しかし、酒類提供が禁止となれば、プランやメニューを変更せざるを得ません。もちろん、コース料理に合わせたアルコールペアリングも行えなくなります。

予定していたプランやメニューが提供できなくなれば、飲食店はどうするでしょうか。

予約した内容と異なるので、予約している全ての客に対して、どうするかと架電したり、メールしたりするなどして、確認しなければなりません。この作業を行うのは当然のことながらスタッフであり人的リソースが必要となります。

しかも、緊急事態宣言が発出されたのは7月8日、木曜日の夜。週末の忙しいオペレーションが目前であるにもかかわらず、できるだけ早く翌週以降の全ての予約を確認しなければなりません。

酒類の仕入れは前日にオーダーして納入することもできますが、3日以上も前から予定して仕入れることは決して珍しくありません。酒類提供を禁止するのであれば、国はもっと早く決断できなかったのでしょうか。

協力金の現状

緊急事態宣言の発出によって、飲食店に売上の激減やプラン変更の負担があったとしても、十分な協力金がスムーズに支払われるのであれば、まだよいでしょう。

協力金の支払い遅延に対して批判が多かったので、国は協力金について改善策を示しました。過去に支給を受けた飲食店については審査を簡略化し、酒類を提供しないと誓約書を提出することを条件に、先行して協力金を支払うといっているのです。

これまでは自粛要請された対象期間が終了し、数週間後になってからようやく申請が開始されていたので、大きな進歩であるといえるでしょう。しかも、申請も簡略化されるとあれば、負担がかなり軽減されるので、飲食店は非常に助かります。

協力金の先払いは現実的なのか

協力金の先払いは素晴らしい施策であると思いますが、残念ながら疑念を抱いています。

なぜならば、これまでの協力金がどうなるのか不明だからです。

東京都における協力金の支給状況をみてみると、7月2日時点では、3月8日から3月31日の実施分は事業者の96%、店舗の95%に支給されており、4月1日から4月11日の実施分については事業者の89%、店舗の78%に支給されています。

それ以降に関していえば、4月12日から5月11日の実施分は現在申請受付中であり、5月12日から5月31日の実施分は7月15日から申請受付開始。6月1日から6月20日の実施分、6月21日から7月11日の実施分については、まだ申請受付開始日すら決まっていません。

3月8日から7月11日までの実施分がまだ完全に支払われていない状況であるのに、7月12日から8月22日の実施分だけ先に申請を受け付けて支払うのでしょうか。

先払いするということだけが報じられていますが、それ以前の協力金がどうなるのかについては詳説されていません。

支給が完了していない実施分をどうするのか、申請すら開始されていない実施分をどうするのかが重要です。もしも7月12日から8月22日の実施分だけが先に支給され、それ以前における実施分の支給が滞るのであれば、単なるパフォーマンス以外の何物でもありません。

東京五輪に対するネガティブな感情

東京五輪で海外からアスリートや五輪貴族といった関係者が何万人も日本に訪れます。こういった華やかな式典やイベントが行われる一方で、飲食業界はまともに営業することができません。

菅首相は「安全安心の五輪」を繰り返していますが、日本国民の安心と安全がしっかりと含まれているのでしょうか。

日本国民の安心と安全が含まれているのであれば、日本国民である飲食店の関係者が安心して暮らしていけるようにしなければなりません。私が見聞きするところによれば、飲食店の関係者が東京五輪に抱く感情は非常にネガティブです。

それにもかかわらず、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、時短営業や酒類提供の禁止を真摯に受け入れる飲食店は少なくありません。五輪期間中に自粛を要請されている飲食店が安心して過ごせるようにするため、迅速かつ確実に協力金を支払っていただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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