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小林礼奈氏によるラーメン店の炎上事件が鎮火!? 5つの考察と原因になった“ひずみ”

東龍グルメジャーナリスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

タレントによる食の炎上事件

世間を賑わせている食の炎上事件がありました。様々なメディアで記事が配信されたので、知っている人は多いのではないでしょうか。

その炎上事件は、タレントの小林礼奈氏がラーメン店で起きたことをブログに掲載したことから広がりました。

発端となったのが「酷い話だよ」と題名がつけられた6月5日の記事。

小林氏は、習い事が終わった後に、子供と一緒にラーメン店を訪れました。店内で食事していたところ、入店待ちの家族から遅いと文句をいわれます。そして、入店から30分くらいが経ち、残りの3分の1を食べているところで、店の従業員から席を立つように催促されたというのです。

Yahoo!ニュースのコメントやTwitterでは、食べている途中で自分を撮影したり、ラーメン店の実名を挙げたりしたことに対して、批判的な意見が見かけられました。

ラーメン店の社長が謝罪

6月9日にラーメン店の社長が公式サイトへ文章を掲載したことによって、事態は展開します。店内のカメラを確認しながら、事件があった6月4日の詳細を載せたのです。

18時47分に小林氏を含む大人の女性2人と子供2人が着席しました。19時20分に子供2人のエプロンが外され、19時22分に小林氏ではない女性がエプロンを外してマスクを着用。19時27分に従業員が声をかけたということです。

そして、柱に隠れていて見えなかったので、小林氏が食べている途中であると気づかずに声をかけてしまい、大変申し訳なかったと謝罪しています。

これに対して小林氏は、6月10日に「騒動についての経緯」、6月12日に「和解」というブログ記事を投稿。真摯な謝罪に感謝し、9年間利用しているほどのファンなので、これからもこのラーメン店に通いたいといいます。

無事に和解できたのは非常に素晴らしいことです。ただ、今回の件に関してはいくつかのポイントがあるので、改めて考察してみましょう。

滞在時間と退店の声かけ

小林氏は30分くらいで退店を促されましたが、飲食店における平均滞在時間はだいたいどれくらいでしょうか。

カジュアルな業態であれば、ファストフードが30分、フードコートが45分、カフェは30分。ファミリーレストランであれば60分、ファインダイニングのディナーでは1時間30分、本格的なフランス料理店のフルコースであれば2時間30分以上となるでしょう。

ラーメン店では15分から20分くらいが平均滞在時間であるといわれています。15分で退店をお願いする店もあるほど、ラーメン店の平均滞在時間は短いです。したがって、30分かけてまだ食べているのは長時間滞在の分類に入るでしょう。

ただ、飲食業界では、満足度の8割は接客が左右するとも、接客が悪ければ8割が再訪しないともいわれています。接客は非常に重要な要素であるために、平均滞在時間より長く滞在していたとしても、食べている途中であれば、客に退店を促すことなどありません。

では、退店を促すのはどういった状況でしょうか。

まず、滞在に制限時間が設けられており、滞在時間を過ぎている場合。制限時間が設けられていなければ、入店待ちの客がいるかどうかで変わります。入店待ちの客がいなければ、クローズ時間にならない限り、基本的に声はかけません。入店待ちの客がいる場合には、既に食べ終えているか、食事以外のことで席を専有している時に声をかけることになるでしょう。

そういった意味では、今回は従業員の勘違いでしたが、退店を促したのは理解できることです。

子連れの是非

ファインダイニングであれば、普通は子供を連れて入店できません。制限する理由は、高級料理を落ち着いて食べられる大人の空間を紡ぎ出すためです。

店によって入店できる年齢は異なっており、小学生以上や10歳以上、高校生以上など幅があります。ただ、個室であれば子供を連れての入店も許容されることがほとんど。

ラーメン店は子供の入店を拒否するような業態ではありません。件のラーメン店のようにテーブル席も用意されていれば、子供を連れていても利用しやすいでしょう。

しかし、ファミリーレストランではない専業のラーメン店は子連れ客にとって最適であるとはいえません。なぜならば、カウンター席が中心でテーブルが狭かったり、客席の回転が早くて滞在時間が短かったり、熱くてスープが多いので食べにくかったり、子供用のメニューが用意されていなかったりするからです。

こういったことから、子連れのラーメン店ではトラブルが発生しやすくなるのかもしれません。

閉店時間

現在は緊急事態宣言の期間中で、東京都では20時までの時短営業と酒類提供の禁止が要請されています。

19時27分に従業員が声をかけたというので、残りの営業時間は約30分。客席回転としては、最後の1回転になるくらいでしょう。

ラーメン店は緊急事態宣言前であれば、夜遅くまで営業しているところが多かっただけに、時短営業で大きな打撃を受けています。そのため、1回転でも、1組でも、1人でも多くの客を入れたいところです。

しかも、入店待ちの客までいるのであれば、店自身のためにも、待っている客のためにも、早く入店してもらえたらと思います。

今回の件は従業員の勘違いでしたが、食べ終えたと思った客に退店を促すのは十分に理解できることです。

食べるペース

飲食店では通常、テーブルごとにオペレーションが行われます。オーダーをとるのも、サーブするのも、パッシング(片付け)するのも、会計するのも、テーブル単位で行うということです。

件のケースでは、同席した女性と子供2人は食事を終えていましたが、小林氏は食べ終えていませんでした。コース料理であれば、全員が同じ流れで進められていくので、1人でも食べ終えていなければ、次の料理は提供されません。

他の人が食べ終えて手持ち無沙汰にしているのを目の当たりにしながら、のんびり食べられる人はあまりいないでしょう。そのため、コースであれば同じようなペースで食べ進めようと意識します。

コース料理ほどではなくても、アラカルトでも相手との食事ペースは意識するもの。自分1人だけが食べている状況であれば、早く食べなければと思うものではないでしょうか。

もちろん、食べる速さに個人差があったり、子供のケアで自分の食事を進められなかったりするので、一概にはいえません。

ただ、同じ子連れである相手の女性が19時22分に食べ終えていることを鑑みれば、19時27分になっても3分の1も残っている小林氏のペースは、何かしらのハプニングが起きたのでなければ少し遅いように感じられます。

客同士のトラブル

小林氏のブログでは、テーブル席を待っていた子連れ客から文句をいわれたと言及されていますが、ラーメン店のサイトでは全く触れられていません。

飲食業界では基本的に、客同士のトラブルに関して、希望には応じますがジャッジは行わないもの。なぜならば、飲食店がどちらの客が正しいか、正しくないかを判断することによって、余計に問題をこじらせてしまいがちだからです。

もしも、何かしらの理由で隣の客が迷惑だとクレームがあった場合には、クレームをいった客の席を希望に応じて移動しますが、その隣客に対して注意したり、退店を促したりすることはほとんどありません。

もちろん、一方的に暴力をふるったり、店のレギュレーションに従わなかったりした場合には、飲食店の判断で退店をお願いすることはあります。ただ、客同士の諍いに関しては、できるだけどちらかに肩入れしないようにしているのです。

したがって、小林氏と入店待ちをしていた客のトラブルについて、ラーメン店が触れなかったのは正しいといえるでしょう。

時短営業のひずみ

東京都では緊急事態宣言が6月20日までとなっていますが、予定通り解除されるのか、解除された後にまん延防止重点措置に切り替わるかなど、まだ判然としません。

どちらの施策がとられるにせよ、飲食店にとって重要なことは時短営業と酒類提供がどうなるのかです。飲食店を取り巻く環境は非常に厳しく、今年に入ってからは苛烈を極めています。

時短営業によるひずみが、今回の事件を生み出した一因になったのではないでしょうか。食事は人間にとって非常に大切な行為です。飲食店にとっても、客にとっても、時間的な余裕がもてない中ではトラブルが発生しやすくなることは否めません。1日でも早く飲食店が通常営業できることを願っています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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