Yahoo!ニュース

大反響のあった食の炎上事件2019年ワースト5 坂上忍氏によるあの発言は2位……1位は?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

大反響のあった記事

今年もあと数日で終わりを迎えますが、2019年はどのような大きなニュースがあったでしょうか。

皇位継承式典が行われ、元号が平成から令和へと変わったことが、最も大きなことだったように思います。

他にも、消費税が10%に上がったり、ラグビーが盛り上がったりしました。放火事件が起きたり、台風が被害をもたらしたりと、不幸な事件も少なくありません。

食に関してはタピオカが空前のブームとなりましたが、様々な炎上事件も起きました。

今年末も昨年に引き続き、食にまつわる炎上事件、大反響のあった記事のランキングを発表したいと思います。

5位/飲食店がもつべき意識

5位は年始めに起きたこの事件です。

お笑い芸人のたむらけんじ氏が大阪市内のラーメン店に訪れて食事をとりました。サインや記念撮影を快諾しましたが、店長がTwitterに「マイク、カメラなかったらおもろ無い奴でした」とツイートしたのです。

ラーメン店に批判的なリプライが寄せられて大炎上しましたが、たむら氏が大人の対応で沈静化に努め、店長かつ社長でもある人物が謝罪し、騒動は収まっていきました。

近年は客による横暴な態度や身勝手な振る舞いが指摘されて、大炎上に至るケースが多いです。しかし今回は、客であるたむら氏に全く落ち度はなく、店側が完全に悪かったことは明白でしょう。

客は神様ではありませんが、飲食店には客に対して持っておくべき意識があります。

飲食店は客に料理やサービスを提供する立場にあるだけに「お客様はいちおう神様」くらいには思う必要があるでしょう。見下したり甘くみたりしているとパフォーマンスを発揮できません。

「客に喜んでもらいたい」も重要です。客に喜びを与えることには関心がなく、客から喜びを与えてもらうことを期待しているようではホスピタリティ溢れるサービスはできません。

客は仕事で訪れているのではなく「客はプライベートで訪れている」のです。たむら氏は多くの人々に笑いを与える芸能人ですが、仕事でラーメン店のスタッフを笑わせるために訪れたのではありません。

「客が給料を払っている」ことも改めて意識する必要があります。お金を払えば偉いということはありませんが、数ある飲食店の中から選んで訪れ、お金を支払ってくれることに対して、感謝する気持ちは大切です。

4位/カフェハラスメント

4位はカフェハラスメント、略してカフェハラです。

訪問先の打ち合わせでコーヒーを出されたことに端を発し、ある方がブログに投稿したのがきっかけでした。

投稿した内容とは、カフェインを控えている人がいるにもかかわらず、何も聞かずにコーヒーを出すのはどうかというもの。

アルハラ(アルコールハラスメント)は社会問題となって認識されているのに、カフェハラは認識されていない、ノンカフェインやお茶を出したり、カフェインの有無を選択できたりするようにしてほしいとも述べました。

コーヒーはカフェインの量が多いので、カフェインを控えている人にとってはハラスメントになるという論理です。しかし、コーヒーだけカフェインが多いわけではありませんし、お茶も種類によってはコーヒー以上にカフェインが含まれています。

したがって、コーヒーだけをカフェインハラスメントの対象とするのは偏っているでしょう。もしも、コーヒーを飲みたくない理由が、カフェインを控えたいからではなく、単に味が苦手だからということであれば、話は少し違ってきます。

コーヒーを飲みに来たのではなく、仕事の話をするために訪れたので、コーヒーを控えていると伝えればよかったでしょう。断るのも大切なマナーです。

食に対する嗜好や感受性は非常に複雑であり、アレルギーを有していたり、苦手な食材があったり、好きではない料理や飲み物があったりすることは少なくありません。

そういった時にハラスメントと騒ぎ立てるのではなく、食を通したコミュニケーションによって相手のことをより深く知ったり、話のネタにつなげたりすることができればよいと思います。

3位/長時間滞在

3位は長時間滞在について。

ある作家が、ファミリーレストランで6時間仕事をしていたところ、スタッフから会計を促されました。

そして数日後に「6000円以上とたくさんお金を使ったのに追い出された」「日本人のモラルとして根深いものがある」とTwitterに投稿したのです。

件の作家は追い出されたと主張していますが、5時間を超えたら会計するルールとなっているだけで追い出す意図はないと、ファミリーレストランの広報から回答がありました。無銭飲食(食い逃げ)を防ぐために、特定の時間が経過したら一度会計を行うのは、飲食店ではごく普通のことです。

6000円分オーダーしたから6時間滞在してもよいという考え方も正しくありません。なぜならば、ファミリーレストランの平均的な滞在時間と客単価を鑑みると、6時間滞在するには、7000円から12000円くらいは支払わないといけないからです。

また、同じ6時間といっても、時間帯によって価値は異なります。昼前から夕方ぐらいまでの6時間滞在したと述べているので、おそらくランチかディナーのピークタイムのどちらかに、もしくは、どちらのピークタイムにも重なっていた可能性が高いでしょう。

そもそも、ファミリーレストランはあくまでも食事をする場であって、仕事をする場ではありません。もしもお金を支払って仕事する場を求めているのであれば、コワーキングスペースに訪れたり、ホテルの一室を借りたりした方がよかったのではないでしょうか。

2位/食べ物の持ち込み

2位は飲食店への持ち込みです。

石垣島のラーメン店が3ヶ月間、日本人の入店を禁止しているということで話題となりました。

その理由は、店主いわく、1人1杯注文のルールを守らなかったり、フライドポテトを持ち込んだり、お断りにしている乳幼児を連れて入店しようとしたりする客がいるからということです。

日本の飲食店で日本人禁止は珍しいということもあって、フジテレビの「バイキング」でも取り上げていました。MCを務める坂上忍氏が、ラーメンを注文して食べているのであれば、フライドポテトを持ち込んで食べてもよいと主張したところ、批判の嵐が起きます。

飲食店の空間にはコストがかかっているだけに、売上に全く寄与しない持ち込みのフライドポテトを食べて滞在時間が長くなるのは、飲食店にとっても並んでいる客にとっても迷惑なことでしょう。

注文機会も損なってしまうでしょう。持ち込んだ客は、もしもフライドポテトを食べていなければ、まだお腹が満たされておらず、もしかして、ラーメンをもう1杯注文したかもしれませんし、別の料理をオーダーしたかもしれないからです。

食中毒が起きた際に問題となります。食中毒が起きた場合、保健所がしっかりと調査して、何が原因であるかを特定するので、持ち込んだ物が原因であると判明するでしょう。しかし、営業停止となり、食中毒のニュースが世間を賑わした後では、信頼を取り戻して、以前と同じ経営状態に戻すことは非常に難しいです。

フライドポテトを持ち込んで食べることは、ラーメン店にとってメリットがなく、リスクしかありません。

影響力のあるテレビ番組や芸能人の方は、面白おかしくしたり、過激にしたりして、視聴率が稼げればよいという考えを改めるべきです。正しい食のあり方もしっかりと伝えていくことが必要でしょう。

1位/飲食店と客による認識の違い

2019年で最も反響のあった記事はこちらです。

2人の親子がイタリア料理店に訪れてパスタ2品を注文しました。

サービススタッフが「リストランテでパスタのみのオーダーは受け付けていない。最低料金を下回る場合、席料を加算する」と伝えたところ「2人ともあまりお腹が空いていない」と回答。

このやり取りについて、サービススタッフが「リストランテはコンビニやファミレスではない」「店やスタッフを侮辱している」「客にも最低限の予算とモラルは必要」といったことをTwitterに投稿し、大炎上しました。

事件の原因は、飲食店と客の認識違い、および、飲食店と客によるお互いの理解不足です。

ファインダイニングであればウォークインを受け付けておらず、予約が必要となっています。しかし、予約なしでも利用できたため、親子はどのような店なのか全く知らず、心の準備もできていなかったのでしょう。

高級店では、わざと入りにくいようにして、間違って入店することがないようにします。たとえばゴージャスなビルの上層階に入居したり、風情のある一軒家にしたり、アプローチを設けたりしますが、そのようにはなっていませんでした。

アラカルトで用意しているのに、パスタをオーダーされて嫌がるのは矛盾です。パスタだけでは店のよさが伝わらないのであれば、コースだけにしたり、前菜とメインディッシュも注文したりするルールを作るべきでしょう。

ファインダイニングでは通常、サービス料が設けられており、最低でもチャージ料は設定されています。規定の料金に届かなければチャージ料を加算するシステムは不明瞭なので賛同できません。金額ベースではなく、料理ベースにして客の食体験を高めるべきではないでしょうか。

しっかりと食の問題を考える

今年も1年間に起きた食の炎上事件を振り返ってみました。

昨年と違うのは、ノーショー(無断キャンセル)やドタキャン(直前キャンセル)に関する事件が少ないことです。ただ、飲食店における空間の価値が認識されていなかったり、飲食店と客による双方の理解がまだ不足していたりする事件が目立ちます。

2020年は東京2020オリンピック・パラリンピックも開始されるだけに、日本の食もますますクローズアップされることでしょう。

炎上事件が起こってしまうのは仕方ありませんが、それを通して食に関心を持ち、よい方向に進んでいけばまだよいです。そのためには、メディアもただ面白おかしく報道するのではなく、しっかりと食の問題を考えていく必要があります。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事