世界で注目のThe Okura Tokyoオープン 食のオークラをもっと理解するための3つの考察

ヌーヴェル・エポック/著者撮影

The Okura Tokyoがグランドオープン

2019年9月12日15時にThe Okura Tokyo(読み:ジ・オークラ・トーキョー、日本語表記:オークラ東京)がグランドオープンしました。

ホテルオークラ東京本館は1962年に開業し、2015年8月31日に多くのゲストに惜しまれながら建替え工事のために閉館しました。そして、4年もの歳月を経て新しく生まれたのが、The Okura Tokyoなのです。

The Okura Tokyoは「伝統と革新」をコンセプトに、本館の「日本の伝統美」を継承しつつ、最新の設備や機能を備えています。

オークラ ヘリテージウイング(The Okura Heritage Wing)とオークラ プレステージタワー(The Okura Prestige Tower)という、近代的な2棟の建物によって構成されているのも特徴的です。

虎ノ門という東京の中心地にあって、約2.6ヘクタールの敷地面積を有しており、約1.3ヘクタールもの緑地および庭園を確保しています。

以下の通り、既にテレビや雑誌、インターネットなどで大きく報道されており、国内外から多くの耳目を集めていますが、どのようなホテルでしょうか。

「食のオークラ」ともいわれるだけに、食を通してThe Okura Tokyoを紹介していきましょう。

オークラ ヘリテージウイングとオークラ プレステージタワー

オークラ ヘリテージウイング/著者撮影
オークラ ヘリテージウイング/著者撮影

オークラ ヘリテージウイングは地下1階から17階の中層棟となっており、客室数は140室、そのうちスイートが7室。客室とレストランという構成で、日本の美を継承するホテルとして国内外の賓客の迎賓館となるように運営していくといいます。

オークラ ヘリテージウイングの料飲施設

  • 日本料理「山里」

4階/114席、個室5室/7:00~9:30(土日祝10:00) 、11:30~14:30、17:30~21:30

  • フランス料理「ヌーヴェル・エポック」

5階/56席、個室1室/7:00~10:00、11:30~14:30、17:30~21:30

オークラ プレステージタワー/著者撮影
オークラ プレステージタワー/著者撮影

オークラ プレステージタワーは地下1階から41階の高層棟で、客室数は368室、そのうちスイートが10室。国際都市である東京の躍動感や洗練さに、和のアクセントを取り込んでいます。大規模な国際会議にも対応できる最大2000名を収容できる大宴会場を擁するなど、インターナショナルホテルという位置付けです。

オークラ プレステージタワーの料飲施設

  • オールデイダイニング「オーキッド」

5階/220席(テラス席46席)、個室2室/6:30~22:00

  • メインバー「オーキッドバー」

5階/79席/11:30~1:00

  • 中国料理「桃花林」

6階/144席、個室8室/11:30~14:30(土日祝15:30)、17:30~21:30

  • 鉄板焼「さざんか」

41階/80席、個室5室/11:30~14:30、17:30~21:30

  • バーラウンジ「スターライト」

41階/89席、個室1室/11:30~0:00

料飲施設を俯瞰してみると、低層階にはフランス料理、日本料理、中国料理に加えて、オールデイダイニングとオーセンティックなバーがあります。一方、高層階には鉄板焼とバーラウンジを構えており、ロビー階はどちらの棟ともに5階です。

この他にも、オークラ プレステージタワー5階にデリカッセン「シェフズガーデン」があります。

食の幅広い選択肢や楽しさを十分に持ち合わせていながらも、よく選別されており、無駄がない印象を受けます。

では、それぞれの料飲施設について詳しくみていきましょう。

フランス料理「ヌーヴェル・エポック」

内観@ヌーヴェル・エポック/著者撮影
内観@ヌーヴェル・エポック/著者撮影

フランス料理「ヌーヴェル・エポック」は前身の「ラ・ベル・エポック」を受け継ぐフレンチレストランですが、店名の「新しい時代」が意味するように、全く新しいレストランになっています。

以前はアー ル・ヌーヴォーの時代を彷彿させる内装でしたが、ロビーからの連続性を意識した和が感じられる静謐な空間に生まれ変わりました。

料理長を務めるのは高橋哲治郎氏。2年間のフランス修業などを経てホテルオークラ東京へ入社し、「ラ・ベル・エポック」で腕を奮ってきました。オークラのフランス料理はもちろん、他のホテルや町場のフランス料理もよく知る料理人であるといえるでしょう。

高橋氏は日本とフランスの食の融合をテーマに「フランス料理の大胆さと日本の優美さ」を追求するとし、日本のテロワール、つまり、その土地の個性を大切にすると述べています。

最近のホテルでは、コストが非常にかかり、フレキシブルに対応できないフランス料理が少なくなってきています。しかし、ホテルオークラ東京開業当初の総料理長である小野正吉氏は黎明期から日本のフランス料理界を引っ張ってきただけに、The Okura Tokyoに本格的なフランス料理がオープンしたのは嬉しいことです。

テーブルセット@ヌーヴェル・エポック/著者撮影
テーブルセット@ヌーヴェル・エポック/著者撮影

他に注目したいところとしては、カトラリーにピュイフォルカが用いられていることを挙げておきましょう。ピュイフォルカは純銀にこだわったフランスの最高級の銀器メーカーで、銀器にこだわりのあるオークラらしい選択です。東京にはたくさんの高級ホテルがありますが、ピュイフォルカを取り揃えているところはほぼありません。

日本料理「山里」

寿司カウンター@山里/著者撮影
寿司カウンター@山里/著者撮影

日本料理「山里」は1962年の開業以来、伝統を踏まえた料理を大切にしつつ、「ホテルの和食堂」というスタイルにこだわりをもっています。アラカルトは100種類を超え、以前もあった天ぷらカウンターに加えて、新しく寿司カウンターと割烹カウンターも備えられました。

「山里」を率いる和食調理 総料理長の澤内恭氏は「APEC首脳会議」の主脳晩餐会を監修するなどした料理人。ダイニングエリアで提供する日本料理とは異なり、割烹カウンターで提供されるメニューは日によって新しくなり、その瞬間その瞬間のおいしいものを体験できると、澤内氏はいいます。

専用の車寄せや個室専用の入口も設置し、フロア全体が日本庭園と一体となっていることも見ものです。隣接する場所に、茶室「聴松庵」が2019年10月にオープンするので、訪日外国人には特に注目のレストランとなるのではないでしょうか。

中国料理「桃花林」

内観@桃花林/著者撮影
内観@桃花林/著者撮影

「桃花林」は日本で初めてとなるホテル直営の広東料理レストランとして誕生した、ホテル広東料理の代表格。200種以上ものメニュー数を誇り、多くのゲストに愛されてやまない名店です。

中国調理 総料理長を務める陳龍誠氏は、2017年東京都優秀技能者(東京マイ スター)知事賞を受賞した日本における広東料理の第一人者のひとりであり、革新的なオリジナル料理を考案することでも知られています。

桃源郷にインスパイアされた店内は優雅な雰囲気をまとっており、個室も8室あることから、様々な用途で使われることは間違いありません。

オールデイダイニング「オーキッド」

内観@オーキッド/著者撮影
内観@オーキッド/著者撮影

「オーキッド」は早朝のブッフェに始まり、ランチ、ティータイム、ディナーと一日中ゲストで賑わうことになるオールデイダイニングです。

オークラ伝統の人気メニューなど、約250種類もの品揃えを用意しています。モダンなインテリアに囲まれ、46席を有するテラスを備え、非常に開放感があるといってよいでしょう。

料理長の齋藤裕樹氏はバラエティ豊かなレストランとして親しまれた「ダイニングカフェ カメリア」のシェフを担ってきた料理人であるだけに、カレーやグラタン、フレンチトーストといったオークラ伝統の料理を知悉しています。オークラで継承されてきた洋食の味を開放的な空間の中で堪能できるのは、新しい体験であるといえるでしょう。

鉄板焼「さざんか」

内観@さざんか/著者撮影
内観@さざんか/著者撮影

最上階に位置する唯一のレストランが「さざんか」。独自に発展した日本の焼き物に着想を得て、「土と炎の美」を意識したスタイリッシュな空間を紡ぎ出しています。鉄板カウンターはコの字型で統一されており、美しいです。カウンターの土色が温かみを感じさせるので、リラックスしながら目の前で調理する料理人と会話を楽しめることでしょう。

全80席で個室も5室あり、鉄板焼では規格外の大きさであるといえます。しかし、その席数の多さに反比例して、鉄板カウンターの間隔は非常に広いです。私の経験からすると、これ以上に、鉄板カウンター間に余裕のある鉄板焼店は見たことがありません。

訪日外国人は是非とも日本で黒毛和牛を食べたいと思っているだけに、多くの需要が見込めるのではないでしょうか。

ブランド

テラス@オーキッド/著者撮影
テラス@オーキッド/著者撮影

ここからは、新しくなったオークラの食をより深く理解していくために、3つの切り口を通して料飲施設をつぶさに考察していきたいと思います。

まずはブランド、つまり、店名です。

「桃花林」「山里」「さざんか」は、ホテルオークラ東京本館にあった時と変わりません。その一方で、「ラ・ベル・エポック」は「ヌーヴェル・エポック」となり、「オーキッドルーム」は「オーキッド」と新しい名を得ています。さらには、ホテルオークラ東京本館最上階にあった「スターライト」は、開業当時の「スターライトラウンジ」へとブランドも業態も立ち戻りました。

こういったところから読み取れるのは、オークラの食の挑戦的な継承です。

オークラは日本系ホテルの独自ブランドとしては、本格的なフランス料理のブランドを有している数少ないホテルのうちのひとつです。料理ジャンルの中でも、ひときわコストのかかるフランス料理を継続することは容易ではありませんが、「食のオークラ」と国内外から評価されるオークラで、美食の王様であるフランス料理がないことはありえません。

そういった背景もあり、小野正吉氏の代から続くフランス料理店は存続させつつも、時代に合わるために、オーセンティックではなくモダンフレンチになった結果が、新ブランドである「ヌーヴェル・エポック」ではないでしょうか。

高橋氏が料理長に指名されたのも、日本だけではなくフランスにも修行経験があり、オークラ以外のフランス料理をよく知る料理人だったからであると考えています。

「オーキッドルーム」は、「オーキッド」と同じようにロビー階に位置していましたが、眺望やテラスはありませんでした。そういったことから「ルーム」がなくなり、「オーキッド」という店名にマイナーチェンジが行われたのだと思います。

内観@スターライトラウンジ/著者撮影
内観@スターライトラウンジ/著者撮影

「スターライト」は前身が「スターライトラウンジ」という、艷やかなホテルのバーラウンジの走りでした。2000年8月1日にチャイニーズテーブル「スターライト」へとブランドおよび業態が変更されたことは、ホテル通の記憶に新しいところです。

最上階にあった「スターライトラウンジ」のイメージを想起させつつも、ここ20年近くのゲストにとって馴染みのある「スターライト」という名前を引き継いだのは、非常に絶妙であり、最適な選択であったように思います。

場所

バーカウンター@オーキッドバー/著者撮影
バーカウンター@オーキッドバー/著者撮影

次に言及しておきたいのが場所です。

基本的にホテルでは、眺望のある最上階は一番価値があり、景色を期待できない地階にはあまり価値がありません。ただ、もちろん、場所の価値は景観だけで定められるものではないだけに、どのようにして施設の場所が決められたのかを考察するのは大きな意味をもつのです。

オークラはゲストを非常に大切にするホテルとして知られています。そのため、最も多くのゲストが行き交うロビー階は、これまでのゲストが間違えないようにとホテルオークラ本館があった時と同じように5階と定めたのです。

では、レストランの場所はどのようにして決められたのでしょうか。

The Okura Tokyoは、敷地面積の約半分にあたる1.3ヘクタールもの緑地を有しています。そして、「山里」を日本庭園が望めるオークラ ヘリテージウイング4階に構えることを、料飲施設の中で最も重視したといいます。

日本料理が日本の景観美と相性がよいことはいうまでもありません。日本料理のダイニングと割烹カウンターからは日本庭園を堪能でき、寿司カウンターと天ぷらカウンターは奥まったエクスクルーシブなエリアに位置しています。

オークラ ヘリテージウイングは宴会場へ通じるエレベーターを設置しておらず、会場の賑わいの影響を受けないため、ウォークイン客ではなく予約客が中心となる料飲施設を設置しました。そのため、「山里」と同じように予約が中心となる、最高級のフランス料理「ヌーヴェル・エポック」もオークラ ヘリテージウイングとなったのです。

個室@桃花林/著者撮影
個室@桃花林/著者撮影

「桃花林」がオークラ プレステージ タワー6階にあるのは、ロビーと同じ理由です。ホテルオークラ東京本館の時と同じ6階にすることで、昔からのゲストが迷うことがないようにしました。

「オーキッド」がオークラ プレステージタワーの5階にあるのは、オールデイダイニングはアクセスしやすい場所に位置する必要があるからです。

「さざんか」「スターライト」がオークラ プレステージタワー最上階にあるのは、もともと単価が高い鉄板焼やバーラウンジの付加価値をさらに高めるためであると考えられます。

スタイル

フォワグラのローズ仕立て “ピエール・ドゥ・ロンサール” 魅惑なスパイスの香る蝶々のクリスティアンを添えて@ヌーヴェル・エポック/著者撮影
フォワグラのローズ仕立て “ピエール・ドゥ・ロンサール” 魅惑なスパイスの香る蝶々のクリスティアンを添えて@ヌーヴェル・エポック/著者撮影

最後に触れておきたいのは、レストランでの提供スタイル。

「ラ・ベル・エポック」の時には、コースに加えて、「特選和牛フィレ肉のウェリントン風」といった、オークラで受け継がれてきたフランス料理のアラカルトも用意されていました。しかし、「ヌーヴェル・エポック」では、おまかせコース料理だけが提供されており、アラカルトは作られていません。

町場のフランス料理は料理人のポテンシャルを最大限に高めるために、アラカルトやプリフィックスコースを廃止し、おまかせコースだけに注力してきました。「ヌーヴェル・エポック」でも、ガストロノミーを追求し、オークラのオートキュイジーヌを存分に堪能できるようにと熟慮した結果が、おまかせコース料理のみの提供となったのではないでしょうか。

さらには、ワインペリアングを充実させており、一流ワインを愛飲するオークラのゲストに嬉しい内容となっています。

「ヌーヴェル・エポック」ではオークラ伝統の料理というよりも、シェフのスペシャリテに特化するようになりましたが、心配ありません。「オーキッド」でオークラの伝統メニューが全て提供されるようになっているので、往年のファンは覚えておくとよいでしょう。

その「オーキッド」では朝食に加えて、土日のランチとディナーもブッフェとなっているので、「オーキッドルーム」時代のブッフェファンには喜ばしいことです。オークラの名物料理はたくさんあるだけに、ブッフェスタイルで色々なものを吟味できるのはよいのではないでしょうか。

プライベート感のあるボックス席や開放的なテラス席が備えられたのも新しいところであり、様々な状況に利用できることでしょう。

「さざんか」は海外でも絶対的な知名度と人気を誇る神戸ビーフに力を入れています。鉄板カウンターからの圧倒的な眺望と転卓後の非常にゆったりとした空間で、非常にメリハリが効いているといってよいでしょう。これまでは三大和牛から八重山郷里牛など、日本各地における有名無名の素晴らしいブランド牛のプロモーションが行われていただけに、今後の展開に注視したいです。

「山里」は伝統的な日本料理がオススメであることはいうまでもありませんが、新しく設置されたカウンターに注目したいと思います。

寿司カウンターを設置したことによって、本格的にオークラの寿司を楽しむことができるようになりました。寿司は訪日外国人に絶大な人気を誇っており、高級外資系ホテルでは寿司店がどんどんオープンしている中で、日本系ホテルは静観しているように見受けられます。そういった状況下で、食のオークラが寿司に力を入れることは、ホテルの寿司において大きな分水嶺となるのではないでしょうか。

割烹カウンター@山里/著者撮影
割烹カウンター@山里/著者撮影

割烹カウンターが設置されたことによって、非常にフレキシブルな日本料理の一品を提供できるようになりました。料理は日々変わるので、ミシュラン向きではないかもしれませんが、ベストレストラン向きではないでしょうか。一期一会のモダンジャパニーズキュイジーヌを楽しめる割烹カウンターで、オークラの和食のポテンシャルがさらに発揮されると考えられます。

天ぷらカウンターは以前からありましたが、やはり新しくなっています。以前と同じようにコースを提供していますが、よりたくさんの種類を楽しめるようにと、少量多種を楽しめるようになっているのです。少量多種となれば、ペアリングがますます面白くなるので、日本酒や日本ワインの消費も増えるのではないでしょうか。

他の注目点

ワインセラー@さざんか/著者撮影
ワインセラー@さざんか/著者撮影

料飲施設について、他にも注目するべきところはあります。

それは、どのレストランにも大きなワインセラーが設けられており、これまで以上にワインに力が入れられていることです。いわゆる日本ワイン法も施行されただけに、国内外のゲストが日本やフランスを始めとしたワインをますます楽しめると思います。

食以外の注目点についても、少し挙げておきましょう。

オークラ プレステージタワーのロビー階にあるオークラ・ランターンは圧巻です。LEDを用いるなどして機能性を向上させながらも、外見は以前と全く同じなので驚かされます。ロビーはあえて天井を高くしすぎず、雰囲気を継承しているので、まさにオークラらしいゲストへの配慮、ホスピタリティであるといえるでしょう。

世紀の大事業

オークラ・ランターンが吊り下げられたロビー@オークラ プレステージタワー/著者撮影
オークラ・ランターンが吊り下げられたロビー@オークラ プレステージタワー/著者撮影

The Okura Tokyoの開業は世紀の大事業とも形容されているだけに、ディテールを紹介し、その細部を紐解いていったのであれば、優に1冊の本が書けるくらいの分量になります。

ただ、ここまで紹介してきたことを頭に入れていただければ、国内外から多くの関心が寄せられるThe Okura Tokyoについて、食を通してより深く理解し、より楽しく過ごせてもらえるのではないかと思っています。