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2019年冬に注目したい三ホテルの美食フレンチとその背景

東龍グルメジャーナリスト
真鴨のパイ/洋梨/トリュフ@ホテルニューオータニ/著者撮影

冬のフレンチ

寒さも深まってきており、日本気象協会によると、今季は2019年1月12日に東京都心で初雪が観測されました。平年より9日、昨年より12日遅い初雪であり、日本各地でも初雪が観測されたということです。

この寒い時期は自宅に閉じこもりがちになる人も多いかもしれませんが、美食の世界では当てはまりません。特にフランス料理において、今は最もおいしいシーズンです。グルメ好きの方は様々なレストランを食べ回っているのではないでしょうか。

秋が深まる頃には白トリュフの短い旬が始まり、ジビエも出回り始めます。このどちらともフランス料理では待ちに待った食材なのです。そして、白トリュフが終わった頃には、味も色も深まった黒トリュフの出番となります。

フランス料理ではバターやクリームをしっかりと使うので、寒い冬にとてもおいしく感じられるということもあるでしょう。

今回はこの寒い時期に注目したい一流ホテルのフレンチを紹介します。

  • レ セゾン(帝国ホテル 東京)

黒トリュフフェア

  • ブリーズヴェール(ザ・プリンス パークタワー東京)

スペシャリテ

  • ベッラ・ヴィスタ(ホテルニューオータニ)

世界で活躍する日本人シェフ

それぞれのフレンチにはどういった背景があるのかも詳らかにしていきましょう。

レ セゾン(帝国ホテル 東京)

黒トリュフをあしらった“レセゾン”スタイル@帝国ホテル 東京/著者撮影
黒トリュフをあしらった“レセゾン”スタイル@帝国ホテル 東京/著者撮影

フランス料理で1月の旬菜といえば、森の宝石とも形容される黒トリュフで間違いないでしょう。白トリュフの旬が終わり、ジビエが出回り始め、そして、黒トリュフの美食の冬が彩られます。

ミシュランガイドで1つ星を獲得する帝国ホテル 東京「レ セゾン」では、毎年恒例の黒トリュフのコースを2018年12月17日から提供していますが、他の黒トリュフコースとは少し違います。

「レ セゾン」でシェフを務めるティエリー・ヴォワザン氏が、16年間師事したフランスの3つ星シェフ、ジェラール・ボワイエ氏から伝授された「黒トリュフのパイ包み焼き」を始めとして、どの料理にも惜しげもなく黒トリュフを用いているのです。

コース内容

黒トリュフのプレゼンテーション@帝国ホテル 東京/著者撮影
黒トリュフのプレゼンテーション@帝国ホテル 東京/著者撮影

そのヴォワザン氏による黒トリュフたっぷりのコースとは以下の通り。

Menu Truffe

  • 黒トリュフをあしらった“レセゾン”スタイル
  • アーティチョークのカプチーノ仕立て トリュフを浮かべて
  • 黒トリュフとじゃがいものサラダ
  • 季節の野菜のポトフ 黒トリュフと花塩を散りばめて
  • ジェラール・ボワイエ氏 直伝の黒トリュフのパイ包み焼き
  • ブリヤ・サヴァラン トリュフ
  • トリュフのガナッシュとベニエ
  • カフェとショコラ

最後のメニュー以外には全てトリュフという文字が見掛けられ、黒トリュフ尽くしであることが容易にみてとれるでしょう。

しかも、最後の「カフェとショコラ」でも、「レ セゾン」特製の黒トリュフのショコラが1粒提供されるので、メニューに記載されていないアミューズを除いて全てのメニューで黒トリュフが使われていることになります。

毎年コースで使われている黒トリュフの分量は数十グラム単位と非常に多く、美食がひしめく東京のフランス料理店の中でもトップクラスのボリュームであるといってよいでしょう。

昨年と比べると料理の半分くらいが新しくなっているので、リピーターにも楽しめる内容となっています。

注目料理

黒トリュフとじゃがいものサラダ@帝国ホテル 東京/著者撮影
黒トリュフとじゃがいものサラダ@帝国ホテル 東京/著者撮影

「黒トリュフをあしらった“レセゾン”スタイル」は刻んだ根セロリやアーティチョーク、マッシュルーム、カニ身、インゲン、フォアグラのコンフィ、アマランサスの葉から構成されており、仕上げに黒トリュフをスライスしてもらえます。

フレッシュな根セロリを食すことは日本では珍しいことですが、独特な風味のあるセロリが黒トリュフの妖艶な香りにぴったりでしょう。黒トリュフをスライスする際に、100グラムを軽く超えるような黒トリュフが、背の高いガラス製のクロッシュに載せられて運ばれて来るのも圧巻です。

季節の野菜のポトフ 黒トリュフと花塩を散りばめて@帝国ホテル 東京/著者撮影
季節の野菜のポトフ 黒トリュフと花塩を散りばめて@帝国ホテル 東京/著者撮影

「黒トリュフとじゃがいものサラダ」は、食味に優れた「インカのめざめ」と黒トリュフが使われており、最も高価なサラダであるといってもよいかもしれません。黒トリュフはブロック状になっており、百合根のような食感も楽しめますが、黒トリュフのテクスチャを存分に満喫できるのはなかなかできない体験でしょう。周りに配されたルッコラやアンディーブによって、軽やかな歯触りと心地よい苦味がもたらされています。

「季節の野菜のポトフ 黒トリュフと花塩を散りばめて」は根菜類たっぷりで、野菜をいただくためのポトフ。美しく面取りされたカブ、ジャガイモ、アーティチョークがごろりと入れられており、フルール・ド・セルが豊かな滋味を与えています。厚切りの黒トリュフが浮かべられており、黒トリュフもしっかり食べられるという豪快なポトフです。

ジェラール・ボワイエ氏 直伝の黒トリュフのパイ包み焼き@帝国ホテル 東京/著者撮影
ジェラール・ボワイエ氏 直伝の黒トリュフのパイ包み焼き@帝国ホテル 東京/著者撮影

「ジェラール・ボワイエ氏 直伝の黒トリュフのパイ包み焼き」は、ボワイエ氏のスペシャリテであり、ヴォワザン氏のシグネチャーディッシュ。今でこそ他のフランス料理店でも見掛けられたりしますが、こちらが元祖です。丸ごと1個の黒トリュフがフォアグラと共にパイ包み焼きにされているので、カットすると実に蠱惑的な素晴らしい香りが広がります。ソースは黒トリュフとマデラ酒を使ったソース・ペリグー。

「トリュフのガナッシュとベニエ」は黒トリュフと角切りとガナッシュを包み込んだベニエです。ハチミツとビネガーのグラスにも黒トリュフが感じられ、黒トリュフがデザートにもよく合うことが示されています。

背景

トリュフのガナッシュとベニエ@帝国ホテル 東京/著者撮影
トリュフのガナッシュとベニエ@帝国ホテル 東京/著者撮影

今年の黒トリュフの質について、ヴォワザン氏は「例年と同様に、とてもよいものが入ってきている。昨年以上に質が高く、香りの良さが際立っており、量もよく採れているようだ」と、今年は黒トリュフの当たり年であると説明します。

産地に関しては「フランス産の黒トリュフを使用している。地域は限定せず、フランス産の質のよいものを選んで仕入れている」と、黒トリュフの目利きができるヴォワザン氏ならではの回答を寄せます。

昨年のコースとの違いは「火を入れたものと、生で召しあがっていただくものとで食感が異なるので、そのバランスに配慮した。今年の黒トリュフの強みである香りのよさを活かすため、1品目には香りを最大限楽しんでいただけるように生の黒トリュフを削り、楽しんでいただけるメニューを取り入れた」と、最初に黒トリュフを削る料理を構成した理由を述べます。

最後に「黒トリュフの香りが素晴らしいとゲストからご意見をいただいている。引き続き来年も開催していきたい」と話します。

黒トリュフの魅力は何といっても、その妖艶な香りにありますが、ヴォワザン氏のパイ包み焼きにしのばされた黒トリュフがどのような旬の香りを放つのか、来年も引き続き楽しみです。

ブリーズヴェール(ザ・プリンス パークタワー東京)

フルムダンベールとナッツ ドライフルーツのテリーヌ@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影
フルムダンベールとナッツ ドライフルーツのテリーヌ@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影

フランス料理などでよく使用される言葉に、スペシャリテがあります。スペシャリテとは、そのレストラン、および、シェフや料理長が自信を持って提供する看板メニューのことです。

冷前菜であったり、温前菜であったり、魚料理であったり、肉料理であったりと、様々なものがあります。看板メニューであるだけに通年提供されることもありますが、季節の食材を用いた、旬だけの料理といった場合も珍しくありません。

いずれにせよ、スペシャリテはそのレストランのイチオシ料理なので、体験できるのであればお勧めします。

そういった状況にあって、スペシャリテ尽くしのコースを食べられるホテルのフレンチがあります。

それは、ザ・プリンス パークタワー東京の最上階にある「ブリーズヴェール」です。

「ブリーズヴェール」は33階という高層階からの圧倒的な眺望を誇り、<女性料理人はなぜ活躍しにくいのか? 女性料理人の意義と強み>でも紹介したように、優秀な料理人をたくさん輩出しています。

この「ブリーズヴェール」では通年にかけて料理長である吉田功氏のスペシャリテを楽しめるコース「Specialty」が提供されているのです。

コース内容

帆立貝のポワレ トリュフとかぶのサラダ仕立て@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影
帆立貝のポワレ トリュフとかぶのサラダ仕立て@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影

2019年1月始めに提供されたコースは以下の通りでした。

Specialty

  • フルムダンベールとナッツ ドライフルーツのテリーヌ
  • 帆立貝のポワレ トリュフとかぶのサラダ仕立て
  • フォアグラのカダイフ包み焼き グリーンペッパーのアクセント
  • オマール海老のナージュ仕立て リゾットとスパイス風味
  • 真鱈のポワレ 春菊のクーリ ポロ葱のアラクレーム
  • 和牛リブロース肉のローストビーフ
  • イチゴのヴァシュラン マスカルポーネアイスクリーム
  • コーヒーと小菓子

フロマージュを使ったテリーヌやカダイフを使った包み焼き、さらにはオマール海老のナージュとローストビーフは「ブリーズヴェール」の定番メニューです。旬の帆立貝や真鱈に加えて、黒トリュフも使われています。

内容は2ヶ月くらいで内容は新しくなりますが、定番のローストビーフはいつも提供されているのが嬉しいところでしょう。

注目料理

フォアグラのカダイフ包み焼き グリーンペッパーのアクセント@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影
フォアグラのカダイフ包み焼き グリーンペッパーのアクセント@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影

「フルムダンベールとナッツ ドライフルーツのテリーヌ」は口当たりのよいチーズ「フロムダンベール」と香ばしいナッツ、味わいが凝縮されたドライフルーツのテリーヌ。フロマージュを用いたテリーヌはその豊かな香りで食欲をかきたてます。

「帆立貝のポワレ トリュフとかぶのサラダ仕立て」は、真ん中にホタテ貝のポワレを配し、その上にはスライスしたカブと刻んだ黒トリュフ。周りにはスライスしたカブとマーシュを散らしています。

「フォアグラのカダイフ包み焼き グリーンペッパーのアクセント」は吉田氏のシグネチャーディッシュ。フォアグラを包み込んだカリカリのカダイフに仕上げています。グリーンペッパーを効かせたトマトソース、赤ワインのピューレが添えられ、上にはたっぷりのハーブが散らされています。

オマール海老のナージュ仕立て リゾットとスパイス風味@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影
オマール海老のナージュ仕立て リゾットとスパイス風味@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影

「オマール海老のナージュ仕立て リゾットとスパイス風味」はオマール海老の身と濃厚なアメリケーヌソース。旬のオマール海老は引き締まった肉にも旨味がふんだんにしのばされています。下には適度なかたさのスペルト小麦のリゾットが敷かれており、食感のコントラストを楽しめるでしょう。

「和牛リブロース肉のローストビーフ」は赤身の旨味と脂の豊かさを感じられるローストビーフで、「ブリーズヴェール」の定番。リブロースなので心地よい霜降りとなっており、ホースラディッシュ、ワサビ、粒マスタードソース、ヒマラヤ岩塩、ポン酢とコンディメントも豊富です。ガルニチュールのタロイモ、プチヴェールにはほくほく感があるので、ローストビーフの合間に食すと、よい箸休めにもなります。

イチゴのヴァシュラン マスカルポーネアイスクリーム@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影
イチゴのヴァシュラン マスカルポーネアイスクリーム@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影

「イチゴのヴァシュラン マスカルポーネアイスクリーム」は、周りにたっぷりのイチゴ、上にはマスカルポーネアイスクリームがあり、下にはメレンゲ。メレンゲと氷菓のコンビネーションを楽しめるデザートです。

また、オリーブオイルには老舗であるスペインの創業1780年カスティージョ・デ・カネナの早摘みエキストラバージンオリーブオイルが提供されています。「ブリーズヴェール」ロゴが入ったオリジナルデザインが使用されているのは、他のレストランにはないところでしょう。

背景

和牛リブロース肉のローストビーフ@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影
和牛リブロース肉のローストビーフ@ザ・プリンス パークタワー東京/著者撮影

最初のテリーヌや温菜のカダイフも「ブリーズヴェール」の定番ですが、吉田氏が特にこだわり、常時提供されているのが「和牛リブロース肉のローストビーフ」です。

使用している肉について尋ねると「熟成された食べごろの肉を厳選している。熟成された肉は余分な水分が抜けてアミノ酸が増え、旨味が増しているのおいしい」と説明します。

調理過程については「和牛リブロース肉はヴァージンソルトと黒粒こしょうをまぶし、7時間寝かせたものを、低温で3時間じっくり焼き上げている」として、素材を労るかのように、ゆっくりと味を入れて、少しずつ熱を入れていきます。

さらには「その後また2時間寝かせ、ベストな状態に仕上げてから、ゲストにご提供している」と最後まで計算され尽くしていると述べます。

季節によって内容は新しくなりますが、基本的にはスペシャリテで構成されたコースなので、いつ訪れても新鮮味がありながらも安心できるフランス料理であるといえるでしょう。

ベッラ・ヴィスタ(ホテルニューオータニ)

玉葱/トリュフ@ホテルニューオータニ/著者撮影
玉葱/トリュフ@ホテルニューオータニ/著者撮影

フランスでは、日本人シェフがミシュランガイドで星を獲得したり、日本人が有名店のスーシェフを務めていたりと、今では日本の料理人は高く評価されています。日本での修行経験がなく、フランスだけで修行してから帰国し、日本でオープンしたレストランが早速ミシュランガイドで1つ星を獲得したオーナーシェフもいるなど、料理人のキャリアも様々です。

海外で活躍する日本の料理人がたくさんいるのは嬉しいですが、その料理人の味を日本ではなかなか体験できないという悩みも生まれています。

しかし、その悩みを解決するかのように、世界で活躍する日本人シェフの味を日本で体験できるフェアがあります。

それは、ホテルニューオータニ「ベッラ・ヴィスタ」で行われている「世界で活躍する日本人シェフフェア」です。

世界で活躍する日本人シェフフェア

  • 第1弾 2015年5月「PASSAGE 53」
  • 第2弾 2016年8月「RISTORANTE TOKUYOSHI」
  • 第3弾 2017年3月「PASSAGE 53」
  • 第4弾 2017年8月「RISTORANTE TOKUYOSHI」
  • 第5弾 2018年2月「THE GASTRONOMY」
  • 第6弾 2018年8月「MAISON by Sota Atsumi」
  • 第7弾 2018年11月「PASSAGE 53」
  • 第8弾 2019年1月「Alliance」

2019年1月18日から20日にかけて、フランス・パリ5区のセーヌ川近くのレストラン「Alliance(アリアンス)」フェアが初めて開催されています。

第8弾の主役となる「Alliance」のオーナーシェフを務めるのは、大宮敏孝氏です。

大宮敏孝氏のプロフィール

1979年大阪生まれ。大阪の辻調理師専門学校で料理を学び、3年間イタリア料理店で勤務。その後、フランス料理に興味を持ち、2001年に22歳で渡仏。

「L’Astor」「Arpege」「Le Cinq」「L'Agape」などの数々の有名店で修業を積み、2015年「L'Agape」の同僚でディレクターをしていたショーン(現在の共同経営者)と共に「Alliance」をオープン。「Alliance」はフランス語で結婚・結束を意味し、名称の由来は、レストランは1人ではなくチームで作っていくもの、という気持ちを込めて付けた。開店して2年後の2017年、ミシュラン1つ星を獲得。

大宮氏は2001年に渡仏してから、フランスでずっと活躍してきた料理人なので、日本で大宮氏の味を楽しめるのは非常に貴重な機会であるといってよいでしょう。

コース内容

芋/キノコ/エシャロット@ホテルニューオータニ/著者撮影
芋/キノコ/エシャロット@ホテルニューオータニ/著者撮影

ディナーコースは次の通りです。

ディナー

  • タルトレット/洋ネギ/トリュフ
  • タルトレット/卵黄/キャヴィア
  • 玉葱/トリュフ(アミューズブーシュ)
  • 雲丹/グレープフルーツ/カンパリ
  • 芋/キノコ/エシャロット[スペシャリテ]
  • 的鯛/菊芋/トリュフ
  • フォアグラ/野菜のポトフ/鴨のコンソメ[スペシャリテ]
  • 真鴨のパイ/洋梨/トリュフ
  • 柑橘類(プレデザート)
  • チョコレート/トリュフ
  • ミニャルディーズ

シェフのおすすめメニューとして、食後のフロマージュ「アリアンス」スタイル(ブリアサヴァラン/トリュフ)を別料金で追加可能

全部で11皿が提供されており、キクイモや洋ネギ、エシャロット、フォアグラやトリュフといったフレンチの食材が見掛けられます。大宮氏のスペシャリテがしっかりと含まれているのも特筆するべきところです。

注目料理

的鯛/菊芋/トリュフ@ホテルニューオータニ/著者撮影
的鯛/菊芋/トリュフ@ホテルニューオータニ/著者撮影

「玉葱/トリュフ」は1日かけてじっくりと火入れしたタマネギの甘味と香りを楽しめるアミューズブーシュ。トッピングされているのは、黒トリュフの天かすとタマネギの天かす。黒トリュフを揚げること自体が珍しいことなので、とても貴重なテクスチャとフレーバーを体験できます。

「雲丹/グレープフルーツ/カンパリ」は、アイルランド産のウニとその殻まで使った冷前菜。グレープフルーツ、サバイヨンソース、カンパリとグレープフルーツの泡といった構成で、グレープフルーツの苦味とウニの甘味がよいコントラストです。

「芋/キノコ/エシャロット」は大宮氏のスペシャリテ。甘味のあるフランス産のジャガイモが使われており、その品種名は店名と同じく「アリアンス」です。ジャガイモの甘味とエシャロットの香り、トランペット茸などヨーロッパ茸の旨味が出色。芋煮にも似ているので、日本人にとって懐かしい味わいと感じられるかもしれません。

「的鯛/菊芋/トリュフ」は、マトウダイのポワレにキクイモと黒トリュフを合わせ、マトウダイの旨味とキクイモの甘味が調和した一品。キクイモはミルクで煮込み、ソースはそのミルクと黒トリュフから作られています。下はバターソースで、キクイモのチップを添え、刻んだ黒トリュフの細切りがふんだんに載せられています。

フォアグラ/野菜のポトフ/鴨のコンソメ@ホテルニューオータニ/著者撮影
フォアグラ/野菜のポトフ/鴨のコンソメ@ホテルニューオータニ/著者撮影

「フォアグラ/野菜のポトフ/鴨のコンソメ」も大宮氏のスペシャリテ。カモのコンソメはビーフのコンソメよりもさっぱりしていますが、チキンのコンソメよりもコクが深いです。ジンジャーの風味も実に豊かで爽やか。載せられたフォアグラは柔らかく、あまり脂を感じさせません。

「真鴨のパイ/洋梨/トリュフ」は黒いプレートに載せられて提供されます。パイ包み焼きの中に包まれているのは、マガモのフィレ肉とフォアグラ、カモの心臓。バターの香り豊かなパイとよく合うでしょう。濃厚なソースはカモのジュで作られており、付け合せのグラチネした洋梨は瑞々しいです。

食後のフロマージュは料金を追加すれば、体験できます。「ブリアサヴァラン/トリュフ」はブリアサヴァランに黒トリュフを挟んでミルフィーユ風に仕上げた逸品。ブリアサヴァランのまろやかな味わいに黒トリュフの色香が加わり、大人の味わいに昇華されています。

背景

真鴨のパイ/洋梨/トリュフ@ホテルニューオータニ/著者撮影
真鴨のパイ/洋梨/トリュフ@ホテルニューオータニ/著者撮影

「世界で活躍する日本人シェフフェア」は今回で8回目となりますが、「Alliance」フェアの開催はいつ決まったのでしょうか。

ホテルニューオータニでマーケティング課長を務める岩崎州彦氏は「2017年の夏には開催が決定していた。実際にパリへ訪れて食事もいただいた。若くて才能があり、目を引くスペシャリテを有するシェフを探していたので、大宮氏しかないと考えていた」と振り返ります。

また決定した後については「大宮氏は2018年4月と8月に来日し、日本で入手できる食材で、いくつものテスティングを行った。非常に真摯に取り組んでもらっており、緻密かつ完璧に準備を行ってきた。これだけのクオリティであれば、必ずゲストにご満足いただけるはず」と自信のほどを窺わせます。

「Alliance」はミシュランガイドで1つ星を獲得しており、プロフェッショナルな審査員から評価されているだけではなく、トリップアドバイザーではパリのレストラン約16238店の中で堂々の46位(記事執筆2019年1月20日時点)、つまり上位0.3%以内に位置付けられており、世界中のレビュアーからも極めて高く評価されているのです。

今フェアの特徴について尋ねると「Alliance」オーナーシェフの大宮氏は「パリと同じ味を東京で再現しているのが大きな特徴。チーム全員で訪れたいという要望を、ホテルニューオータニに快諾していただいた。サービススタッフは3人、キッチンスタッフは私を含めて8人が来日している」と答えます。

大宮氏はチーム力を重視し、チームを大切にしているので、店名に「同盟」や「提携」を意味する「Alliance」を名付けたのです。

ブリアサヴァラン/トリュフ@ホテルニューオータニ/著者撮影
ブリアサヴァラン/トリュフ@ホテルニューオータニ/著者撮影

苦労した点については「普段パリでは20席くらいの規模で営業しているが、今フェアでは大人数のゲストがいらっしゃるので、いつもと同じようにはいかない。段取りやバランスを考え、効率よく進められるように熟慮した」とガラディナーならではの苦労を語ります。

大宮氏はつい先日、2号店となるビストロをオープンして多忙を極めていますが、今後はこのようなフェアを行うのでしょうか。

「最初にこのイベントの話をいただいた時には大変嬉しかった。22歳で日本を出てからずっとフランスで料理をつくってきた。日本に愛着があり、親孝行や恩返しをしたいので、今後も機会があれば日本でイベントを行っていきたい」とはっきり述べます。

大宮氏は料理に対する情熱が溢れる、日本が世界に誇れる素晴らしい料理人の一人であるだけに、これを機会にして、日本でも定期的にイベントが行われることを期待したいです。

この時期は特においしいフランス料理

今冬のホテルフレンチの注目どころとして、旬の黒トリュフを贅沢に用いた料理たち、スペシャリテを堪能できるコース、そして、世界で活躍する日本人シェフのフェアを紹介してきました。

日本気象協会が発表した3ヶ月予報によれば、2019年の1月から3月にかけては、全国的に気温は平年並か平年以上となる確率が高いということです。

厳しい寒さは襲ってこないようなので、出不精を解消するためにも、外食する計画を立てて、この時期は特においしいフランス料理を食べてみるのもよいのではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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