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美食家であれば知っておくべき、世界で最も有名な双子の料理人とは?

東龍グルメジャーナリスト
秋田県産短角牛サーロインのポワレ(著者撮影)

兄弟の料理人

兄弟で切り盛りするレストランといえばどこを思い浮かべるでしょうか。

<今最も信頼されている食のアワード「世界のベストレストラン50」を知る>でも紹介した「世界のベストレストラン50」で2013年と2015年に第1位に選出されたスペインの「アル・サリェー・ダ・カン・ロカ」を挙げる方は多いと思います。

1986年にジョアン・ロカ氏とジョセップ・ロカ氏がスペインのジローナにオープンしたレストランで、2007年には三男のジョルディ・ロカ氏もジョインしました。ジョアン氏はシェフ、ジョセップ氏はソムリエ、そして、2014年に「世界の最優秀パティシエ賞」も獲得したジョルディ氏はパティシエと、三兄弟がレストランの柱となっているのです。

ジャック&ローラン・プルセル兄弟

「アル・サリェー・ダ・カン・ロカ」は勢いのあるレストランであり、非常に素晴らしいです。ただ、このロカ三兄弟が有名になるよりも前から、既に名を馳せていた兄弟が腕を振るうレストランがあります。

そのレストランとはジャック・プルセル氏とローラン・プルセル氏の「ル・ジャルダン・デ・サンス」です。

ジャック氏とローラン氏は双子の料理人であり、1988年に23歳で「ル・ジャルダン・デ・サンス」をオープンし、それから僅か10年後に、33歳という信じられない若さでミシュランガイド3つ星を獲得するという快挙を成し遂げました。

プルセル兄弟による料理の特徴

ジャック&ローラン・プルセル兄弟による料理の特徴は何でしょうか。

フランスのラングドック地方や地中海料理をベースとしており、フルーツの甘味や酸味などの対照的な調味料と合わせることで素材の持つ旨味を何倍にも増幅させる「シュクレ・サレ(甘味、塩味)」、陸と海の食材を合わせることによって相乗効果を生み出す「テル・エ・メール(大地と海)」が特徴です。

当時の王道であった重厚でクラシカルなフランス料理を独自の感性で再構築して軽やかにし、素材と調味料の組み合わせから驚きを生み出す料理は、他にはないという敬意をもってプルセル・キュイジーヌと呼ばれています。

影響を与えた海外の料理人

ジャック&ローラン・プルセル兄弟はフランスだけではなく、アジアや中近東、欧米など世界中の料理人に影響を与えています。

現在アジアで最も注目され、勢いのある料理人のひとりである台湾人のアンドレ・チャン氏は「ル・ジャルダン・デ・サンス」で9年間も修行しています。

チャン氏がオーナーシェフを務める「レストラン・アンドレ」は、ミシュランガイドで2つ星を獲得しており、「アジアのベストレストラン50」で2015年からずっと5位以内、2017年「世界のベストレストラン50」では14位となっている、シンガポールで一番評価されていると言ってもよいレストランです(現在は新店オープンのため閉店)。

影響を与えた日本の料理人

日本人の料理人もプルセル兄弟の影響を受けています。

2007年からミシュランガイドで3つ星を獲得し続け、2017年「アジアのベストレストラン50」で18位となった「カンテサンス」オーナーシェフの岸田周三氏は「ル・ジャルダン・デ・サンス」でチャン氏と共に働いた時期がありました。

2017年「アジアのベストレストラン50」で14位、ミシュランガイド2つ星「フロリレージュ」オーナーシェフの川手寛康氏は最初の修行先として「ル・ジャルダン・デ・サンス」に飛び込んでいます。

「ル・ジャルダン・デ・サンス」は現代の日本で一流とされる料理人たちが若かりし時に是非とも働きたいと考えたフランス料理店であり、彼らの料理哲学の礎を築いたといっても過言ではないでしょう。

サンス・エ・サヴール

左がローラン・プルセル氏、右が鴨田猛氏(著者撮影)
左がローラン・プルセル氏、右が鴨田猛氏(著者撮影)

プルセル兄弟は世界の料理人に大きな影響を与えてきましたが、実はこの日本に、ジャック&ローラン・プルセル兄弟が手掛ける海外店舗があります。

それは、日本のファインダイニングをリードする「ひらまつ」が丸の内ビルディング35階に2002年オープンした「サンス・エ・サヴール」です。オープン以来、日本でも「プルセル・キュイジーヌ」を体験できるということで非常に注目されてきました。

プルセル兄弟の料理が味わえるのは、本店のあるフランス・モンペリエ以外では、サンス・エ・サヴール(2002年開業)、スリランカ(2014年開業)とベトナム・ホーチミン(今年1月開業)の3店となります。

そして、ローラン・プルセル氏が日本へ訪れて作り上げる「ローラン・プルセル来日ガラディナー」が、先日3月15日に一夜限りで行われました。

このガラディナーでは、ローラン氏が考案した黒トリュフを使った料理と、ローラン氏とゆかりのあるラングドッグ地方で最高のワインを作り続ける「シャトー・ペッシュ・オー」のワインを楽しむ会となっています。

コース内容

コース内容は以下の通りです。

  • Amuse bouche
  • 北海道産毛蟹 トマトのソルベとココナッツミルク シャンパンのエスプーマ 岩手県産殻付き帆立貝 セロリとバターナッツ南瓜 黒トリュフのヴィネグレット
  • アスパラガスのジュレと鶉卵のポッシェ 大分県産豊後さば 鶉卵のポッシェ 小玉葱のグリエ 黒トリュフのピュレ
  • 黒トリュフの香りを纏ったじゃがいものニョッキ 埼玉県小川町産有機菊芋と西洋ごぼうのグラッセ パルメザンチーズとバニラミルクのエムルッション
  • 山口県萩産的鯛の蒸し焼き モリーユ茸とヴァンジョーヌのソース 空豆と蛤と生ハム ヘーゼルナッツのクランブルを添えて
  • 秋田県産短角牛サーロインのポワレ 黒トリュフのクルート カルダモン風味の人参のピュレ ジャガイモと黒トリュフのクロケット フォワグラと黒トリュフのジュー
  • 愛媛県産ブラッドオレンジ ジュレとソルベ ヴェルヴェーヌのエムルッション
  • 柚子の香るショコラガナッシュと栗のクロッカン 黒トリュフのアイスクリーム カフェのキャラメル
  • コーヒーと紅茶、小菓子

フランスで旬の黒トリュフをふんだんに使い、黒トリュフと日本の食材を組み合わせた料理となっており、冬から春への移ろいも表現しています。

プルセル・キュイジーヌの特徴である陸と海の取り合わせ、甘味と塩味の妙味に加えて、フランスと日本の融合、冬と春の旬味を楽しめるのが特徴的です。

北海道産毛蟹 トマトのソルベとココナッツミルク シャンパンのエスプーマ 岩手県産殻付き帆立貝 セロリとバターナッツ南瓜 黒トリュフのヴィネグレット

北海道産毛蟹 トマトのソルベとココナッツミルク シャンパンのエスプーマ 岩手県産殻付き帆立貝 セロリとバターナッツ南瓜 黒トリュフのヴィネグレット(著者撮影)
北海道産毛蟹 トマトのソルベとココナッツミルク シャンパンのエスプーマ 岩手県産殻付き帆立貝 セロリとバターナッツ南瓜 黒トリュフのヴィネグレット(著者撮影)

北海道産の毛蟹のほぐし身にココナッツミルクを合わせたことも創造的ですが、帆立貝という海の食材に、山のバターナッツとタピオカを取り合わせたのもプルセル・キュイジーヌらしいところでしょう。

アスパラガスのジュレと鶉卵のポッシェ 大分県産豊後さば 鶉卵のポッシェ 小玉葱のグリエ 黒トリュフのピュレ

アスパラガスのジュレと鶉卵のポッシェ 大分県産豊後さば 鶉卵のポッシェ 小玉葱のグリエ 黒トリュフのピュレ(著者撮影)
アスパラガスのジュレと鶉卵のポッシェ 大分県産豊後さば 鶉卵のポッシェ 小玉葱のグリエ 黒トリュフのピュレ(著者撮影)

翡翠色のアスパラガスのジュレによる美しくて軽やかなモダンキュイジューヌ。豊後サバや鶉の卵を合わせ、さらには黒トリュフでアクセントを加えており、他では出会えない一皿になっています。豊後サバはローラン氏をもってして「脂がのっているだけではなく旨味もしっかりとある。口溶けもよく、しっかりしているが軽快」と言わしめるほどです。

黒トリュフの香りを纏ったじゃがいものニョッキ 埼玉県小川町産有機菊芋と西洋ごぼうのグラッセ パルメザンチーズとバニラミルクのエムルッション

黒トリュフの香りを纏ったじゃがいものニョッキ 埼玉県小川町産有機菊芋と西洋ごぼうのグラッセ パルメザンチーズとバニラミルクのエムルッション(著者撮影)
黒トリュフの香りを纏ったじゃがいものニョッキ 埼玉県小川町産有機菊芋と西洋ごぼうのグラッセ パルメザンチーズとバニラミルクのエムルッション(著者撮影)

ローラン氏が最も食べてもらいたい料理として挙げた一品。フランスの家庭料理をベースとしたホッとする味わいながらも、黒トリュフやバニラの香りが豊かに感じられるので贅沢です。

山口県萩産的鯛の蒸し焼き モリーユ茸とヴァンジョーヌのソース 空豆と蛤と生ハム ヘーゼルナッツのクランブルを添えて

山口県萩産的鯛の蒸し焼き モリーユ茸とヴァンジョーヌのソース 空豆と蛤と生ハム ヘーゼルナッツのクランブルを添えて(著者撮影)
山口県萩産的鯛の蒸し焼き モリーユ茸とヴァンジョーヌのソース 空豆と蛤と生ハム ヘーゼルナッツのクランブルを添えて(著者撮影)

日本の旬の味覚である的鯛に、フランスの高級キノコであるモリーユをマリアージュさせています。まさに大地と海が融合した料理であり、これもプルセル・キュイジーヌらしい味覚です。

秋田県産短角牛サーロインのポワレ 黒トリュフのクルート カルダモン風味の人参のピュレ ジャガイモと黒トリュフのクロケット フォワグラと黒トリュフのジュー

秋田県産短角牛サーロインのポワレ 黒トリュフのクルート カルダモン風味の人参のピュレ ジャガイモと黒トリュフのクロケット フォワグラと黒トリュフのジュー(著者撮影)
秋田県産短角牛サーロインのポワレ 黒トリュフのクルート カルダモン風味の人参のピュレ ジャガイモと黒トリュフのクロケット フォワグラと黒トリュフのジュー(著者撮影)

とても希少な日本短角牛を使ったメインディッシュ。日本短角牛は、脂があまりのっていませんが、赤身の芳醇さと旨味を堪能できる和牛です。黒トリュフのクルートを重ね、日本短角牛の新たな味わい方を提案した挑戦的なヴィアンド(肉料理)。

柚子の香るショコラガナッシュと栗のクロッカン 黒トリュフのアイスクリーム カフェのキャラメル

柚子の香るショコラガナッシュと栗のクロッカン 黒トリュフのアイスクリーム カフェのキャラメル(著者撮影)
柚子の香るショコラガナッシュと栗のクロッカン 黒トリュフのアイスクリーム カフェのキャラメル(著者撮影)

日本の柚子と栗に加え、ここでも黒トリュフが使われています。フランスと日本の食文化が融合したアシェットデセールです。

小菓子

小菓子(著者撮影)
小菓子(著者撮影)

黒蜜のカヌレ、レモンとジンジャーのパート・ド・フリュイ、マカロン。越前塗りのオリジナルの容器で提供されており、和を感じさせます。

開催の背景

プルセル・キュイジーヌを存分に堪能できるガラディナーでしたが、開催された経緯は何だったのでしょうか。

「サンス・エ・サヴール」は丸ビルと共に2002年にオープンしましたが、それ以来、年に1~2回もローラン・プルセル氏が来日し、ガラディナーを開催しています。

今回のガラディナーも恒例のイベントでしたが、これまでとは違って、フランスの黒トリュフと日本の食材、冬から春への移ろいをテーマにしたところが新しいです。

日本全国で食材探し

ローラン氏が、氏の右腕であり、2012年から「サンス・エ・サヴール」料理長を務める鴨田猛氏と共に日本全国を巡って食材を探しました。

日本の食材であれば何でもよかったということではありません。日本における春の味覚として思い浮かべられる山菜は食味が強過ぎて繊細なプルセル・キュイジーヌに適さないということで使われませんでした。

2人で分業

来日したのはローラン・プルセル氏だけであり、ジャック・ローラン氏はフランスに残っていますが、なぜでしょうか。

それは、プルセル兄弟が2人ともフランスにいないことがないようにしているからです。

また、ローラン氏とジャック氏がそれぞれの強みを生かして分業しています。職人気質のローラン氏がキッチンを主導し、ジャック氏が経営を司っているので、日本でのガラディナーにはローラン氏が訪れているのです。

双子の料理人

双子の料理人ということで、他の料理人と違うところはあるかと質問すると、ローラン氏は「なかなか双子の料理人はいない。ディスカッションして2人で学んでいける。頭が2つあり、調理するのも2人で、進化も早い」と笑顔で答えます。

日本について尋ねると「日本はとても大切な場所。最初は右も左も分からなかったが、少しずつ日本の文化を学んできた。日本人の真っすぐに働く姿勢、ひたむきさに感銘している。地中海料理は様々な文化が触れ合っているので、海に囲まれて山もある日本に合う」と真摯な眼差しで説明します。

鴨田氏が「伝説のシェフと働けるのは光栄」と感慨深く述べれば、ローラン氏は「ずっと一緒に働いており、南フランスで修行もしている。とても信頼し、安心して任せている」と返すなど、2人の信頼関係の深さが窺えます。

五感を大切にしている

「ル・ジャルダン・デ・サンス」は「五感の庭」を、「サンス・エ・サヴール」は「五感の追求」を意味しており、ジャック&ローラン・プルセル兄弟は五感による体験をとても大切にしています。

ローラン氏は「今後も引き続きガラディナーを開催し、日本で出会ったものや感じたものを地中海の料理を通じて表現していきたい。日本での体験はフランスに帰った時にもよいインスピレーションとなる」と力強く話すので、ローラン氏による五感を追求したプルセル・キュイジーヌは今後も日本で楽しめるはずです。2018年4月19日に「季節の新作ディナー会」も行われるので、今回のローラン氏の来日がどのように新メニューに反映されるのか、期待したいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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