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飲食店が本当はやめたい5つのこと

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

喫煙やお通しを廃止

飲食店が禁煙にしたり、お通しをやめたりすると、売上はどうなるでしょうか。

その問いを投げかけて、答えた記事を先日読みました。

【月商200万円の店の場合】

 喫煙者の売上分100万円のうち40万円分のお客さんは失った。残った60万円分のお客さんは、面倒ながらも喫煙所に煙草を吸いに行ってくれる。代わりに禁煙になったことで、女性客やファミリー客を中心に今までそのお店を敬遠していたお客さんが来るようになり、60万円が発生した。結果、月商は220万円に上がり10%の売上増となった。

出典:飲食店、なぜ禁煙にすると売上増える?なぜ「お通し」やめると売上増?

飲食店を全面喫煙から全面禁煙に変えた場合をシミュレーションしています。

喫煙者の割合が全体の50%であり、そのうちの40%が利用をやめたとして、売上が増える例を示しています。

次は、お通しをやめることについてです。

お通し300円の代わりになるべく早く出せるメニューを380円くらいで多く開発して、注文をいただくことができれば、既存客の売上(客単価)を超える可能性が出てきます。

出典:飲食店、なぜ禁煙にすると売上増える?なぜ「お通し」やめると売上増?

300円のお通しをやめる代わりに、それを超えるメニューを開発して注文することによって、顧客満足度を高めると同時に客単価も上げられるということです。

飲食店がやめたがっていること

今回の私の記事では、全面禁煙にしたり、お通しをやめたりすることの是非を問いたり、その効果を検証したりするのではなく、飲食店がやめたいと考えて頭を悩ましている事柄について考えてみます。

喫煙やお通しの他に、飲食店がやめたがっている事柄は、以下のものがあります。

  • 子供の入店
  • アラカルト
  • クレジットカード

子供の入店

ここ最近は、子連れが飲食店を訪れる是非がしばしば議論されています。私も以下の記事を書いています。

小さい子供がいる母親に訪れてもらうために、子連れに優しいことを謳う飲食店も少なくありません。ただ、小さい子供がいることによって、大声をだしたり泣いたりして騒がしくなったり、走り回ったり入ってはいけないところにいたりして危険が生じたり、授乳して他の客に気遣わせたりと、子連れ特有の問題が発現します。時によっては、故意かどうかに関わらず、店内のものを壊してしまうこともあるでしょう。

最近は昔に比べれば子連れの母親も外へ積極的に出るようになっています。飲食店でママ会を行ったりするなど、消費活動に貢献しており、そういった母親をターゲットにしたママ会プランも豊富にあります。こういった層を取り込もうと子連れ客をターゲットにするのは他との差別化する意味でもよい戦略ですが、先に挙げた「子連れリスク」もしっかりと熟知しなければなりません。

アラカルト

飲食店で最も効率がよく、客単価もコントロールできるメニュー構成は、おまかせコースひとつに限定することでしょう。何故ならば、そうすることによって、飲食店の都合で自由に食材を使えて、非常に効率がよくなるからです。

コースを用意するにしても、いくつもコースを用意したり、ひとつのコースだけであっても、前菜やメインディッシュやデザートを幾品の中から選択できるプリフィクスコースであったりすれば、客は自由度が増すので嬉しいですが、飲食店は食材や料理を幅広く準備しておく必要があるので、無駄が生じる可能性が高くなります。

単一のおまかせコースは食品ロスも削減できて、利益も上げられるので、最強のメニュー構成であると言えるでしょう。しかし、単一のおまかせコースしか用意されていない飲食店に訪れたいと思う客は少ないです。客によって財布の懐事情も異なりますし、食べたいものや食べたいボリュームも全く異なるからです。

従って、飲食店にとって最も効率的であるにも関わらず、単一のおまかせコースだけが提供されることは多くありません。こういったことができるのは、ミシュランガイドで星を獲得しているような、どうしてもその飲食店で食べたいと思わせるようなところだけです。

しかしこういった非常に人気の高い飲食店であっても、数品だけ食べたい客のためにアラカルトを用意したり、予算や食べられるボリュームに合わせていくつかのコースを用意したりしていることがほとんどであることを考えれば、それだけメニュー構成が難しいということが理解できるでしょう。

クレジットカード

大きな企業が経営している飲食店やファインダイニングであれば、まず何かしらのクレジットカードが利用できることが普通ですが、このクレジットカードへの加盟についても、飲食店が頭を悩ますところです。

クレジットカードを利用できるようにするためには、クレジットカードに加盟する必要があり、加盟金が必要となります。また、客がクレジットカードを利用すると、飲食店であればその金額に対して4%~7%程度を、手数料としてクレジットカード会社に支払わなければなりません。その手数料分を客に上乗せすることは禁止されているので、実質的に飲食店の負担となります。

こういった事情があるので、飲食店からすれば、客に現金(キャッシュ)で支払ってもらうことが最も嬉しいことであり、客単価の低いランチではクレジットカードの支払ができない場合があったりするのです。

ただ、クレジットカードへの加盟金やクレジットカード利用時の手数料などの負担があったとしても、クレジットカードが利用できることによって、飲食店の信用度が上がったり、大きな現金を持ち合わせていない客の単価を上げられたり、クレジットカードを利用する傾向のある富裕層にリーチできたり、ポイントを蓄えることに執心する客に優先してもらえたりと、飲食店にメリットはあります。

また、クレジットカード会社にとって飲食店は大切である証左として、以下の記事でも紹介しているように、クレジットカードは外食産業での取り組みを行っています。

一般的な感覚からすれば、いくらディナーだからと言って1人1万円を超える支払いをするファインダイニングは金銭的にも心理的にも負担があるでしょう。

それだけに、クレジットカードに加盟するかどうか、どのクレジットカードに加盟するかどうかは飲食店にとってはいつも悩みの種なのです。

飲食店を判断する要素

喫煙、お通しの廃止から、子連れ、アラカルト、クレジットカードなど、飲食店がやめたがっている悩ましい事柄を紹介してきました。

人によって味覚は全く異なりますし、各人における食の原体験から導き出される嗜好が揺るぐことはあまりないでしょう。食に正解は存在せず、飲食店が採用するポリシー・戦略に絶対というものはないだけに、どの飲食店でも多かれ少なかれ、こういったことに頭を悩ませているのです。

「食べログ」や「Retty」など飲食店に関して自由に言及できるサービスがありますが、飲食店を訪れる際には、一皿の料理やサービスだけではなく、こういった要素も鑑みた上で、どういった飲食店であるかどうかを判断してみください。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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