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「店のオススメ」は注文するべきか? 食の醍醐味のありか

東龍グルメジャーナリスト

オススメを頼むべきか

先日、気になる記事を読みました。

それは、NewsPicsでいつもコメントを拝見している弁護士の荘司雅彦氏が書いた<「オススメ」を頼むべきか?>という記事です。

議題は以下のようなものです。

以前、飯島勲氏の著書を読んでいたら「店のオススメは決して頼んではいけない。店側としては儲かるものをオススメにしているので、損をするだけだ」という趣旨のことが書かれていました(細かな違いはご容赦を)。塚崎公義氏の「経済暴論」にも、「お勧めはどれですかと聞いてはいけない」という項目があり、店側にとって利益率の高い商品を勧められる場合が多いと書かれています。

しかし、私の行動規範では、飲食店や居酒屋で「オススメ」があると、多くの場合それを注文します。

飯島・塚崎説と荘司説、はたしてどちらが正しいのでしょうか(笑)

出典:「オススメ」を頼むべきか?

「店のオススメ」は外食の経験がある方であれば、ほぼ全員が目にしたことのある謳い文句でしょう。もしくは、店に「店のオススメ」はどれであるかを尋ねて教えてもらったことがあるのではないでしょうか。

「店のオススメ」の見分け方

荘司氏は「店のオススメ」の見分け方も述べています。

飲食店の店主としては、利幅の高い「オススメ」で一度は客から暴利を得ることができても、私のような客は二度とその店に行かずに別の店に行くでしょうからリピーターを獲得し損ねます。

出典:「オススメ」を頼むべきか?

まずここで、利幅の高いメニューを「店のオススメ」として提供している飲食店では、リピーターがつかないということを説明しています。

しかし、滅多に行かない観光地のような所にある店は「協調行動」をとってリピーターを増やす必要はありません。となれば、思いっきり利幅の高い商品を「オススメ」にする可能性が高いでしょう。

出典:「オススメ」を頼むべきか?

観光地に構える店のように、一見さんを相手にする場合にはリピーターを獲得する必要性は低いので、利幅の高いものを「店のオススメ」にすることが多いということです。

「協調行動」は記事前半では店が他の店と協調する行動をとることを、記事後半では店が客と協調する行動をとることに意味合いが変わっていますが、ここでの話の展開には私も賛同しています。

「店のオススメ」とは

荘司氏の話に端を発して「店のオススメ」について考えてみたいです。

まず大前提として「店のオススメ」とは何でしょうか。

「オススメ」を辞書で調べると、以下のように説明されています。

人に勧める良い品。特に、客に商品を勧める場合にいう。 「本日の-品」

出典:weblio

「良い品」「客に商品を勧める場合」と記されているので、「オススメ」とはやはり 「客にとってよい」ものと考えて差し支えないでしょう。

これを前提として、庄司氏の記事では、「店のオススメ」が「客にとってよい」のではなく、「店にとってよい」ことがあるのではないかと疑義を抱いているのです。

2つのオススメ

このように考えると「店のオススメ」は、以下の2つに分類することができます。

  • 店にとってよい
  • 客にとってよい

それぞれみていきましょう。

店にとってよい

まずは「店にとってよい」です。これをさらに分類すると、以下に分けられます。

  • 利幅が高い
  • 売れ残り
  • 思い入れがある

店にとってよいものは、まず庄司氏も言及していた利幅が高いものが挙げられます。店がより儲かるものであれば、それは店にとってよいものであるに違いありません。

次に、売れ残りですが、これは余った食材で作れるものであったり、既に作ってしまったりしている料理やデザートについてです。

残って翌日以降に持ち越せないものは廃棄となってしまうだけに、これを捌きたいと思うのは店にとってよいことになるでしょう。

最後は少し色合いが違っています。

店にとって、つまり、オーナーやシェフにとって思い入れのあるものだから、「店のオススメ」となっているのです。

味、技術力、人気、トレンドなどとは直接的に関係なく、とにかく思い入れがあって、客に食べてもらいたいことを意味しています。

例えば、昔修行した店で作っていた思い出深い料理がそれに該当するでしょうか。

客にとってよい

次に「客にとってよい」は、以下のように分類できます。

  • 利幅が低い
  • 手間をかけている
  • 客の好み

まずは、利幅が低い場合です。提供する値段に比べて、高価な食材が使われている場合と考えてもらえばよいでしょう。

例えば、黒毛和種やバザス牛、オマールブルーやアワビ、トリュフなどが使われているにも関わらず値段が抑えられている料理は、金銭的に客が得をするということで、客にとってよいものでしょう。

次に、手間をかけているもの。通常に比べて、工程の煩雑さや時間がかかっているのであれば、そうでないものに比べるとより食味がよかったり、健康的であったりします。

これは明らかに客にとって価値があるものでしょう。

最後は、客の好みです。例え食材が高価でなくとも、手間が掛けられていなくても、客が好みのものであれば、客にとってよいものとなるのではないでしょうか。

常連客のことをよく知り尽くした店が、客に今日は何がオススメと訊かれ、その客が好きであるものを提供する場合もこれに当てはまります。他の客にとってはよくなくても、その客にとってはよいものなので、ある意味でこれが究極的な「店のオススメ」となるのではないでしょうか。

一期一会

このように考えると「店にとってよい」と「客にとってよい」が共存するための「店のオススメ」はなかなか折り合いがつかないようにみえます。

「利幅が高い」と「利幅が低い」は明らかに共に成立することはできませんし、「思い入れがある」としても、「利幅が低い」「手間をかけている」「客の好み」ではなければ、単に店が暴走しているだけとなってしまいます。

しかし、「思い入れがある」上に「客の好み」であればどちらとも非常に幸せになれますし、「売れ残り」であったとしても「利幅が低い」のであればコストパフォーマンスが高いのでよいですし、「利幅が高い」としても「手間をかけている」のであれば食べてみる価値があるのではないでしょうか。

このように「店のオススメ」は「店にとってよい」と「客にとってよい」を複雑に内包しながら存在しているものなので、店にとっても客にとっても双方にとってよい「店のオススメ」となるかどうかはまさに一期一会であり、そうであるからこそ逆に「店のオススメ」を積極的に注文してみることをオススメしたいと思います。

何故ならばそれが、食における醍醐味のひとつだからです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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