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プロデュースした即席麺から辿る「うどんが主食」とは何者か?

東龍グルメジャーナリスト
縦型ビッグ うどんが主食 讃岐風うどん

成長する即席麺

日本人は即席麺(インスタント麺)が大好きです。即席麺を生み出したこと、世界7位となる1人あたり年間43.6食も消費していることからも、それは分かるでしょう。

即席麺の市場も好調です。食品新聞社の記事によると、2016年の即席麺の生産量は前年比3.5%の伸びとなっています。

日本人はただ即席麺が好きなだけではありません。日本で生まれた即席麺は世界へと進出しており、海外の即席麺よりも高いにも関わらず、品質が評価されているので人気が高いのです。

簡単に入手でき、気軽に調理して食べられる即席麺は、まさに日本人の国民食の一つであるといっても過言ではありません。

コラボレーションも多数

即席麺の新商品は日々生まれており、その数は年間800商品とも1000商品とも言われています。これだけの種類数が新しく作られているだけあって、色々な趣向を凝らしたものがあり、有名ラーメン店とのコラボレーションも数多く行われています。

  • もちもちの木
  • 一風堂
  • 山頭火
  • 六角家
  • すみれ

ざっと挙げただけでも以上のものがあります。どの企業も差別化して消費者の関心を引くことに力を入れており、競争は熾烈であると言えるでしょう。

また、ラーメン店とコラボレーションした即席麺ではなく、即席麺評論家である大山即席斎氏やラーメン評論家とコラボレーションした即席麺もあります。

他にも面白いところでは、若者の関心を引くために、日清食品ホールディングスが人気アニメ「ガールズ&パンツァー」とコラボレーションした即席麺をもありました。

他とは違うコラボレーション即席麺

このように、これまで数々のコラボレーション即席麺がありましたが、この2017年6月5日から発売されたコラボレーション即席麺は、これまでのものとは全く違います。

そのコレボレーション即席麺とは、うどんが主食氏がプロデュースした東洋水産の「縦型ビッグ うどんが主食 讃岐風うどん」です。

「縦型ビッグ うどんが主食 讃岐風うどん」は他のコラボレーション即席麺と何が違うのでしょうか?

食のプロではない

通常のコラボレーション即席麺と大きく異なるところは、うどんが主食氏が食のプロではないことです。それはつまり、ラーメンやうどんの作り手であったり、ジャーナリストや評論家、ライターではないということです。

うどんが主食氏は、もともと食べログのレビュアーで、投稿したレビューからその食通ぶりが知られて有名レビュアーとなり、今ではInstagram、Facebookページ、Twitter、メルマガでも情報を発信し、多くのファンを獲得しています。

そこからテレビに出演したり、2017年5月26日に扶桑社から「うどんが主食 私が通うウマい店100+80」という本を上梓したりと、活躍の場を広げています。

確かに、うどんが主食氏はうどんに関して造詣が深く、こだわりもありますが、インターネットが発展する以前では、その知見を広く発信する機会に恵まれなかったので、日本を代表する食品会社とコラボレーションして即席麺を生み出すことは難しかったのではないでしょうか。

数多くの商品があり、常に差別化が必要な即席麺の市場において、食のプロでも芸能人でもない、うどんが主食氏のコラボレーション即席麺が発売されたことは一つの小さからぬ分水嶺になると思います。

コラボレーションのきっかけ

このコラボレーション即席麺が生まれたきっかけは何だったのでしょうか。

うどんが主食氏の友人であり、東洋水産「マルちゃん正麺」の広告やパッケージを制作したアートディレクター秋山具義氏が、うどんが主食氏とコラボレーションした即席麺が生まれたら面白いのではないかと、東洋水産に話したことが始まりでした。

東洋水産の担当者も、うどんが主食氏のことを知っていたことから話は順調に進み、2016年9月にはコラボレーション即席麺を作ることが決まりました。そこから企画会議や試食会を重ね、パッケージデザインも秋山氏が制作することになり、「縦型ビッグ うどんが主食 讃岐風うどん」が生まれるに至ったのです。

こだわり

うどんが主食氏ならではの、こだわりはどこにあるのでしょうか。

実はうどんが主食氏は徳島県の出身で、小さい頃から讃岐うどんをよく食べており、最も好きな食べ物はずっと、うどんでした。こういったバックグラウンドがあるので、本物の讃岐うどんを再現することにこだわり、腐心しています。

麺に関しては、通常のレーンでは幅を広げることが難しかったので、その代わりに厚みをもたせて讃岐うどんらしい力強い麺にしました。スープに関しては、魚粉を入れてイリコ風味にしました。

うどんは天かすが入ると甘くなっておいしくなるという持論から、普通の天かすではなく、海老の天かすを加えているところが特徴です。

初夏の販売

即席麺は年間を通して売れますが、やはり寒い時期に売上が伸びる商品です。うどんが主食氏も本当は発売が冬であればよかったと述べていますが、発売日が初夏になったのはどうしてでしょうか。

東洋水産は夏という時期に発売することをネガティブに捉えておらず、そのため、2016年9月に開発を始めてから最短となる2017年6月に発売することに至ったと言います。

しかし私は、それは売上が冬ほど伸びないこの時期だからこそ、今勢いがあり、食のプロや芸能人でもないが故に他と差別化できる、うどんが主食氏のコラボレーション即席麺をぶつけたのではないかと考えています。

おいしいうどんを伝えたい

うどんが主食氏は食べログを始めたきっかけについて「よい店に行っておいしいものを食べた時に記録を残したかった」と述べ、その「うどんが主食」の由来を「小さい頃においしいうどんを食べて育ってきた。本当においしいうどんを、もっと多くの人に知ってもらいたいという想いが募った」と説明します。

この第1弾が成功したあかつきには、カレーうどん、肉うどんのコレボレーション即席麺をプロデュースしたいと語るうどんが主食氏は、食べログでレビューを書いて多くの人に伝えることから始まり、日本全国で食べられている即席麺のうどんをプロデュースするまでに至ったことで、自身が考える本当においしいうどんを、より多くの人に伝えられる機会を得られました。

匿名レビュアーであるうどんが主食氏による、おいしいうどんを伝える活動がどういった結実をもたらすのか、新たな食のトレンドとして注目したいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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