ショッピングセンターの飲食店で授乳してもよいのか? 3つの考察と1つの無念

(ペイレスイメージズ/アフロ)

飲食店における授乳

ここ最近、朝日新聞の読者投書欄に端を発して、飲食店の店内における授乳の是非が議論されています。

投書したのは、ショッピングセンターにある、幼児を連れてベビーカーで入れる飲食店でアルバイトをしている23歳の女性でした。

その投書の内容は概ね以下の通りです。

ショッピングセンターには授乳室やキッズルームがあるのに、注文前から授乳を始める母親がいたが、どうなのか。ケープなどで隠しながら授乳していたが、目のやり場に困ってサービスをするのにためらってしまう。子連れを歓迎する雰囲気の飲食店であるだけに、注意もできない。

だから、授乳は授乳室で行ってほしいというものです。

様々な反応

これに対して色々な反応がありました。

そのほかにも、台湾やイギリスでは、公共の場で授乳する権利が法律で守られているといった海外事例の紹介や、「学生がこのように感じるのが問題。今より育児のしやすい社会に変えていきたい」などの多様な意見が交わされている。

公共の場での授乳にまつわる議論。みなさんはどのように考えるだろうか?

出典:飲食店内で授乳する母親をめぐり、「目のやり場に困る」「仕方ない」などTwitter上で議論に

飲食店の店内は公共の場であるとして、海外と日本における授乳の権利の違いについて述べています。

日本では授乳の権利が明示的に保証されているわけではありませんが、<公共の場での授乳トラブルが多発するアメリカ・カナダ>という記事では、「日本人は公共の場での授乳に対して寛容だ」と紹介されています。

次は少し異なる視点です。

冒頭に記したように、こうした社会の不寛容が、子育てに対する大きな障壁になっている事は否めないだろう。今回のような騒動をきっかけに、現在の育児を取り巻く環境が注目され、今以上に子育て中の女性に優しい世の中になってくれることを切に願うばかりである。

出典:飲食店で授乳する母親は非常識?”不寛容な社会”が子育ての障壁に

社会の不寛容さが子育ての障壁になっていると指摘し、子育ての女性にもっと優しくなってほしいという願いを述べています。

飲食店内での振る舞い

先日寄稿した、<「串から外さないで」と主張する焼き鳥店は正しいか? 飲食店の「こだわり」がもたらす功罪>では、飲食店で客が「どう食べるか」について考察しましたが、今回の議論も飲食店における振る舞いに関するものです。

しかし、大きな違いがあります。それは、店主が「どう食べるか」について意見を述べたのではなく、サービススタッフが自身の気持ちや考えを吐露して議論に発展したところです。

議論に関して、私は以下の3つがポイントになると考えています。

  • 公共の場であること
  • 授乳室があること
  • サービスしづらいこと

それぞれについて考察していきましょう。

公共の場であること

この飲食店はショッピングセンターにあり、不特定多数の人が出入りできる場所なので、当然のことながら公共の場であると言えます。

しかし、日本では公共の場における授乳の是非が明文化されているわけではありません。そのため今のところ、飲食店でのルールに従うのが妥協点であると考えています。

この飲食店では授乳が禁止されているわけではありません。ベビーカーに乗るような幼児を歓迎しているので、むしろ授乳にもある程度は寛容であると考えられます。

授乳を禁止するような飲食店であれば、乳幼児の入店を禁止するポリシーを設けるところが多いからです。

サービススタッフは飲食店側の人間である以上、飲食店のポリシーに従う必要があるので、客に対して意見するのは矛先が違うでしょう。

意見があるのであれば、まず店主やマネージャーに相談し、その飲食店におけるポリシーを変更するべです。

授乳室があること

ショッピングセンターに授乳室があるから、授乳するのであれば授乳室でしてくれと述べられています。間違っているわけではありませんが、全てが正しいというわけでもありません。

ショッピングセンターでは、授乳室以外の場所で授乳を禁止しているわけではないからです。

喫煙者に向かって、ショッピングセンター内は原則的に禁煙だから、喫煙が許されている喫煙室で喫煙してほしいと言うのとは事情が違います。

授乳が原則的に禁止になっているわけではないので、必ず授乳室で授乳しなければならないのではありません。

サービスしづらいこと

授乳していると、目のやり場に困るのでサービスしづらいとあります。

サービススタッフが客に対して行う主なサービスは以下の通りです。

  • オーダーをとる
  • 料理やドリンクを運ぶ
  • プレートやグラスを片付ける
  • 会計を行う

客が、ずっと電話していてオーダーをとれなかったり、幼児が走り回っていてぶつかると危ないから料理を運びづらかったり、テーブルの上いっぱいに書類を広げているので料理を置きづらかったり、1円や5円といった少額貨幣だけで支払うので会計に手間がかかったり、というようなことであれば、サービスしづらいのも理解できます。

しかし、今回の場合には、ケープで隠して授乳しているだけなので、オーダーをとったり、料理やドリンクをサーブしたり、プレートやグラスを片付けたりするのに、大きな支障はないのではないでしょうか。

目のやり場に困るからサービスしづらいというのは、生理的に苦手な人に対して、サービスしづらいと言っていることと同じように聞こえます。

個人の好き嫌いの感情とは切り離し、サービススタッフとしての業務として割り切るべきではないでしょうか。

飲食店のこだわり

3つのポイントを挙げて考察し、投書の内容に対して反対の意見を述べました。しかし、客は神様ではないので、飲食店が客の言うことを全て聞き入れる必要はありません。

むしろ飲食店が独自の哲学により、客が「何を食べるか」や客が「どう食べるか」にこだわりを持つのは非常に重要なことです。何故ならば、このこだわりこそが、飲食店の個性を形成すると考えているからです。

そして、この店主の「こだわり」は飲食店を運営する「ポリシー」と深く関わりがあります。

今回の件では、この飲食店は、「子供を歓迎する雰囲気」というポリシーのもと、乳幼児も受け入れていますが、店長やマネージャーはサービススタッフに自分たちのポリシーを理解してもらっていたのでしょうか。

投書したサービススタッフが、自身が働く飲食店のこだわりをよく理解していれば、個人的な感情や考えを抜きにし、授乳に対して先回りして配慮するなど、むしろ客の「食の体験」を高められたのではないかと思います。

もしも、素晴らしいサービスをできていたならば、客にとっても、飲食店やサービススタッフにとっても、非常によい体験を共有できたのではないでしょうか。そう思うと私は残念な気持ちになります。