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「LINE グルメ予約」が全てを食べ尽くす

東龍グルメジャーナリスト

「LINE グルメ予約」開始

「LINE グルメ予約」がようやく動き始めました。

6月29日より店の地域や利用ユーザの人数を制限して公開されています。「フェイスブック メッセージの飲食店予約は誰かを不幸にしないか?」でご紹介したように、フェイスブック メッセージによる飲食店予約も注目されるべきことでしたが、日本においてはフェイスブック メッセージよりもLINEの方が使われているので、今回はそれ以上に注目されるべきことです。

「LINE グルメ予約」はこれまで「おすすめ公式アカウント」に「LINE グルメ予約」があり、友達登録しても以下のように表示されていただけでした。

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しかし、この6月29日をもって以下のメッセージが出されるようになりました。

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整理券を取得して待っていると、2時間後にすぐ通知が届きました。

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また、これから順次「LINE Apps」に「LINE グルメ予約」も追加され、利用できるようになるというのです。

この「LINE グルメ予約」はどういったものなのでしょうか。

Rettyと提携

「LINE グルメ予約」では以下のように、他から取得した店の情報を用います。

このサービスで扱う店舗は、有名口コミサイトの評価3.5点以上や実名型グルメサービス「Retty」の人気店舗を中心にしたラインナップ!はじめてのお店でも失敗することがありません。

出典:LINE公式ブログ

この有名口コミサイトというのは「食べログ」のことでしょう。何故なら、ここで明記されている3.5点というのは、食べログで一般的に良店を示すとされている3.5点に合致するからです。ちなみに3.5点以上の店は全体の僅か4.3%程度しかありません。

また「Retty」と提携していることも見逃せません。Rettyは実名を基にした900万ものユーザが利用する、今最も勢いのあるグルメサービスです。しかも、採点することを重視したレビュー型ではなく、実名を依り処とした信頼関係によるソーシャル型であるだけに、コミュニケーションツールのLINEと親和性が高い印象を受けます。

Rettyは既に多くのユーザがいて膨大な店データを蓄積しており、次はマネタイズの段階にきています。店データを「LINE グルメ予約」へ提供して利益を得ると共に、5800万人の利用者がいるLINEからの誘導も受けられるので、Rettyはさらなる成長が期待されるでしょう。

加えて、今夏をめどにRettyから「LINE グルメ予約」経由で予約できるようになるということなので、ここからも売上が立ちます。この提携はLINEにとってだけではなく、Rettyにとってもよいものであると言えるでしょう。

利用の流れ

「LINE グルメ予約」の流れは以下の通りです。

  • 利用シーンを指定する

「デート」「友だいと」「宴会」「ランチ」

  • 場所を指定する

「周辺」「指定エリア」

  • 店がリストアップされる
  • 最大4店までを選択する
  • 予約情報を記入する

姓名、電話番号、日時、人数、禁煙席の希望、個室の希望

  • オペレーターが空き状況を確認する

オペレータの対応時間は14:00~22:00

  • 予約が取れたら通知される

「詳細検索」として、以下の条件でも店を探すことができます。

  • 場所
  • ジャンル
  • 予算

店がリストアップされた画面は以下の通りです。

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「現在地周辺」がデフォルトになっているのが気付きにくかったり、どの項目を設定していてどの項目を設定していないのかが分かりにくかったりするものの、遅延もなくスムーズに店がリストアップされています。

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店の詳細についても「情報提供元:Rettyグルメ」とあるようにRettyから店データが提供されているので、特に不足はありません。ただ、どうして「Retty」ではなく「Rettyグルメ」なのかはよく分かりませんが。

特徴

「LINE グルメ予約」の大きな特徴は以下の通りでしょう。

  • LINEだけで完結

Webからの入力も電話も必要なし

  • 予約済み店の情報をLINEで共有

友だちに店情報を送れる

  • 前日お知らせ通知

チェックを入れると前日に通知

使用するにはもちろん無料となっていますが、予約機能を有している「食べログ」「ぐるなび」「OZmall」「一休」などが無料であることを考えれば当然のことでしょう。

ポイントとなるのは、やはり上記3点で、これらのそれぞれに、新たなインターネットのグルメ予約の可能性を見出しています。

「LINEだけで完結」は、店をそれなりの条件で検索できる上に予約まで行うことができるので、これはつまり、Webページに一切アクセスする必要がないということです。これと「予約済み店の情報をLINEで共有」があれば、一緒に訪れる友人もWebページを介さずに店を確認でき、訪れる全員がLINEの中だけで完結してしまいます。さらに今後、店へ訪れた後にコメントや写真もLINE経由で投稿できるようになれば、LINEだけで完全なエコシステムが完成してしまうでしょう。

また「前日お知らせ通知」があれば、日本で最大利用者数を誇るLINEからの通知なので、「今日もどこかでノーショーは繰り返される」でも書いたようようなドタキャンや無断キャンセルの抑止にもなります。さらには今後、例えば「LINE Pay」と連携することにより、無断キャンセルをした場合にお金を引き落とすことも容易になります。いえ、そもそも無断キャンセルではなく、通常の支払いも「LINE Pay」で支払うことが可能となるでしょう。

こうなってくると、店の情報もお金も全てがLINEを通して行われることとなります。

問題

ただ、まだ開始したばかりの「LINE グルメ予約」も万全というわけではありません。

情報提供元だけではなく、オペレータにもお金を支払いながら、予約成立時のコミッションをもらったとして、本当にどれくらい利益をあげられるのでしょうか。通常コミッション率は10%前後ですが、コンバージョンコストを鑑みると、どれくらい儲けられるかは実際のところ未知です。というのも、情報提供元とオペレータにお金を支払いながら運営している予約サイトは他にないからです。

そもそものところですが、システムの根幹をなす「オペレータによる運用」が果たしてどこまで対応できるのかも、重要なところです。「ぐるなびのクラブミシュランは成功するのか?」でも書いたように、高額な会員制となっているクラブミシュランであれば、人件費を掛けても利益は挙げられるかも知れませんが、無料サービスでどこまで人件費を掛けられるでしょうか。規模が大きくなればなるほどオペレータの数も必要になり、スケールメリットは働きません。

もしかすると「LINE グルメ予約」は完全なエコシステムを築き上げてから、情報提供元へ情報料の値下げや店へコミッションの値上げを要求するのでしょうか。グルメ情報を一切持たない「LINE グルメ予約」がそこまで力を持つことは可能なのでしょうか。

今後の課題は挙げられるものの、そもそも「グルメ」=「食」というのは人間にとって大切なコミュニケーションの一つの場であることを鑑みれば、グルメに関する全てをコミュニケーションツールであるLINEが支配したとしても、そう不思議ではないように思えてくるのです。

元記事

レストラン図鑑に元記事が掲載されています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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