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フードポルノにまつわる議論よ、再び

東龍グルメジャーナリスト

フードポルノにまつわる議論

「ワタシと私のパンケーキとSNS」で、パンケーキとSNSの関係について書かれた記事について思うところを述べましたが、つい最近「フランスのシェフたちが怒る「フード・ポルノ」とは」という記事を拝見して、今度はレストランとSNSについて考えさせられました。

記事の内容はレストランで食事をする時に、SNSへ投稿するために写真を撮影するのはよいかどうかという趣旨のもので、1年程前に「“フードポルノ”に三ツ星シェフが苦言 「知的財産の侵害」か最高の宣伝方法か」という記事を発端に議論が盛り上がったなと思い返していたところ、実はAll Aboutが運営するNews Digの「飲食店が客に媚びない理由」という記事が新しくlivedoor Newsで配信されただけなのだと分かりました。

個人的にはAll Aboutにお世話になっていますし、再配信するかどうかは会社間の契約の問題なので、特に思うところはありません。

さて、ここからが本題です。

先程の記事が改めて配信されたことで、レストランでの写真撮影についてまた喧喧諤諤と意見が交わされているようなので、私も意見を述べようと思っています。

フードポルノについて

まず最初に、意味を勘違いしている方や曖昧に理解している方も多いので、「フードポルノ」について説明しましょう。

レストラン等で料理や調理・食事風景の写真・動画を撮影し、個人のブログやSNS等に投稿・公開する行為を指す造語。おいしそうな料理の写真や動画が見る人の食欲を刺激することから、性欲を刺激するポルノ鑑賞に例えて「フード・ポルノ」と呼ばれるようになった。主に欧米で使用されている用語である。近年は、SNSを介したフード・ポルノが一般化している。2014年には、SNSを介したフード・ポルノについて、欧米のレストランでは宣伝につながると歓迎する声とともに、撮影マナーの悪さや知的財産の侵害を問題視する声も上がっていると報じられた。

出典:コトバンク

以上のように、フードポルノは簡単に説明すると「公開されたおいしそうな料理の画像や動画」ということになり、フードポルノそれ自体に善悪の価値が含まれているわけではないので、「フードポルノ」=「悪」という短絡的な判断はやめましょう。

フードポルノという言葉は蠱惑的で強烈なインパクトを持っているだけに、余計に話が勘違いされ易くなっているように思います。

議論で最も中心となっていることは「レストランで料理の写真を撮影してよいかどうか」ということなので、SNS、および、ブログや食べログ(ブログや食べログはSNSではありません)に投稿することがよいかどうかという議論とは一旦切り離す必要があるでしょう。ただ、レストランの利益と直接関係するだけに、むしろ投稿の方が問題は難しいと言えますが。

レストランで料理の写真を撮影してよいかどうか

では「レストランで料理の写真を撮影してよいかどうか」どちらなのでしょう。

色々な記事を読んでいると、様々な立場や意見があって大変興味深くもあるのですが、どれも主観が強いような気がします。そもそも何かの主張をしたいので記事を書いているわけなので悪いことはないのですが、もう少し論点を明確にし、まとめて冷静に判断する必要があると考えています。

そのためここでは、以下の3点に絞って「レストランで料理の写真を撮影してよいかどうか」を考えてみることにしました。

  • マナー違反かどうか
  • 料理を台無しにするかどうか
  • 周りの客に迷惑を及ぼすかどうか

「思い出に残すだけでよいのではないか」「その場を楽しむことに努めるべきだ」と写真撮影を咎める意見がよく見掛けられます。しかし、「料理の写真を撮影」したい人は「思い出に残すだけではなく、写真も撮影したい」「写真を撮影することが楽しい」からこそ、写真を撮影しているのでしょう。この指摘はあまり意味を成さないので論点から外します。

マナー違反かどうか

まず「マナー違反かどうか」について。

食事のマナーと言えば、例えばフランス料理ではナプキンの敷き方やカトラリの置き方から、パンの食べ方など様々なものがあります。広い意味ではドレスコードもレストランでの振る舞いという意味ではマナーに含まれているでしょう。こういったマナーは既定されているものなので、マナー違反かどうかはすぐに判断できます。ただ、レストランが大衆化している現代においては、本来は「マナー違反」であると判断されることも許容され易くなっています。

これ以外にも、「ミネラルウォーターを注文するべき」「レストランのことを思うのであれば、クレジットカードではなく現金で支払う」「偶数人数で訪れる」といったことは、一部のグルメ通にとって暗黙のマナーとなっていますが、一般の人にとっては周知の事実でもありませんし、納得できることでもないでしょう。

マナーは本来、文化的な歴史があり、共通認識を得られてこそ確立されるものです。従って、そういった意味では「レストランで料理の写真を撮影する」は手軽に持ち運びできるデジタルカメラが普及してきたここ10年でくらいで問題となっていることなので、共通認識のマナーであるとするのは難しいと思います。

「レストランで料理の写真を撮影」することに関しては、むしろこれからマナーを形成していく段階なので、「マナー違反だ」「マナー違反ではない」という押し付け合いでは平行線となってよくありません。

料理を台無しにするかどうか

料理の写真を撮影すると、シェフの料理を台無しにするでしょうか。

客にちょうどよいタイミングで料理を提供しているのだから、写真を撮影しているとその絶妙のタイミングを逃してしまうという意見があります。確かに、お肉のロティもお魚のグリエも、スープの温度もパスタの茹で加減も、客の前に置かれた時よい状態になることを計算して作られていることがほとんどなので、写真を撮影していると最もよい時を逃すことになると言えます。

しかし、目の前に運ばれた「瞬間」に食べなければならないほど厳密に計算された料理となると、どれくらいあるでしょうか。写真を撮影する時間が何分にも及ぶとしたら完全に機を逸してしまいますが、数秒から数十秒であれば気にする程の時間であるとは思えません。

加えて、レストランは「ただ食べるだけ」のために訪れるものではなく、一緒に訪れた人と会話を楽しむ場でもあります。届いた瞬間にすぐ食べ始めなければならないとしたら、どんなに窮屈なことでしょう。

料理を最高の状態で食べるべきだと主張すると、食べる時間が長くなればなるほど状態も悪くなっていくだけに、撮影は最初に行えばそれで終わってしまうのに対して、会話はずっと続いたりするので、会話も禁止にせざるを得ない状況になりそうです。

レストランは食べることを「主な」目的としていますが、それ以外の目的も当然あってよいと思います。

また、料理を台無しにするかどうかに、「一流レストランであるかどうか」や「一流シェフが作っているかどうか」は一切関係ないと思っています。どこからが一流なのかどうかは非常に難しいところですし、「料理の撮影」はファストフードやファミリーレストランでも起こることだからです。

周りの客に迷惑を及ぼすかどうか

料理の写真を撮影しているのを見ると不愉快に思う人はいますが、何を不愉快と思うかは人によって異なるものです。例えば、テーブルマナーがなっていないからと不愉快に思う人もいるでしょうし、話し声が大きかったり、ドレスコードが守られていなかったりするから不愉快に思う人もいるでしょう。料理の写真を撮影することもこういった類と同じで不愉快に思うかどうかは個人差があります。

もともとレストランには様々な客がいるので、楽しむためには、不愉快に思ってもなるべく気にしない方がよいと考えていますが、写真を撮影する際に音が鳴ってしまったり、フラッシュが焚かれてしまったりすると、気にしないようにしたくても、気にしてしまうでしょう。

相手に不愉快さを強制してしまうということで、写真撮影の際に音やフラッシュがあると迷惑を及ぼしていると言えます。

レストランが決める

以上のように検証してきましたが、主張したいことは最初から決まっていました。それは「『レストランで料理の写真を撮影してよいかどうか』はレストランが決めればよい」というものです。

レストランの雰囲気は客が形成するものなので、入店するのに年齢を制限したり、厳しいドレスコードを課したりするのと同じように、写真撮影の可否をレストランが決めて明確化すればよいと思います。

ここで「何でもルールで縛らなければならないのはどうか」「いちいち言わないといけないとは嘆かわしい」というような「以心伝心期待論」は無意味だと思っています。現に議論が起きているわけですし、レストランを訪れる客はみなさん考え方が違うからこそ、はっきりと決めなければなりません。

様々な意見が飛び交っているからこそ、結局は誰かが何かを決めないといけないと考えています。そして、どのようにして運営していきたいかというのは、もちろんレストラン側が決めることでしょう。実際に「カンテサンス」「ロオジエ」「トゥールダルジャン」といったフランス料理店では写真撮影を禁止しており、それによってトラブルが発生したということは聞きません。

最後に、こういった議論を機にして多くの人がレストランに興味をもって訪れるようになると嬉しいものですが、逆にレストランはやはり面倒だなと思われて敬遠されるかもと気付いたところで、そろそろ筆を置くことにします。

元記事

レストラン図鑑に元記事が掲載されています。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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