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バレンタインに媚薬を

東龍グルメジャーナリスト
シャングリ・ラ ホテル 東京「ピャチェーレ」

2015年のバレンタインデーは盛り上がっている

2月に入ると、バレンタインデーの盛り上がりは最高潮を迎え、グルメ業界はチョコレート一色となります。

「そのバレンタインデーは誰のもの」でご紹介したように、2015年のバレンタインデーは<自分用>も<本命用>も昨年よりも予算が増え、<自分用>に至っては過去最高額となるなど、今年は特に盛り上がりをみせているというのです。

レストランも特別プランを

バレンタインデーでは、チョコレートショップがチョコレートを充実させるのは当然のことながら、レストランも特別なプランを用意してカップル需要に応えており、例えば「ホテル×メーカーの新しいコラボレーションの形」でご紹介したグランドプリンスホテル高輪「ル・トリアノン」とロッテ「ガーナチョコレート」のコラボレーションは、バレンタインシーズンに合わせて行われています。

シャングリ・ラ ホテル 東京「ピャチェーレ」
シャングリ・ラ ホテル 東京「ピャチェーレ」

レストランのバレンタインデー向けプランはチョコレートに関係したものがそのほとんどを占めていますが、競争が激しくなっている中で、チョコレート以外の新しい方向性を打ち出しているレストランがあります。

それはシャングリ・ラ ホテル 東京のイタリア料理「ピャチェーレ」で、<恋の媚薬>をテーマにし、全ての料理に媚薬効果があるとされている食材を使ったバレンタインディナー「サン ヴァレンティーノ」が行われるのです。

<恋の媚薬>をテーマにしたバレンタインディナーはどういうものなのでしょうか。

新しいバレンタインディナーを

アシスタント コミュニケーション マネージャー 中西紘子氏は「2014年9月1日にアンドレア・フェレーロが総料理長およびピャチェーレ料理長に就任した。ピャチェーレではバレンタインディナーは毎年行っているが、いつも同じだと面白味がない。アンドレア総料理長はたくさんのアイデアを持っているので、2月13日と14日にはこれまでとは違う新しいバレンタインディナーをご提供することにした」と話します。

これを受けてアンドレア・フェレーロ氏は「ヨーロッパのバレンタインデーでは、男性が女性をもてなす。女性に最後までドキドキやサプライズを感じてもらいたいので、媚薬をテーマにしたディナーコースをご提供できればと考えた」と説明します。

他にはない面白いこと

日本とヨーロッパではバレンタインデーの習慣が異なり、さらには日本では媚薬をテーマにした料理が少ないことを尋ねると、中西氏は「日本でも受け入れられる形にするために、メニューを試行錯誤して練ったので時間を要した」としながらも、「アンドレア総料理長は、昨年末にガラディナーを行って好評を博し、日本人にどういったものが受け入れられるかが分かった。バレンタインディナーもきっとおいしく召し上がっていただける」と手応えを掴んだとします。

媚薬の料理は日本ではあまり馴染みがありませんし、こういった高級ホテルのメインダイニングで提供されるのは意外な気がします。これを問うと、中西氏は「他のホテルやレストランと同じことをやっていても、お客さまにご満足いただけるとは思っていない。アンドレア総料理長の料理を大切にしながらも、他では体験できない面白いことを行っていきたい」と高い志を答えます。

媚薬をテーマにしていること以外の特徴を尋ねると「最後の小菓子はホワイトチョコレートをハンマー割っていただく。中には愛のメッセージと共に、宿泊ご招待やディナー無料のチケットが入っていることもあるので、お二人で楽しんでいただきたい」と述べます。

2ブランドのチョコレートを販売

バレンタインデーのチョコレートについては、「ホテルのブランドとして岡村直也エグゼクティブ・ペストリーシェフのチョコレートを販売する。これに加えて、ピャチェーレのブランドとして、アンドレア総料理長のチョコレートを限定で販売する」と驚く試みを話します。

ホテルでは通常、ホテルのブランドかペストリーショップのブランドか、どちらか一方に統一してチョコレートを売り出すものですが、シャングリ・ラ ホテル 東京ではこのどちらとも売り出すというからです。

中西氏は「ピャチェーレは料理に自信があるだけではなく、景色が素晴らしく、雰囲気もよいので、もっと多くのお客様にご利用いただきたい。ピャチェーレのよさを知っていただくためにもチョコレートも販売することにした」と話し、チョコレートのすみ分けについては「ホテルのブランドではオーソドックスなものを、ピャチェーレのブランドでは山椒、柚子、ドンペリ、味噌など少し変わったものを限定で販売するので、お好みのチョコレートを選んでいただきたい」と差別化が図られているとします。

情熱的なカップルへ

バレンタインデーのチョコレートもディナーも他のホテルと一線を画していますが、今後はどのように考えているのでしょうか。

アンドレア氏は「全て有機野菜を使った料理をご提供したり、季節をもっと表現したりしていきたい」と述べ、中西氏は「アンドレア総料理長と招聘したシェフの素晴らしいコラボレーションイベントも考えているので、バレンタインディナーと共にご期待いただきたい」と話します。

中西氏が自信を持ち、アンドレア氏が「ロマンティックなディナーなので、情熱的なカップルには是非食べに来ていただきたい」と勧めるバレンタインディナー「サン ヴァレンティーノ」を紹介しましょう。

ペリエ・ジュエ ブリュット

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ピャチェーレのハウスシャンパーニュ。ペリエ・ジュエは1846年に初めて辛口のブリュットを創り出した名門です。気品がありながらもフルーティーなところは、ピャチェーレの洗練された雰囲気に合います。

ストウッツィキーノ

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最初の一口前菜はナポリ産 水牛のモッツァレラ。クリストフルのトレイで豪快に切り分けてくれます。モッツァレラは心地よい弾力とほのかな食味で、品のよさが感じられます。

甘エビのカルパッチョ トマトと柚子のサラダ 季節のハーブ マスタード粒 ツルマンネン草とクランチーライス

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甘海老を薄切りにして、カルパッチョ風に。柚子の香りと粒マスタードがよいアクセントになっています。ツルマンネン草、チャービル、イタリアンパセリを散らし、ナスタチウムをあしらっています。

媚薬は甘海老と柚子。

生牡蛎 軽いアヴォカドムース チリペッパーとラディッシュ

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軽いアヴォカドムースの上に生牡蛎、その上からルッコラで包み込むようにしています。鮮烈な磯の香りがする生牡蠣、口当たりのよいアヴォカドーム、ほのかに野生味のするルッコラを合わせて食べると、整った調べとなります。

媚薬は牡蛎とアヴォカド、ルッコラ。

オマール海老とアスパラガスのラヴィオリ サフランと甲殻類香るコンソメ

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深い甲殻類の旨味としっかりとしたサフランの香りが出色なビスクに、オマール海老のすり身とアスパラガスのラヴィオリを浮かべています。癖になる一品となっています。

媚薬はオマール海老、サフラン。

鴨胸肉のロッシーニ風 フォアグラのポワレ チェリーとルッコラサラダ 蕪のピューレ

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キャプテンを務める新庄 クリストフ氏が「アンドレア総料理長はフランスで育ったこともあり、フランス料理のエッセンスも感じられる」と説明した通り、フランス料理のように手の込んだトリュフの赤ワインソースが印象的です。

シャラン産鴨はポワレしてあり、大きなポーションで厚みもあります。ルッコラを載せて、赤キャベツの大胆にローストを被せています。

媚薬はフォアグラ、鴨。

甘い胡瓜のサラダ ホワイトチョコレートと一緒に

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ユニークなグラスのプレデセール。優しいホワイトチョコレートのムースに、胡瓜のシャキシャキ感と瑞々しさが強めのアクセントです。ミントとナスタチウムでよりフレッシュに仕上げています。

媚薬はキュウリ、チョコレート。

フロマージュブランのクリーム 野苺のコンポート バイオレットとシルバー

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ホワイトチョコレートのドームの中にはフロマージュブランのクリームと、それと相性のよい野苺の甘酸っぱいコンポート。バイオレットの砂糖菓子で彩りを加え、シルバーの銀箔でゴージャスな雰囲気を携えています。

媚薬は野苺。

小菓子

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ハンマーで割るドイツの伝統菓子シュネバーレを、アンドレア氏がイタリア風に再解釈しました。ホワイトチョコレートを割ると、中にはハート型のマカロンと愛のメッセージがあります。

ピャチェーレが目的となるように

媚薬は恋愛感情を喚起したり、気分を高めたりする作用があるだけではなく、英語の「aphrodisiac」の和訳にあるように、「惚れ薬」「強精薬」といった側面もあります。

中西氏は「昨年のクリスマスと大晦日には、ホテルでは珍しく、館内でヒューマンスタテュー(人間彫刻)を行った。お祝いの日なので、同じ日にいらしたお客さま全員に、記憶に残る体験をしていただきたいと考えて実施した」と振り返り、続けて「シャングリ・ラ ホテル東京へではなく、ピャチェーレへ行きたいと思っていただけるように、ピャチェーレの魅力を高めていきたい」と真摯に話します。

イタリア語で「喜び」を意味するピャチェーレは、101ヶ月熟成させたパルミジャーノ・レッジャーノやプーリア地方産スパゲットーニのカルボナーラなど、アンドレア氏が新しく考案した個性的なメニューによって、イタリア料理に対して舌の肥えた日本人を喜ばせていますが、今回の媚薬をテーマにしたバレンタインデーやヒューマンスタテューのように、他のホテルでは行わない面白味のあることを今後も積極的に実施していくのであれば、刺激的な媚薬を用いることなく、多くの人にピャチェーレを惚れさせることができるのではないでしょうか。

情報

詳しくは公式サイトをご確認ください。

参考

ピャチェーレについてはレストラン図鑑にも詳しく掲載されていますので、ご参考にどうぞ。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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