高齢者は自分の預金を自由に下ろすことができない

高齢者は自分の預金が下ろせない(写真:アフロ)

高齢者は自分の預金を下ろすことが許されない?

6月25日付朝日新聞朝刊の投書欄『声』に「高齢者は自由にお金を使えない?」というタイトルでちょっと驚く記事が載っていました。

75歳女性が、自分の保険が満期になり、振り込まれた金額を引き出しに夫婦で銀行に赴いたときのことです。銀行員から身分証証明書の提示を求められた上に、お金の使い道を根掘り葉掘り聞かれ、さらには警察官まで呼ばれて“取り調べ”を受けたというのです。そのお金は、納骨壇を購入するためだったのですが、購入予定のお寺に確認の電話を入れられ、娘に電話され、住所、氏名、生年月日、携帯番号まで尋ねられ、結局お金が引き出せるまでに1時間半あまりかかったという怒りの投書でした。

昨今、オレオレ詐欺に対する水際防止対策を強化するという警察からの指導方針もあり、こまめに銀行員が声かけをするということは知っていましたが、まさか警察官まで呼ぶことになっているとは。

ほかにもそのようなケースが生じているのかどうか、新聞のデータベースやネットで類似記事を検索してみると、あながちこれは珍しい事例でもないことがわかりました。同じような投書記事がいくつかの新聞に載っておりました。複数の県や銀行で同様の指導がなされているようです。

多くの金融機関で行われている引き出し制限

このような水際対策を最初に採用したのは静岡県のようです。2013年12月より県内に本支店をおく全金融機関で、75歳以上の顧客が300万円以上の現金を引き出す場合は原則引き出しに応じず、利用使途を確認したうえで振込を勧めます。顧客が振込を断った場合には、記名式の線引預金小切手の利用を促します。記名式の線引預金小切手であれば、支払先が明確になり、現金化までに数日を要するため、その間に口座を凍結すれば被害を防げるからです。それでも顧客が現金での払出しを希望する場合には、銀行が警察に連絡するというものです。(「週刊金融財政事情」2014年6月23日より引用)

その後、この方式は徐々に全国の銀行に拡がっているようですが、引き下ろし限度額をはじめとする対応ルールも地方や銀行でバラバラであることに加え、引き出し制限の高齢者に対する周知が不徹底であることも混乱を招く原因となっているでしょう。

引き出し制限は年齢差別にあたらないか

自分の預金の引き下ろし制限が行われる法律的根拠は、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(平成二八年六月三日改正)にあります。

この法律によれば、「犯罪による収益が組織的な犯罪を助長するために使用される」ことが、「健全な経済活動に重大な悪影響を与える」ことから、「特定事業者」による顧客の本人特定事項の確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置を講ずることで、犯罪による収益の移転防止を図るものとされています。

この法律に基づき、各金融機関が引き出し制限に動いているわけですが、ここで問題となってくるのは「疑わしい取引」の定義でしょう。何を持って、その取引を疑わしいと判断したのか。認知症の疑いがあるなど一定の理由があれば納得いくものの、後見人が必要とされない高齢者に対して、一律に引き出し制限を行う行為が金融機関に法的に認められるものなのかどうか。一律に年齢基準で引き出しを禁止するのは年齢差別、高齢者差別行為にあたる可能性もあります。これについては、きちんとした議論が不可欠でしょう。

口座の引き出し制限は、最近はキャッシュカードの振り込み制限まで拡がっています。静岡銀行では2017年5月22日より70歳以上で、かつ過去1年ATMでキャッシュカードの振り込み実績のないお客様については、振り込み停止としています。(同社プレスリリースより)同じく過去1~3年振り込み実績のないお客様に対し、振り込み限度額を10~30万以下にするという措置が多くの銀行で採用されています。

警察庁の報道発表「平成28年の特殊詐欺認知・検挙状況等」によると、高齢者(65歳以上)被害の特殊詐欺の件数は約1万1千件と特殊詐欺全体の8割を占めています。詐欺の件数自体も近年再び上昇傾向にあるようです。

水際の防止対策強化という意味においては、上記のような施策が一定の成果を収めていることは一概に否定するものではありません。一方でこのような制限行為は潜在被害者以外の一般高齢者の日常活動に対する阻害要因となっていることも確かでしょう。この両者の無理のない接点を見つけていくことが重要であると思います。地域や金融機関によって内容や判断基準が異なる形で行われている仕組みの標準化、店頭での広報の徹底などもその解決法のひとつとなるではないでしょうか。