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高齢者と若者をつなぐ「ホームシェア」という新しい住まい方

斉藤徹超高齢未来観測所
ホームシェアで暮らす宮本さんと米田君(NPOリブアンドリブ提供)

一人暮らし高齢者700万人時代を迎えて

ひとり暮らし高齢者世帯が増え、人々の繋がりの希薄化が懸念される中で、近年注目されるキーワードが「世代間交流」です。

年齢の異なる人々の交流が、それぞれの世代に新しい体験を提供し、結果、それは地域社会関係資本の充実に繋がっていくことになります。

平成27年版高齢社会白書によると、ひとり暮らし高齢者の総数は600万人を超え(2015年)、高齢者に占める比率も3分の1(34.2%)が単身世帯となっています。20年後の2035年には、4割の762万人がひとり人暮らし高齢者となることが予想されています。

とりわけ懸念されるのは都市部です。地方から出てきた団塊世代が、配偶者の死別で独居になるケースが増加すると考えられており、2035年には104万人のひとり暮らし老人が東京都だけでも存在する見込みです。地方創世でも高齢者の地方移住などが提言されていますが、以前の記事でも説明した通り、実際は都市部から地方への高齢者の回帰する人は減り続けています。

とは言いつつも、すべての高齢者が、孤独に苛まれ、見守りを必要とする人々というわけではありません。平均寿命も伸び、健康状態も良好な高齢者が増加する中で、元気で一人暮らしはしているものの、より何らかの形で人の役に立ちたい、若い人々と日常的に交流してみたいと考える高齢者も少なくないはずです。

世代間交流のための仕掛けづくり

このような時代環境を背景に、「世代間交流」をテーマにした施設や活動が近年増加しつつあります。「老人ホーム」と「保育園」を同一敷地内に開設し、高齢者と子供たちのコミュニケーションを図ろうとする「老保連携」の動きは、江戸川区の社会福祉法人「江東園」が有名ですが、ここだけに留まらず、認証保育園と通所介護の同一敷地内での共同運営や多世代交流型のサービス付き高齢者住宅を展開する民間企業事例なども次第に増えつつあります。

ただし、一見トレンドワードのように語られる「世代間交流」ですが、実際の交流の実効性や効果を考えると、言うは易し行うは難しというのが本当のところではないでしょうか。血のつながった実際の親子ですら、価値観の大きな隔たりがあり、本音で語り合うのは簡単なことではありません。世代の隔たりを超えるための仕掛けづくりやコーディネイトが実は重要なのではないでしょうか。

加えて「世代間交流」が意味する世代の内訳は、「高齢者」と「子供」だけではありません。もっと多様な世代間を繋ごうとする試みがなされても良いはずです。その意味で、今回ご紹介する「ホームシェア」は、より豊かな多世代交流を目指そうとする一つの試みのように思えます。

「ホームシェア」という住まい方

この「ホームシェア」の普及に努めている「NPO法人リブ&リブ」(石橋代表理事)の活動を紹介しましょう。リブアンドリブが今広げようとしているのは、ひとり暮らしの高齢者(もしくは夫婦)の自宅に大学生が同居するという古いようで新しい住まい方のモデルです。

単に高齢者が自宅を大学生に住まわせて、家賃を払うのであれば、「下宿」となります。近年若い人同士が一軒家を共同でシェアする「シェアハウス」という住まい方になりますが、「ホームシェア」はそのいずれとも異なります。住んでいる者同士(高齢者と大学生)が、より相互に家庭生活を分かち合おうとするという交流指向型の住まい方なのです。

部屋を提供する側の高齢者の条件は、以下の3つです。(1)首都圏でひとり暮らし(夫婦可)をしていて、健康面で問題の無い方、(2)独立した学生用の部屋と、居間などの共有スペースをご用意いただけること、(3)過度の干渉をせず、学生が独立して通常の生活をおくれるようにすること、です。

一方、学生側の条件としては、(1)親元を離れ首都圏の大学に通っていること、(2)シニアと同居の意志があること、(3)フルタイムの仕事をしていないこと、(4)ルールをきちんと守れること、があげられます。あとは当事者同士での話し合いとなりますが、週に数日、一緒に時間を過ごすくらいの、高齢者と若者のゆるやかなつながりを実現する仕組みといって良いでしょう。

高齢者にとっては、若い大学生と交流することにより、一人暮らしの寂しさから解放されて、元気や活力をもらえます。一方、学生にとっては、地方から上京した際の生活費の負担が多少なりとも軽減され、アルバイトに追われることなく、勉学に専念することが可能となります。お互いにとって、ウィン-ウィンとなる同居生活の仕組みなのです。

現在、日本で大学、短大、専門学校などに進学するために何らかの奨学金制度を利用している学生は、学生の約半数に達すると言われています。これらの多くは貸与型の奨学金であり、学校を卒業しても返済に追われ、生活に苦慮する人々も多数存在しています。比較的安価な費用負担(月2万円の水光費負担)で暮らしが実現できるこの仕組みは、首都圏で学びたいと思っていても費用面で躊躇している学生にとっては恩恵に映るでしょう。

専門コーディネイターの重要性

スペイン・バルセロナ財団での老人と若者の交流の様子(NPOリブアンドリブ提供)
スペイン・バルセロナ財団での老人と若者の交流の様子(NPOリブアンドリブ提供)

ホームシェア」のモデルは、リブアンドリブの石橋代表が1996年からスペイン・バルセロナの財団で実施されていたケースを2008年に知ったことにあります。その後の猛暑で多くの一人暮らしシニアが亡くなったパリでも同じような仕組みが導入されことを知り、バルセロナの財団やパリのensemble2generationsとも協力関係を築きながら、日本で最適な方法を模索しつつ実施に臨んでいるそうです。

この仕組みを成功に導くポイントは、高齢者と若者をつなぐ専門コーディネイターによるマッチングにあります。専門コーディネイターは、事前に大学生の志望動機や自己アピールを確認した上で、相性が良さそうな高齢者の人とのマッチングを行います。共同生活が始まってからも定期的にコーディネイターがご自宅を訪問し、生活の様子を伺い、さまざまな相談までサポートします。

活動スタートから、今までに全部で5件のホームシェア実績と3件の短期おためし実績だそうです。実数としてはまだ多くはありませんが、「いまは数を競うよりも、まずはひとつひとつの成功事例を積み重ねていきたい」と石橋代表は語ります。

欧米の場合、家の構造として、部屋(個室)でプライバシーが一定程度保たれるのに対し、日本では部屋と部屋の境界線が曖昧なことも多く、それに対する抵抗感があるのかもしれません。また、血縁関係や親族にはフレンドリーである反面、他人に対しては積極的に関係性を築こうとしないといった日本人の国民性も関係しているかもしれません。本人が同居に了解しても、離れて暮らす息子や娘が反対されて実施に至らなかったケースもあるそうです。また、欧州のケースでは、財団(スペイン)の基金や実施団体(パリ)への公の助成金や市民の寄付金がこの活動を支えているそうです。日本でも、このような助成や寄付の制度があれば、さらにこの仕組みは広がっていくでしょう。

石橋代表は、次のステップとしては、年間の利用者数を年間5組まで広げ、募集数を拡大したい、東京のみならず対象地域も広げて行きたいと考えています。現在は神奈川県大船でのマッチングを手掛けています。

今後高齢化が一層すすむ中、世代間交流の輪を広げていくことは、それぞれの世代にとっても極めて有意義な取り組みに違いありません。この「ホームシェア」の仕組みが、広く各地で広がることを期待したいと思います。

超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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