物が売れない時代の「プレミアム消費」とエンゲル係数の上昇が意味するもの

(写真:アフロ)

プレミアム・ブームの意味するもの

近頃、さまざまな分野の商品の名称に「プレミアム」や「大人の○○」と付いたものを良く目にしないでしょうか。特にコンビニエンスストアの飲料、菓子、加工食品ジャンルで目立っているように見受けられます。

本来、プレミアムとは「高価で品質が良いもの」を示す言葉で、海外高級ブランドなどの商品群がそれに該当します。それが、いつの間にか、日常の飲料や食品の分野における気軽な「プレミアム」商品が増え続け、むしろ「プレミアム」と言えば食品分野のことを指すくらいの勢いになっています。数年前には「プレミアム牛どん」まで登場し、プレミアム商品もここに極まめりと感じたものでした。

では実際に「プレミアム」「大人」関連商品は、実際に増えているのでしょうか。新聞や雑誌での露出状況を調べてみました。新聞・雑誌の記事検索データベースELNETで「商品」and「プレミアム」「商品」and「大人」で検索した件数を調べて見たのが図1です。これを見ると共に2012年頃から露出頻度が急速に増加している様子が伺えます。数量的にはともかくとして、社会的注目は高まっていると言えるでしょう。

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プレミアム・ブームの始まり

食品や生活用品分野においてプレムアム商品が本格的に広がるきっかけとなったのは2007年のことでした。まず先鞭をつけたのがビール業界です。サッポロの「エビスビール」に対してサントリーが「ザ・プレミアム・モルツ」で追撃するなど、ビール系飲料の総需要が微減となる中、製法や原材料にこだわるプレミアム・ビールで差別化を図ろうとする動きが、その後のさまざまな商品ジャンルにおけるプレミアム・ブームの発端となりました。

同じく2007年5月に立ち上がったのが、セブン-イレブンのプライベート・ブランド(PB)「セブンプレミアム」です。49品目でスタートした同ブランドは、その後着実にアイテム数を増加させ、品質にこだわりをみせた商品群の充実を果たして行きました。

このような動きが、大きなムーブメントになったのが2012年であったと言えるでしょう。コンビニ各社が、プライベート・ブランド(PB)の品質向上商品の強化に一層シフトしていったのが丁度この時期です。セブン&アイ・ホールディングスのオリジナル商品売上高が2兆円を超えたのも2012年でした。

では、なぜこの時期から急激にプレミアム商品、大人商品が増加したのでしょうか。これには幾つかの理由が考えられますが、構造的な背景には少子高齢化の動きがあるのではないかと考えられます。

日本社会は既に人口減少社会に突入しています。人口減少が進むということは、すなわち消費に関する総需要量が減少するということに他なりません。モノが売れなくなる中で、当該商品ジャンルの売上を伸ばすためには、当然のことながら、売れる商品を生み出し続けていくしかないのですが、そのような環境下において、プレミアム化は商品単価を上げていくための有効な手法となったのでした。高齢化が進む中、比較的所得にゆとりのある中高年層を狙うという意味においても、大人・プレミアム路線は理にかなった戦略であったと言えるでしょう。

人間の食に関する志向性は、基本的には保守的であり、そう簡単に革新的な商品が生まれるものでもありません。その中で、大人化・プレミアム化は、コモディティ分野における単価上昇のための差別化方向軸となったと言えるでしょう。

エンゲル係数の上昇とプレミアム消費が示すもの

エンゲル係数とは、消費支出に占める食費割合で示される数値で、元々は生活の豊かさを示す指標とされていました。戦後間もない頃は6割を超えていた数値は、日本の経済発展とともに右肩下がりに下落し、2000年代には23%前後で推移していました。しかし、その後2005年度からは上昇基調に転じ、2015年度には25%(二人以上世帯)と、なんと消費支出の4分の1を食費が占めるようになってしまいました。

エンゲル係数が上昇基調にある要因としては、いくつかの理由が考えられます。消費支出の減少、増税に加えて原材料高による物価上昇、個食化や中食化の進展、高齢化の進展などの理由が語られていますが、商品の大人化・プレミアム化も理由のひとつに掲げるこが出来るでしょう。

また、大人化・プレミアム化が進む背景には、食のみが人々の関心を集めるジャンルとなってしまった現在の社会環境にも深い関係がありそうです。

現在、食品以外の分野では、商品の成熟・飽和化が進み、スマホなど一部の商品を除けば、消費意欲を促すような商品のイノベーションは近年殆ど起きていないと言っていいでしょう。その結果、多くの人々の関心はひたすら食に向かい、テレビ番組では常に食番組があふれ、タレントは常に何かを口にする度に「これ。おいしい!」と叫び続ける、ある意味でいびつもと言えるような社会環境が生み出されています。このような、商品を巡るイノベーション環境もエンゲル係数の上昇と間接的には関連があるのではないかと考えられます。