「同一労働同一賃金」判決の与えた波紋、揺れ動く定年以降の就労環境

60歳以降の働き方はいかにあるべきか(写真:アフロ)

定年後の就労を巡る波紋

先日、定年退職後に再雇用された社員の働き方を巡る東京地裁の判決が、これからのサラリーマン定年後の働き方に大きな波紋を投げかけています。

この訴訟は、定年後に再雇用されたトラック運転手3名が、定年前と同じ業務なのに賃金が下がったのは違法であるとして勤務先の運送会社を訴えたもので、今年5月13日に下された判決は「同一労働であるにもかかわらず、同一賃金でないのは、労働契約法20条に反する」として、定年前の賃金規定を適用し、差額分を払うように命じたものとなりました。これは、賃金格差に関して、労働契約法違反を認めた初の判決となりました。

しかし、定年を迎えた社員を別の給与水準で再雇用することは、すでに多くの企業が慣例的に行っていることです。定年前でも、一定の年齢で役職定年を設け、給与水準を下げる仕組みを導入している企業も数多く存在しています。果たして、この法制度を厳格に適用することは可能なのでしょうか。

60歳以降の給与水準は男性の約半数が3割以上減

多くの企業は定年年齢として60歳を採用しています。2006年に施行(2013年改正)された改正高齢者雇用安定法により、企業は65歳まで働きたい人全員を雇用することが義務づけられました。雇用延長の方法としては、(1)定年制度の撤廃、(2)65歳までの定年引上げ、(3)再雇用制度のいずれかとされています。現在、多くの企業が選択しているのは、継続雇用制度です。雇用確保措置実施企業のうち、81.7%が継続雇用制度を採用しており、定年の引き上げは15.7%、定年制の廃止はわずか2.6%に留まっています。(厚生労働省「平成27年高年齢者の雇用状況」集計結果)多くの継続雇用者は、短期雇用契約やパートタイムなどに雇用形態を変えつつ、同一企業で働き続けることになります。

では、60歳以前と以後では働き方にどの程度変化が生じるのでしょうか。給与水準の変化を見てみましょう。図1は継続雇用後の給与水準の変化率を見たものです。この表を見ると、男性では9割、女性では7割が60歳以降は給与水準が下がったと回答しています。男性の場合は、給与水準が半額以下になったという人も4分の1ほどいるようです。

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半数以上は「仕事の内容は変わらず」

次に仕事内容の変化を見て行きましょう。(図2)この調査によると60歳定年前と60歳以降の仕事内容・責任の重さ・労働時間がいずれも変わらないと回答している人が男女共に半数以上いるようです。(黄色の部分)いわゆるこの部分に該当する人々が、今回のテーマである「同一労働同一賃金」の原則に外れている人々と言っていいでしょう。

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60歳以降の望ましい働き方はいかにあるべきか

しかし、「同一労働同一賃金原則」に外れているからといって、60歳以降の働き方として、今まで慣れ親しんだ職場から全く異なる職場に移動させて、新しい仕事を覚えさせるというのも少々乱暴な話です。

「今まで培ってきた能力やノウハウを活かして働き続けたい」、「仕事に対するやりがいを保ち続けたい」と雇用継続者サイドが考える一方、「あまり上の方から意見を言われたり、指導、束縛されたくない」、「年寄りが多いと組織が活性化しない」などの意見を若い人は持ちがちです。組織内の目に見えない世代間対立がここでは生じています。60歳以降、企業内で雇用されていながらも、実質的には殆ど仕事が与えられない社内失業者も存在するという話も聞こえてきます。

先にも述べたとおり、今回の改正高齢者雇用法で多くの企業が雇用延長手法として選択したのは、一旦定年退職して再雇用するという方法でした。かつて1970年代に定年が55歳から60歳になった時に、多くの企業が選択したのは定年延長でした。経済成長が見込めた時代は定年延長に伴う人件費の増加を企業の成長力が補えたわけですが、低成長時代となった今、そこまで決断ができる企業はまだ少数に留まっています。ある意味で現在は高齢者活用を企業が模索する過渡期にあると言えるでしょう。

日本は既に人口減少局面に入っており、今後の労働人口の減少は明らかです。高齢期でもやりがいを持ちつつ働ける社会の実現は必須と言えるでしょう。就労年齢が65歳以降まで伸びつつある現在、高齢社員を活用できる企業こそが、少子高齢社会を生き延びる事が出来る企業であると言えるでしょう。