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人口減少社会でも人が増えるまちの秘密

斉藤徹超高齢未来観測所
人口を伸ばしているまちは住みやすい街か(写真:アフロ)

人口減少下の人口増加

先日、平成27年の国勢調査人口速報の集計結果が公表されました。既にメディアでも報道されている通り、大正9年から開始された国勢調査始まって以来、初めての人口減少となりました。日本人口がピークを過ぎたことは国立人口問題社会保障研究所による将来推計でも予測されていましたが、今回の結果は改めてそれを裏付ける形となりました。

平成27年のわが国の人口は1億2711万人。5年前と比べると94万7千人減少したことになります。年平均では毎年18万9千人の減少となり、鳥取市(19万3千人)に近い人口が減っていることになります。

前回調査に引き続き、今回調査でも大都市部への人口集中が鮮明になりました。平成22年から27年の間で人口増加した県は、沖縄県を除けば、関東圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)、愛知県、関西圏(滋賀県)、福岡県など都市部及び周辺県が中心です。市町村レベルで見ても、東京都特別区部、政令指定都市及びその市町村を中心に人口が増加し、一方で8割以上の市町村は人口が減少しています。

大きく人口を伸ばしたまちはどこか

このように大きく人口減少局面に入った日本ですが、個別に見ていけば、まだまだ大きく人口を伸ばしている市区町村も見受けられます。そこで、人口を伸ばしたまちにはどのような特徴があるのかを見ていくことにしましょう。

この表は平成22~27年の人口伸び率の上位20位までを市区町村別に並べたものです。

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最も人口伸び率が高い街は千代田区(東京都)でした。東京都特別区では足立区を除いた全ての区部で人口が伸びていますが、中でも千代田区(1位)23.8%の伸びと突出しています。もともと同区は行政地区で居住人口は少なかったところに、近年、市街地再開発、建築共同化によるマンション開発が進み、都心回帰現象とともに大幅な人口の伸びを見せました。特に岩本町、須田町など和泉橋地区の伸びが高い数値となっています。都市中心部での高層マンション開発に伴う人口増といった傾向は、東京、大阪の大都市中心部で共に顕著です。東京では、港区(3位・18.7%)、中央区(6位・14.9%)、台東区(9位・12.8%)、渋谷区(20位・9.9%)が高い伸びを示しています。

大阪府全体では今回初めて人口減となりましたが、中央区(4位・18.2%)、浪速区(8位・12.8%)、北区(10位・12.0%)、西区(11位・11.3%)では人口増となっています。

社会増プラス自然増で伸びる大都市周辺ベッドタウン

またもうひとつの大きな特徴は大都市周辺部ベッドタウンにおける人口増が著しい点にあります。2位の福岡県新宮町(22.9%)、13位の愛知県長久手市(10.7%)、14位埼玉県戸田市(10.6%)、15位茨城県つくばみらい市(10.5%)17位宮城県大和市(13.5%)などがそれにあたります。いずれも30代を中心とするニュー・ファミリー層が新たに引っ越して来たことによる社会増が人口増加の原因ですが、これら地区は、社会増に加え出産による自然増も高いのが特徴で、合計特殊出産率はいずれも国の平均を大きく上回っています。新宮町では1.80、長久手市1.55、戸田市1.55(平成20年~24年)といずれも高い出生率です。

新宮町は福岡市の隣接地区として、長久手市は4つの大学がある有数の名古屋近郊の学園都市として近年急速な成長を遂げています。戸田市も東京都に隣接するベッドタウンとして従来の工場跡地のマンション転換などで成長を遂げました。つくばみらい市はつくばエクスプレスの開業(平成17年)により都心のベッドタウンとして成長を遂げています。山梨県中巨摩郡昭和町も甲府市近隣のベッドタウンとして成長している都市です。

続く沖縄県の人口増加

ランキングの3つ目の特徴は沖縄県、離島です。沖縄県は地方で唯一の人口増加県で、平成22~27年で約4万人の人口増を果たしました。沖縄の高齢化率は20%に達しておらず、本土ほど高齢化が進んでいないことに加え、合計特殊出産率は1.86と高いため、県全体としてはまだ人口増加局面にあります。県内では都市部への人口移動が続いており、与那原町(12位・11.2%)、中城村(19位・10.0%)は共に市街地化が進むベッドタウンにおける人口増加です。一方、県北部や離島では人口減少が続いており、県内での南北問題が徐々に鮮明になってきています。

5位の鹿児島県十島村(15.4%)は、元々母数が少ない中での伸びですが、積極的な移住政策が功を奏して、鹿児島県からのIターン増加の結果の人口増でした。

バランスの良い街が住みやすい街

このように上位ランクの都市を見ると、同じ人口成長と言っても、純粋な人口移動のみによる人口増か、社会増と自然増の両方を伴ないつつ人口増加を果たしている都市に分類できることがわかりました。当然のことながら、どちらの都市が今後の日本にとって望ましい街なのかは言うまでもありません。昨今社会問題ともなっている「子育てしやすい街づくり」実現のためにも、これら人口成長を果たしている都市の中に新しい街づくりのヒントを見出していくことが重要かもしれません。

超高齢未来観測所

超高齢社会と未来研究をテーマに執筆、講演、リサーチなどの活動を行なう。元電通シニアプロジェクト代表、電通未来予測支援ラボファウンダー。国際長寿センター客員研究員、早稲田Life Redesign College(LRC)講師、宣伝会議講師。社会福祉士。著書に『超高齢社会の「困った」を減らす課題解決ビジネスの作り方』(翔泳社)『ショッピングモールの社会史』(彩流社)『超高齢社会マーケティング』(ダイヤモンド社)『団塊マーケティング』(電通)など多数。

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