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今年も始まった。北の町網走で「市民が観光列車に手を振る企画」

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。
札幌駅を発車する豪華観光列車 ザ・ロイヤルエクスプレス   撮影:矢野友宏氏

JR北海道を走る豪華観光列車「ザ・ロイヤルエクスプレス」の運行が今年も始まりました。

北海道を数日間かけてぐるっと周遊するこの観光列車ですが、オホーツク海に面する道東の町網走では、今年も町をあげての歓迎ムードが広がっています。

「ザ・ロイヤルエクスプレスに手を振って迎えよう!」というこの歓迎イベントは、網走市と網走市の観光ボランティア団体、MOTレール倶楽部が企画しているもので、地元の釧網(せんもう)本線の北浜地区を列車が通過する時刻に合わせて集合し、オホーツクの砂浜で皆様で列車に向かって手を振りましょうといういたってシンプルで、お金もかからないイベントです。

その手を振るイベントが先日の日曜日、8月28日から始まりました。

準備完了。皆さんで集合。列車が来るのを待ちます。

やがて列車がやってきました。

皆さん全員が手を振ったり大漁旗を振ったり。

腕章を巻いたスーツ姿の男性は警備のためのJRか市の職員の方でしょうか。

思わず両手を振っていますね。

なんだかほほえましい光景です。

「せっかくJRがこんな素敵な列車を自分たちの地元の路線に走らせてくれているのだから、自分たちもできるだけのことをして列車と乗客の皆様方におもてなしをしたい。」(MOTレール倶楽部代表 石黒明氏)

筆者も経験がありますが、旅先で地元の皆さんから手を振られると思わず振り返したくなるような、そんなうれしい気持ちになるものです。

そして、こういうおもてなしは、地元が旅行者の皆様方を歓迎しているということが列車の乗客にもとてもよく伝わるのです。

広い北海道の各地では地元の鉄道を「要らない」と結論付ける地域もあるようです。

地域の成り立ちや人口、高校生の数や高校の位置、地形や産業構造など、鉄道が成り立つ役割というものは同じ北海道でも全く異なりますので一概に言うことはできませんが、網走地区の住民の皆様方だって、普段使いで鉄道を利用していることはないと思われます。

でもそういう鉄道でも、「乗らないから要らない。」ではなくて、「乗らなくても何とか残すんだ。」という地域の思いが、ここ網走地区にはあるのではないでしょうか。

網走市では厳冬期の流氷の時期も観光列車のおもてなしを行っていますが、地域住民が列車に手を振ったり、車内販売をしたりすることで鉄道の赤字が解消するものではありません。

でも、自分たちができることからコツコツと一生懸命始めることが、鉄道を必要だと思う地域の意思表示にはなると筆者は考えます。

年間で億単位の赤字を地元の行政や住民が負担することは難しい課題ですし、JRという会社の赤字をそのように地元が負担することには議論が必要です。

でも、国交省鉄道局の田口課長が言われるように、「今こそ行動を。他人事ではなく、自分のこととして考えること。」(昨日のYahoo!ニュース参照)が地域に求められているのは事実であり、何もしないで鉄道を残すことはできない時代になったと思います。

普段使いで鉄道を利用することが難しい地域であっても、自分たちでできることをきちんと継続していくことが、今、地域には求められているのではないでしょうか。

北の町網走では地域住民の皆様方が行政と一緒になってこういう活動をしているということを、国交省や北海道庁、JRの幹部の皆様方にもぜひ知っていただきたいと筆者は考えます。

この、「ザ・ロイヤルエクスプレスに手を振ろう!」イベントは9月25日までの毎週日曜日、あと4回続きます。

【過去の関連ニュース】

今年も運転開始 「流氷物語号」 に見るJRと地元との関係(2022年1月30日配信)

≪手を振って観光列車をお見送り≫  北海道の豪華観光列車と地域住民の新しいかかわり方(2021年8月26日配信)

※本文中に使用した写真は運行初日の8月28日、MOTレール倶楽部千葉英介氏撮影。

えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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