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令和1年11月11日記念乗車券に見る鉄道業界の異変

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。
えちごトキめき鉄道の1並び記念入場券

えちごトキめき鉄道では明日の令和元年11月11日を記念して「-1.11.11」を刻印した記念入場券を発売しています。

スイッチバック駅の二本木駅と、トンネルの中の駅として来訪者が多い筒石駅の2駅の台紙付硬券入場券を直江津駅、糸魚川駅の2駅で発売しています。

和暦表示「-1.11.11」の「来駅記念入場券」(筒石駅及び二本木駅)の発売について

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発売する切符はこのような「硬券」と呼ばれる国鉄時代に主流だった固い厚紙でできた入場券。鉄道好き、特に切符類の収集家のファンの皆様方にとっては何とも懐かしい切符ですが、今回の「1並び切符」の発売に際していろいろ各社を調べてみると何となく業界に異変が起きているのではないかと感じました。

今回の令和1年11月11日の「1並び切符」を発売する鉄道会社は次のようなところがあります。

【和歌山電鉄】1並び和暦日付印の硬券普通入場券セットを限定発売

【くま川鉄道】令和1年11月11日(1が5並び)記念の伍福切符販売について

【上田電鉄】「令和1づくし記念乗車券」発売について

【山形鉄道】令和1年11月11日記念!ぞろ目難読駅名切符

【水島臨海鉄道】令和1年11月11日ゾロ目記念硬券入場券の発売について(ダッチングマシン体験付)

【井原鉄道】「おしらせ」井原鉄道1並び入場券発売

【伊賀鉄道】1並びの日記念入場券セットを発売

【関東鉄道】令和初 1ならび記念乗車券 500部限定発売

【伊豆箱根鉄道】令和1年11月11日記念乗車券セットの発売について

【JR四国】令和元年記念入場券セット、記念乗車券セット発売

【近鉄】令和1年11月11日記念入場券発売

インターネットで「1並び記念切符」を発売している鉄道を調べると、これらの会社があがってきました。(鉄道コム:イベント情報参照)

意外と少ないんですね。

平成の時代にはもっとあったのじゃないかと思いますが、各社とも増収に関心が無くなってきたのでしょうか。

記念切符を取り巻く環境の変化

今回の1並び記念切符の発売鉄道会社を見て気がついたことがあります。

それは大手の鉄道会社がほとんど参加していないということです。

この中で大手と呼べるのはJR四国と近鉄だけ。

あとは小さな鉄道会社ばかりです。

えちごトキめき鉄道をはじめとする田舎のローカル鉄道では、いろいろな企画を積極的に展開して増収に努めて行かなければならないお家事情がありますが、だからと言って、大手が増収策を取らなくても良いということはありません。

実際にJRでも「平成1年11月11日」をはじめ、「2年2月22日」や「5年5月5日」「22年2月22日」など、数字が並ぶゾロ目を見つけては積極的に記念切符を台紙付でセット販売してきた経緯がありますが、今回はその傾向が見られません。その理由として考えられるのは、

各社の切符の日付が西暦表記に変わってきていること。

これが大きな原因です。

すでに元号表記をやめているところが多くなってきているのが現状です。

えちごトキめき鉄道でも券売機や窓口で発券する切符は西暦表示になっています。

日付を打刻するダッチングマシンと呼ばれる刻印機もすでにありません。

そんな中、会社ではかつての刻印と同じ文字(フォント)のスタンプを作って、それを押印することで往年の切符の雰囲気を醸し出しています。

常備券を駅に置かなくなっていること。

昔は駅の切符売り場には行先別に数百種類もの切符を用意していて、窓口でお客様が「〇〇駅まで1枚」と言うと、1枚1枚の切符の場所や目的地までの運賃金額をすべて記憶している駅員さんが、一瞬でお目当ての切符を抜き出して日付を刻印し、おつりと一緒にサッと渡してくれる光景がどこの駅でも見られました。このような手売り時代には常備券と呼ばれる硬券切符が区間ごとに各駅に準備してありましたが、自動券売機が普及すると切符売り場の駅員さんと共に硬券タイプの常備券も姿を消しました。

最近まで残っていた青春18きっぷなどの企画切符もすでに機械で発券できるようになって常備券タイプは姿を消してしまいました。

機械で印刷される切符は年月が経過すると印字面が薄くなるものが多く、コレクターとしても魅力が半減してしまいますから、かつてのようなコレクションアイテムではなくなって来ているのです。

切符そのものが消えている

最近都市部では電車に乗る時に切符を買うという姿はほとんど見かけなくなりました。

スイカ、パスモなのど交通系ICカードが1枚あれば、あるいはスマホにアプリがあれば都市部の交通機関では全国どこでも共通で「タッチ」乗車できるシステムが、ここ10年で急速に発達し、駅の入口に並んでいる券売機も数を減らしました。残っている機械も乗車券の購入用と言うよりも、ICカードのチャージ用としての機能が求められています。

遠距離移動の際の新幹線や特急列車でさえ、スマホをタッチすることで改札口を通るお客様がとても多くみられるようになりました。

世の中が変化して、切符そのものが社会から急速に消えていっているのです。

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今から10年ほど前、平成22年2月22日に筆者が社長を務めていたいすみ鉄道で発売した「22.2.22」の切符です。

当時は大手鉄道会社を含め、各社でそれぞれ工夫を凝らした切符が発売されたと記憶していますが、この10年で記念切符ばかりでなく、切符そのものを取り巻く環境が大きく変化していることに、「令和1年11月11日記念切符」の発売状況を見てあらためて気がつきました。

これから、このような記念切符は田舎の小さな鉄道会社の専売品になる時代が来るかもしれませんが、各社ではいろいろ工夫をし、趣向を凝らした記念切符を発売して行きますので、これからも記念切符を通じてローカル鉄道にご声援を下さいますようお願い申し上げます。

※画像は筆者撮影

えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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