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エメラルド会員おじさんがLCCに乗ってみたら驚いた!

鳥塚亮えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。
成田空港を出発するLCCバニラエアの搭乗風景

LCC(格安航空会社)がこの国に誕生してまだそれほど時間が経過していませんが、若者を中心にかなり浸透してきているのではないでしょうか。

その魅力はもちろん「航空券の安さ」にありますが、実はそれだけではないようです。

筆者は赤い翼系のエメラルド会員ですが、航空業界出身でもともと飛行機に乗るのが好きなこともあって、実はLCCは時々利用しているのですが、今回は取材のために成田ー札幌間のバニラエアーを利用してみました。

第3ターミナルは遠いのか?

「成田の第3ターミナルは遠い」

よく言われていることですが、本当に遠いのかどうか、筆者は疑問に思っていました。

確かに京成電車で空港第2ビル駅に降り立って、第2ターミナルの建物の出口から第3ターミナルへ向かうところに「ここから630m」と書かれています。

「えっ? 630m?」と思われる方も無理はありません。山手線の日暮里-西日暮里間が500mですから、630mといえば一駅分以上歩く距離。「遠いなあ」と思うのも無理はありませんね。

でも、それはあくまでも第3ターミナルという建物までの距離であって、飛行機にたどり着くまでの距離ではありません。実際に成田空港でも第2ターミナルから出発する飛行機になると、空港の建物に入ってからチェックインカウンターまでの距離も相当ありますし、チェックインが終わってからもサテライト側のゲートであれば、もしかしたら630m以上の距離になるかもしれません。羽田空港だって結構歩かされますからね。

この「遠いですよ。」という距離感の演出は、長年にわたって高い着陸料金を支払わされてきた既存の航空会社に対しての成田空港会社の言い訳のようなもので、「LCCの会社のお客様のように安い運賃の皆様には多少不便でも歩いてもらいます。」と言うことで、既存の大手航空会社に対して整合性を図っていると筆者は考えます。

その証拠に、筆者が利用したバニラエアの場合、チェックインカウンターから保安検査場を抜けたすぐのところが搭乗口ですから、成田だけでなく羽田などの大空港のターミナルと比べると、カウンターからの距離は実に近いコンパクト設計と言えると思いました。

チェックインもスムーズ

チェックインも実にスムーズでした。

予約票を見せて、荷物を預けて、搭乗券をもらうまで5分も掛かりませんでした。

筆者の予約していた便は14時発ですが、筆者がチェックインカウンターを訪れたのは13:05。

赤組、青組といったレガシーキャリア(大手航空会社)を使っているエメラルドおじさんとしては、出発の55分前に空港に到着するのは標準的と言うよりも、どちらかと言うと早めの到着に当たりますが、LCCの場合は「遅い!」と言われる時間帯のようです。

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その証拠が搭乗券の右上に書かれた「0156」という数字。

これはチェックイン番号で、180席の飛行機の便の156番目にチェックインということを示しています。

つまり、空席を考えると「お前さん、ほとんど最後だよ。」と言われているようなものですね。

LCCをご利用になられるお客様というのは、早め早めに行動される方が多いのでしょう。チェックイン開始当初はカウンターに長い列ができますが、出発前1時間の時点ではガラガラになっているのですね。

もっとも、LCCの場合は荷物を預けるにも別料金がかかりますし、機内持ち込み手荷物は7kg迄など制限がはっきりしていますので、利用される方は事前に手荷物料金を払い込むか、あるいは宅急便等であらかじめ荷物を送って、身軽な格好で飛行機に乗り込む人が多いのでしょう。そういう人の場合はキオスク(自動チェックイン機)でも、またはスマホからWEBチェックインも可能ですから、何が何でもカウンターに並ばなければならないというものではありません。実によくできたシステムと、それを使いこなすお客様ということなのでしょう。

レガシーキャリアの荷物預けや保安検査場の長蛇の列を見ると頭がくらくらしそうです。

さて、いよいよ機内に入ります。

 

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成田空港の場合、国内線LCCの飛行機はほとんどが沖止め。

いわゆるボーディングブリッジというものがありません。

その理由はコスト。

いくら払うかは機体の大きさによって変わりますが、搭乗口からボーディングブリッジを使って直接飛行機に乗り込むスタイルは、1回ごとの使用料ばかりではなく、ブリッジの建設費も航空会社が応分の負担を求められることがありますから、LCCだからという理由で、たとえターミナルビルのすぐ前に止まっている飛行機であっても、搭乗口通過後にいったん階段で下に降りて、駐機場を歩いて、あるいはバスで飛行機まで行って、タラップを再度登る方式を取らされます。

その階段というのもエスカレーターなどなく、非常階段のような所を下りて行きますから、このバリアフリーの時代になんということでしょう。バリアフリーとは体に障碍を持つ人たちだけのものではないと筆者は考えますが、既存のレガシーキャリアと差をつけなければならない成田空港会社の方針ということなのでしょう。その証拠に到着地ではLCCといえどもボーディングブリッジを使用しているところが多くありますからね。

もっとも、LCCのお客様というのは手荷物も小さくまとめている人が多いですから、階段といえども皆さん実にスムーズで、赤組青組の上級会員によく見られるふんぞり返ったおじさん連中から比べると、スマートなお客様が多いのに気がつきます。

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さて、機内に入るとほぼ満席状態。搭乗率は90パーセントを超えていると思います。

昔は格安の会社というと古い飛行機で事故が多いというイメージがありましたが、それはアメリカが航空自由化をした1980年代の話で、今は燃料費が高い時代ですから、できるだけ最新型の新しい機材を使うのがLCCの常識です。

座席はシートピッチが大手航空会社の同じタイプの機材に比べると少々狭く感じる程度で、シートそのものは革張りでゆったりしています。

LCCなのになぜ革張りのシートを使うかというと、例えば飲み物などをこぼした場合でも革張りのシートであればサッと拭くだけで済みますので、折り返し便の座席が使用できなくなるという事態を防ぐことができるというのが大きな理由です。最近は大手でも革張りの座席が増えてきましたが、LCCだからといって決して陳腐なつくりではありません。

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筆者がLCCを利用するときにいつも予約をするのがこの非常口座席。

座席は同じですが足元がゆったりしていて、機内でも特別席といえる席です。

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非常口座席ですから緊急時には乗務員のお手伝いをするお約束が課せられますが、航空会社出身の筆者としてはもちろん了解ですから、いつもこの座席を予約するのですが、LCCの場合はこの座席は緊急時のお手伝いをするのはもちろんですが、このゆったり座席は有料なのです。

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いくらかというと、1500円。

目的地までの航空運賃が数千円というLCCでは、お客様にとって1500円という金額はきっと考えてしまう金額なのかもしれません。

確かに1500円あれば1回おいしいご飯が食べられますから、移動はできるだけ安く済ませて、現地でおいしいものを食べる方がリーズナブルですね。そのためか、座席指定に特別にお金をプラスするということをしないお客様がほとんどなのでしょう。筆者は14列の席でしたが、この日の便は前の方に数席空席がある程度で後ろは満席。にもかかわらず筆者が座った非常口座席の2列(12席)には2人しかいませんでしたし、座席には1500円と書いてありますので、離陸してからも「ここ空いてますか?」とちゃっかり席を移動してくるお客様もいませんでした。

つまり、筆者は結果として1500円で札幌まで前後左右共にゆったりとした席に座ることができたわけで、このへんも大手レガシーキャリアとは違うところですね。

機内サービスは?

さて、機内ですが、基本的に無料のサービスは何もない状態です。

イヤホンも無ければビデオもありません。もちろんWifiも無し。

これは大手と一番違うところですが、では、実際にお客様はどうしているかと機内を歩いてみましたら、寝ている人は別として、機内では多くの皆さんがスマホでゲームをやったり動画を見たりしています。中国語を話す若い女性のグループなどは通路越しにトランプに興じていたりと、皆さんそれぞれにお楽しみのご様子。

考えてみれば今の時代ですから、飛行機の中で落語を聞いたり、与えられた動画を見たりするのはおじさん世代ぐらいで、自分も含めてそういう人たちは年を追うごとに今後少数派になって行き、やがては絶滅危惧種となるわけですから、そういうサービス設備を全座席に取り付ける必要などないということなのでしょう。この辺りもLCCならではの割りきりです。

エメラルドおじさん的には、することがないのでシートポケットの機内誌をぺらぺら。

するとどうでしょう、そこには機内食メニューがあるではないですか。

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それもホットメニューです。

実は筆者は以前からLCCを利用するときの楽しみとして、この機内食をいただくのでありまして、なぜならこれは大手航空会社では上級座席にしかないサービスですが、LCCの場合、普通座席でも機内食が食べられるのですから、ありがたいものです。

もちろん有料ですが、サービスというのは何も無料なものばかりではありません。たとえお金を払ってでも、温かい食事が出てくるというのは、おもてなしとしてはありがたいものです。

昨今の新幹線や特急列車では、お金を払うと言っても「何もありません」と冷たく言い放たれるのが関の山の時代に、わずか1時間程度の飛行時間でも、お腹が減った時にそれを満たすサービスがあるのは、鉄道ではなくて飛行機、中でもLCCを選択する大きな理由になると考えます。

LCCでは会社によっては機内へ飲食物の持ち込みを禁止している会社もありますが、その理由は機内が汚れるのを防ぐため。

折り返し時間での機内清掃を簡略化することで折り返しのための滞在時間を短くして、少しでも飛行機の効率を上げるのがLCC最大の特徴ですから、機内のあちらこちらでごみが発生するようなことは避けたいという事情があります。決して機内販売品が売れなくなるからという理由ではありません。

カップヌードルも各種あるようです。
カップヌードルも各種あるようです。
クリームパンとコーヒーのセットは500円
クリームパンとコーヒーのセットは500円
かわき物も各種ありますね。
かわき物も各種ありますね。
飲み物もこの値段ならリーズナブルといえるでしょう。
飲み物もこの値段ならリーズナブルといえるでしょう。
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ということで筆者が選んだのはコレ。

函館商業高校と共同開発したスープカレー。

850円也をクルーに払って、「温めますのでしばらくお待ちください。」と10分ほど待って出てきました。

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熱々のスープカレーです。

たぶん周囲の座席のお客様にはカレー臭ぷんぷんだったと思いますが、航空会社が機内で提供している食事ですからマナー違反でもエチケット違反でもありませんよね。

たいへんおいしくいただきました。

今の時代は均一サービスというよりも、選択できるサービスが重要視される時代です。

食べたい人もいれば要らない人もいる。

お金を払ってでも食べる人もいれば、お金を払いたくない人もいる。

メニューも数種類あってある程度好きなものを選択できる。

そういうお客様が選択する時代に、特急列車ではサービスを提供する側が選択肢を用意しないどころか、お客様の選択を拒否するようなことを平気で行っているわけですから、鉄道会社と航空会社の両方を経験している筆者としては実に不思議です。

この機内食ですが、カタログの商品がすべて常に準備されているようではないとのことですが、筆者としては搭載数や廃棄率が気になるところです。今度会社にお聞きしてみたいなあと思いました。

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さて、次に気づいたのは機内で空港連絡のスカイライナーやリムジンバスのキップが買えること。

筆者の便は成田発札幌行でしたので対象外でしたが、成田到着便では機内でスカイライナーやリムジンバスの切符を買うと割引になるというもので、到着後に利用しようと考えている人にとってはお得なサービスです。

機内で支払い済みのバウチャーを渡されて、駅で座席指定を受ける方式ですから到着が多少遅れても心配する必要もありません。

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もう一つ目についたのがこの「JR九州レールパス」のご案内。

九州全体で新幹線や特急列車がフリーパスになる乗り放題切符が3日間で15000円。

「ずいぶん安いなあ。」と感じました。

それもそのはず、JR九州が一般的に売り出しているフリーパスは普通列車乗り放題の「ぐるっと九州きっぷ」が3日間で14000円(ネット販売価格)。特急列車や新幹線を利用する場合には別途特急券が必要ですから、ずいぶん割安感のある切符になります。

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おやっ? と思ってよく見ると、

「日本に住んでいる人は購入することができません。」と下の方に小さく英語と中国語で書かれています。

そう、この切符はJRが販売している外国人観光客向けのフリー切符で、日本人は対象外なんですね。

私たち日本人には高い商品を買わせておいて、一見(いちげん)様の外国人には同じサービスを安く提供するという昨今のJRのやり方には納得しがたいものがありますので、この件については別の機会に書かせていただきたいとは思いますが、大切なのは、やるんだったらこういう価格を日本人に知られてはならないということでしょう。知ったらふつうは怒りますからね。

まあ、それも含めて多様性の時代ですから、怒りを覚えるエメラルドおじさん世代が時代についていけてないのかもしれませんが。

総評と課題

さて、今回あらためて記者目線でLCCバニラエアーを利用してみましたが、相対的に大手レガシーキャリアと比較して、まずお値段ですが、大手の場合は東京ー札幌、片道普通運賃が38000円。1週間前予約の特割運賃が約25000円です。

今回筆者が利用した成田14時発のバニラ917便は、1週間前の予約で約7000円。(受託手荷物料金込み)

それにゆったり座席(リラックスシート)料金、決済手数料などを入れて9000円ちょっとの金額でした。

もちろん専用カウンターや出発前のラウンジはありませんし、手荷物優先引き渡しなどもありません。

(ただし、12列目、14列目をご予約のお客様用の優先チェックインカウンターはあり)

でも、もともと小さな飛行機ですから、到着後の手荷物引き渡しもスムーズでしたし、特に何も問題はありませんでした。

優先チェックインカウンター、専用ラウンジ、優先搭乗、手荷物優先引き渡しと、航空会社から腫れ物に触るような扱いをされたい「俺を誰だと思ってるんだ」的な経費おじさんは別ですが、ふつうに考えたらこのお値段の差ですから、まして札幌線などの幹線は便数も多く出ていますから、当然、選択肢としてはLCCの名前が挙がってもおかしくないと思います。

ただし、問題なのは成田空港発着という点でしょう。

都心から遠いというのもちろんですが、成田空港は昔からいろいろな問題点を抱えています。

そして、過去の経緯がたくさんあります。

筆者は大手航空会社に勤務していましたからよく理解できるのですが、LCCが入ってくるとなった時に、それまで高い着陸料金や施設使用料金を払ってきていた大手会社としては、LCCだからと言って安い料金を適用することを認めることはできませんでした。

「LCCに安くするんだったら、自分たちも安くしろ。」ということです。

おそらく成田空港だけでなく関西空港なども同じかもしれません。

そういう過去の経緯がありますから、空港運用会社は、わざわざLCC用に遠くて不便で安普請の、バラックのようなターミナルを建設して、差をつけることで差別化を図ろうと考えたのです。

「格安航空会社のお客様は、不便なのは我慢してくださいね。」

と、当然のように世の中に問いかけをしたのがLCC専用ターミナルなのです。

でも、これは10年前の話で、この10年で航空業界は大きく変わりました。

特に成田空港を取り巻く環境は激変しています。

すでにプレミアムトラフィックと呼ばれる上級クラスのお客様は羽田へシフトして、レガシーキャリアであっても成田空港そのものが「成田便は安いから利用する。」という空港になってしまっているのです。

今回私が利用したバニラエア917便は、成田14:00発、札幌15:50の便でした。

時刻表上の所要時間は1時間50分です。

羽田-札幌便の通常の所要時間は1時間35分ですから、15分多く時間を要しています。

これは、成田空港自体の混雑や、空域の問題などがあるためですが、地上での折り返し時間を1分でも短くすることで航空機の回転率を上げる必要があるLCCにとって、この15分は実に大きい時間です。

実際私が乗った917便は、定刻の14:00きっかりにドアが閉まりました。

そしてプッシュバックしたのが14:05。

それから延々と地上滑走を続け、A滑走路16Rから離陸したのは14:54。

プッシュバックしてから49分後です。

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離陸のために滑走路へ入る917便。

後ろには離陸待ちの飛行機の長蛇の列が続きます。

この成田空港の離陸待ちのための遅れで、新千歳の滑走路に着陸したのが16:19。

スポットインしたのが16:24でしたから定刻よりも34分遅れです。

当然、折り返し便も遅れていくことになります。

つまり、成田空港のような所をベース基地にしていてはLCCという商売そのものが成り立たなくなる可能性があるということなのです。

第2ターミナルから出た小型の飛行機であれば、すぐ近くのB滑走路から離陸すればよいものを、わざわざ遠いA滑走路まで誘導して離陸まで40分以上待機させる。空港というところは様々な運用規定がありますから「そう簡単にはいかない」と言われるかもしれませんが、成田空港の存在価値が問われている時代に、「LCCなんだから優先順位が低くても仕方ないでしょう。」的な発想がどこかに残っているとしたら、

「いやいや、何を言ってるんですか。今時の成田は格安航空会社で生きていかなければならない格安空港なんですよ。」

ということを、誰かが教えてあげないと、いつまでも利用者不在が続くことになりますね。

バニラエアはこの秋にはピーチに経営統合されるようです。

もともと同じ大手の会社が関空ベースと成田ベースに分けて別々のLCCを作ったところですから、統合は最初から計画されていたのかもしれませんが、成田の会社が成田ではやって行かれなくなったというところに、大きな問題があると筆者は考えているのです。

航空会社は、いくら大手でも、御上に対しては言いたいことが言えませんから、ある意味筆者が代弁しているのでありますが、ふだん飛行機に乗るときは偉そうにふんぞり返っている上級会員のおじさんたちも、たまにはLCCに乗ってみることをお勧めいたします。

腹が立つことも含めて、LCCにはいろいろな発見があって面白いですよ。

※注:

この記事には航空会社の見解や意見は含まれません。あくまでも筆者個人の感想です。

文中の写真はすべて筆者撮影です。

えちごトキめき鉄道代表取締役社長。元いすみ鉄道社長。

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長に就任。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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