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全くの期待外れ、帰国後3日間待機に短縮も面倒すぎる手続き。日本企業の海外出張に高すぎるハードル

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
羽田空港第3ターミナルの到着ロビー(2021年10月17日、筆者撮影)

 11月5日の夕方、政府はビジネス目的の日本人の海外からの帰国及び海外からのビジネス目的での入国などに対し、ワクチン接種済みであることに加えて、受け入れ企業側(日本人の場合は勤務している出張を命じた企業)でコロナ対策の責任者となる「受入責任者」を指名し、帰国後4日目~10日目の活動計画書をはじめとして、様々な書類を提出することで3日間待機+7日間の行動管理という新たな水際対策が発表され、11月8日(月)からスタートするが、日本企業側からは全くの期待外れの声が出ている。

14日間→10日間→ビジネス出張の帰国時に限り3日間待機+7日間の行動管理。しかし3日間に短縮の手続きは煩雑

 今年9月30日までは海外から日本に帰国した場合において、原則14日間の自主待機が求められていた(指定された感染拡大国については、3日・6日・10日の指定ホテルでの待機の後、帰国後14日間の自主待機)。自主待機とは、公共交通機関を使わないことを条件に自宅での滞在も可能であるが、自宅までの足が確保できない場合には自己手配でのホテルなどに滞在するというルールになっていたが、ワクチン2回接種については、10月1日以降、10日目以降にPCR検査もしくは抗原検査を受けて陰性であることが証明されれば10日間の自主待機に短縮された。ワクチン未接種者(ワクチン2回接種後2週間が経過していない場合も含む)は14日間となっている。

 しかしながら、11月5日に発表された厚生労働省のホームページに掲載されている資料に目を通すと、3日間短縮にする場合の手続きがあまりにも煩雑すぎることがわかった。簡単に言うと、ビジネス目的で日本に入国する外国人に対しては、入国後の行動を明確にしなければならない点からも理解ができるが、日本人の帰国者について、これほど煩雑な手続きが必要であるのかという疑問である。

 日本人の海外へのビジネス出張の活性化には、ほど遠い中身となっている。経団連は、9月にワクチン2回接種を終えた日本人出張者の帰国において、自主待機の免除もしくは3日間程度を求めていたが、これほどの手続きが必要になることは想定していなかった。これなら10日間待機を選択する企業も多くなってしまう。

羽田空港では到着後、指定された導線に従って手続きが行われる。途中で唾液による抗原検査が行われる(2021年10月17日、羽田空港にて筆者撮影)
羽田空港では到着後、指定された導線に従って手続きが行われる。途中で唾液による抗原検査が行われる(2021年10月17日、羽田空港にて筆者撮影)

日本に入国する全ての人に求められる誓約書や健康カードなど(筆者撮影)。機内で記入する必要がある。
日本に入国する全ての人に求められる誓約書や健康カードなど(筆者撮影)。機内で記入する必要がある。

3日間短縮には事前に6つの資料・データを提出する必要が。勤務する会社に受入責任者を決める必要がある

 3日間短縮のために必要なこととしては、日本人出張者の帰国の場合を例にすると、事前に勤務する会社の社員の中から帰国者の管理をするという名目で「受入責任者」というのを決める必要がある。この受入責任者は、帰国者の待機施設(自宅もしくはホテル)などの確保、移動手段の予約、更には検査手段の確保などの役目を担うと定義されている。また事前に以下の6つの書類を用意して、申請しなければならない。

1.申請書

2.誓約書

3.活動計画書

4.入国者リスト

5.入国者のパスポートの写し

6.入国者のワクチン接種証明書(写)

 申請書、誓約書、活動計画書、入国者リストのフォームは厚生労働省のホームページからダウンロードすることができる。

活動計画書などは事前承認が必要。業種によって受付する省庁が異なる

 外国人の受け入れであれば、これらの書類を事前に申請する必要性について一定の理解はできるが、日本人の帰国においては誓約書と活動計画書だけでも十分であり、活動計画書の中に勤務する企業の受入責任者の名前を入れれば問題ないだろう。

 そして何よりネックとなるのが活動計画書だ。必要事項を記入した後に業所管省庁による事前承認が必要となる。この業所管省庁とは、業種によって監督官庁が異なり、勤務する会社の業種によって活動計画書の事前承認先が異なるのだ。業種別のリストは厚生労働省のホームページに掲載されているが、日本人出張者の帰国であれば、統括する厚生労働省が対応すれば十分であるが、11月5日に発表されたルールでは業種によって承認官庁が異なることになっている。

 承認までの日数についての記載もないが、日本人出張者の帰国に限定すれば、活動計画書の承認手続きは、羽田空港や成田空港など到着空港での書類提出・承認でも問題ないと考えるのが普通だろう。目的としては、行動計画書通りに帰国者が遵守することであり、違反すれば勤務する企業側に対して何らかのペナルティを科すルールにすればいいだけの話である。

帰国時に受入責任者が空港へ出向く必要がある模様

 6つもの書類提出及び書類作成の量は膨大であり、冒頭でも述べたように帰国後、4日目以降に勤務する会社に出勤するだけの行動であっても面倒すぎる手続きが必要となるほか、ルールをしっかり読むと、企業側の受入責任者は帰国する出張者を空港に迎えに行かなければならないようだ。更にルール通りの解釈だと待機施設(自宅やホテルなど)までの移動にも同行する必要がある。

 10日間もしくは14日間の自主待機では帰国者単独で移動できる現状を考えると、受入責任者を同行させる必要はない(外国人のビジネス目的での入国時には同行させる必要はあるだろう)。

 受入責任者の役目として納得できる点としては、帰国して4日目以降は行動計画書に沿って、受入責任者は毎日、メールや電話などを使って帰国した出張者の行動をチェックする点くらいである。3日目、そして10日目にPCR検査もしくは抗原検査などの検査が求められるほか、その後は人との接種がある行動に応じて適宜、検査することが求められ、そのチェックなどの役割も担う。

3日目・10日目の検査は、指定されたクリニックや検査センターでPCR検査もしくは抗原検査を受ける必要がある(写真は羽田空港第1ターミナル内の木下グループ新型コロナPCR検査センター)
3日目・10日目の検査は、指定されたクリニックや検査センターでPCR検査もしくは抗原検査を受ける必要がある(写真は羽田空港第1ターミナル内の木下グループ新型コロナPCR検査センター)

公共交通機関の利用は飛行機や新幹線など指定席がある乗り物や事前予約のタクシーなどに限る

 4日目~10日目の行動計画書に沿った行動時における公共交通機関の利用については、国内線、新幹線、特急列車などの座席指定ができるものに限って使える。つまり、地下鉄や近郊列車など自由席しかない列車の利用は不可となる。タクシーの利用は、運転手と空間的分離ができる車両(運転席と後部座席の間の仕切りなど感染対策が施されている)で事前予約した場合に限って利用できる。

 また会食などレストランなどでの食事については、直前の検査、第三者認証店を利用、原則個室で実施し、飲酒は必要最小限にすることで認められるが、 国内在住者との会食では、参加者全員の会食後10日間の健康観察(体温や症状の有無等) が求められる。東京オリンピック・パラリンピック大会期間中の海外メディアや関係者に対して行った措置に近いものと言える。

海外から日本に入国する外国人ビジネス出張者に対する措置としては理解できるルールであるが

 このように今回の3日間の短縮について、全てのベースになっているのが海外からのビジネス出張者に対しての措置であり、日本人ビジネス出張者の帰国についてはもう少し柔軟な対応が求められる。10日間を3日間に短縮するのに、そこまで複雑にしなければならない根拠を示して欲しいところだ。

 筆者自身も10月中旬にフランス出張から帰国した際に10日間の自主待機をしているが、帰国後は毎日、帰国者用の専用アプリ「My SOS」を使い、AIを活用したビデオ通話が1日1回、更に位置情報の報告が1日2回程度、さらに健康状態のアンケートに毎日回答するなど、昨年に比べると待機施設で待機しているかのチェックについては厳密に行われていた。

 定期的に位置情報確認を求められることで、居場所の特定に繋がる。もし、行動計画書の範囲外に出ていることであれば、警告するなどの処置を取ることも可能だ。日本人ビジネス出張者の帰国において、ここまで複雑で煩雑な手続きが必要となると、10日間が3日間に短縮されることのメリットは限定的である。

厚生労働省が管轄する入国者管理センターが管理するアプリ「My SOS」の画面
厚生労働省が管轄する入国者管理センターが管理するアプリ「My SOS」の画面

フランスなどヨーロッパの国のほとんどでワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)もしくは直前のPCR検査の陰性証明書で入国後隔離なしに行動できる(パリ、シャンゼリゼ通りにて10月10日筆者撮影)
フランスなどヨーロッパの国のほとんどでワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)もしくは直前のPCR検査の陰性証明書で入国後隔離なしに行動できる(パリ、シャンゼリゼ通りにて10月10日筆者撮影)

今回の新ルールでは海外へのビジネス出張はそれほど増えない?

 経団連が数ヶ月にわたって求めていた、ワクチン2回接種者の日本帰国時の隔離なしもしくは3日間程度の自主待機に短縮すべきだという提言に対して、3日間の短縮にはなったが、ここまで面倒な手続きをしなければならないというのは、企業側にとっても想定外だったと言える。

 このルールが続けば、日本人の海外へのビジネス出張はそれほど増えないだろう。2020年4月に入国制限が始まってから約1年半が経過し、海外とのやりとりはオンラインが中心となったが、オンラインでは限界であり、対面での商談や技術指導などで、直接現地に飛ばなければならないケースが増えてきている。現地に飛べないことによる経済的損失も出始めている。そういった意味でも新型コロナウイルスの感染者数が落ち着いている今、ワクチン2回接種者の帰国後の感染状況の数字を踏まえ、もう少し柔軟な対応を求めたいところだ。

 海外では欧米を中心にワクチン2回接種者の隔離免除が進むなか、今回の3日間の短縮の対象外となっている日本人の観光目的での帰国時の日数短縮も遅れることになりかねず、日本人の海外旅行の回復も遅れることになってしまうことになりそうだ。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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