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Go Toで旅行者に激震。楽天トラベル・じゃらんなど配分枠不足で割引が大幅制限。予算余ってるのになぜ

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
楽天トラベルでGo Toの割引制限が始まった(楽天トラベルのホームページより)

 約1兆3500億円が投じられている「Go Toトラベル」キャンペーンは、7月22日に東京都発着を除外する形で35%割引という形で(一人1泊あたりの最大割引金額は1万4000円)スタートし、10月1日からは東京都発着が除外が解除され全国全てで利用できるようになった。35%割引に加えて15%分の地域共通クーポン(一人1泊あたり最大6000円)の配布も開始され、当初政府が発表していた完全な形でスタートした。来年1月31日宿泊分までがGo Toトラベルの割引を受けられる予定になっている。

東京除外解除と地域共通クーポン配布開始で予約は上昇中

 特に10月1日から全国全てでGo Toが利用できるようになり、地域共通クーポンの配布が開始され、ようやく本格的にGo Toが利用できるようになったことで東京都民の利用も大きく増えた。近場に旅行する「マイクロツーリズム」も引き続き堅調であることに加えて、飛行機や新幹線を使った国内旅行も増加傾向にある。ANAでは1週間前の10月3日(土)・4日(日)の週末においては、前年比で40%の利用者に留まってはいるものの、2日間で約4.8万人が国内線を利用した。10月の秋の旅行シーズンにおいて、感染者数の推移次第ではあるがANAでは前年比50%水準までの回復を見込んでおり、9月後半から10月・11月の予約が増えているとANAは話す。

9月19日の4連休初日から旅行需要が回復傾向にあり、10月・11月の国内線新規予約も増加傾向にある(9月19日、羽田空港第2ターミナルで筆者撮影)
9月19日の4連休初日から旅行需要が回復傾向にあり、10月・11月の国内線新規予約も増加傾向にある(9月19日、羽田空港第2ターミナルで筆者撮影)

予算は余っているのに楽天トラベル、じゃらん、一休などで予約制限が始まった

 このような傾向に水を差す動きが出ている。Go Toトラベルの予算はまだ余っているなかで、「三密」を避ける意味でも個人旅行化が進んでおり、Go Toの割引もスムーズに受けられる楽天トラベル、じゃらん、一休.comなどの宿泊予約サイト(旅行予約サイト)の利用が増えているが、楽天トラベルでは10月8日(木)にGo Toの国からの割当額を使い切ってしまう(もしくは使い切る見込み)ことで、本来のGo Toのルールでは期間中であれば一人何度でも利用できるのだが、10月9日(金)以降の新規予約において、1会員あたり1回(1枚)のルールを設けることを発表した。楽天トラベルに取材をすると、割り当てられた配分額に到達することは認めている。

 同様の動きが、じゃらん、一休.com、Yahoo!トラベルなどで見られている。各社の10月10日11時時点での状況は以下の通りとなっている。

主要予約サイトの動き

■楽天トラベル

10月9日(金)以降、1会員あたりの利用上限枚数(35%OFFクーポン)を1枚(国内宿泊:1予約1部屋、国内ツアー:1予約)まで。

※10月9日以降は当面の間、1回しかGo Toトラベルの予約ができない。

■じゃらん

10月10日(土)午前2時以降に予約する場合の割引額の上限を一人1泊あたり最大3500円(税込)に変更。

※一人1泊あたり1万円以下は35%になるが、それ以上の場合の割引率が下がることになる。

■一休.com

10月10日(土)午前2時30分以降の予約における割引額の上限を一人1泊あたり最大3500円割引に変更。

※一人1泊あたり1万円以下は35%になるが、それ以上の場合の割引率が下がることになる。

■Yahoo!トラベル

10月10日(土)午前0時以降の予約における割引額の上限を一人1泊あたり最大3500円割引に変更。

※一人1泊あたり1万円以下は35%になるが、それ以上の場合の割引率が下がることになる。

上記を見ると、3大宿泊予約サイトである、楽天トラベル、じゃらん、一休.com全てで制限を受けることになった。

最初の2ヶ月で735億円しか使われていない。想定の2割程度

 10月6日に国土交通省が発表したGo Toトラベルの利用実績について、7月22日~9月15日までの約2ヶ月において、少なくとも約1689万人(泊)の利用があり、割引支援額は約735億円となっている。今回、国民に割引支援される事務所経費などを引いた額は約1兆1500億円程度であり、本来は1ヶ月間で約1500億~2000億円程度使われる想定だった。地域共通クーポンの発行がない影響もあるが、月間想定の5分の1程度の利用しかされていないのだ。

 東京都発着除外が9月末まで続き、新型コロナウイルスの新規感染者数も7月・8月に増えたこともあり、計画通りには使われておらず、予算は残っている状況にある。10月9日の赤羽一嘉国土交通大臣の定例会見でも1月31日終了は目安であり、実際に(Go Toトラベル)事業を終了することではないとコメントしており、現状では延長の可能性が高い。

コロナ禍の個人旅行化でネット予約に予約が集中

 このように予算が残っている状況にも関わらず、宿泊予約サイトの大手3サイト全てが予約制限になったこと自体が大きな問題だ。現在のコロナ禍における旅行スタイルの中心は個人旅行である。大手旅行会社のカウンターで申し込むよりも、自宅でパソコンやスマートフォンなどで簡単に予約できる宿泊予約サイト(旅行予約サイト)で予約するケースの方が圧倒的に多い。コロナ禍でよりその傾向が強くなっている。

 国土交通省に取材をすると、宿泊予約サイト(旅行予約サイト)や旅行会社、宿泊施設などはGo Toトラベルにおける給付枠をGo Toトラベル事務局に申請している。その際に前年度の実績及び今後の販売計画などについて「取扱実績報告書兼販売計画書」などを提出する。その後、給付額の枠が提示されるという流れであるが、基本的には団体旅行やパッケージ旅行なども含めた前年の売上実績から配分を決定していると話すが、個人旅行を中心とした現在の状況であれば、当然インターネットに特化した予約サイトの方に人が流れるのは明らかであり、実際に旅行会社の旅行商品よりもオンラインの宿泊予約サイト(旅行予約サイト)の方が伸びが顕著である。

特に割引金額が大きいホテル・旅館など普段泊まれない宿泊施設を旅行者が選ぶ傾向にある(写真はヒルトンお台場東京。筆者撮影)
特に割引金額が大きいホテル・旅館など普段泊まれない宿泊施設を旅行者が選ぶ傾向にある(写真はヒルトンお台場東京。筆者撮影)

宿泊予約サイトに予約が集中しているのは自助努力でもある

 正直、どの予約サイトを利用するか、どの旅行会社を利用するのかは旅行者自身が決めるものであり、魅力的な商品を販売してたり、使いやすいホームページになっているところに予約が集まるのは当然であり、この点については自助努力による成果であると考えられる。

 しかしながら、今回、業界関係者の話ではJTBなどの大手旅行会社ではGo Toの配分された給付額の予算は余っており、問題なく今後も35%割引+15%の地域共通クーポンが利用できる見込みであると話す。また別の旅行会社関係者からは「宿泊予約サイトで枠を使い切って割引が受けられないことで、引き続き35%割引が受けられる今まで苦戦していた店舗型をメインとする旅行会社に流れることを期待している声も聞かれる」と話す。販売力があるかどうかの問題であり、ようやく国内旅行に出かけようと思っている人が多いなかで水を差す動きだ。

今すぐに緊急の追加配分を実施しないと旅行者が減少してしまう

 国土交通省に取材をすると、1兆1500億円全てを配分しているわけではなく「具体的な(これまでの配分額)金額は言及できないが、今後新たに配分することになる」と話す。当初は来年1月末までGo Toトラベルでお得に旅ができるように期間・方面別に配分することで、早期終了をしない制度設計になっていた。この点は理解できるが、予算の消費が当初目標に程遠い状況であるのであれば、予算が余っている状況であることから、給付額がなくなりそうな段階で早急に新たな緊急配分を実施すべきだろう。今回の急なルール変更で大きな迷惑を受けるのが旅行者と宿泊施設側である。

予約制限の被害者は旅行者と宿泊施設

 旅行者においては、せっかくGo Toトラベルを使ってお得に旅行できると思って、「楽天トラベル」「じゃらん」「一休.com」などのホームページで予約しようとしたら、希望通りに割引が受けられないのであれば、人によっては旅行自体を取りやめる人も出るだろう。他の旅行会社や旅行予約サイトでGo Toが使えるプランを探す人もいるだろうが、面倒だからやめようという人も間違いなくでる。

 まさに本末転倒であり、旅行の機会を失うことはもちろん、特に「楽天トラベル」「じゃらん」に予約を依存する中小の宿泊施設にとっても大きな打撃になる。Go Toトラベル全体の予算を使い切ってしまう状況であれば、仕方ないのだが、期間の延長が叫ばれている状況での今回のルール変更は今すぐ改善すべきだろう。

各社への配分額を公表するべき

 今回、Go Toトラベルの事務局業務を担うのが「ツーリズム産業共同提案体」である。日本旅行業協会(JATA)を中心にJTBやKNT-CTホールディングス(近畿日本ツーリスト)、日本旅行、東武トップツアーズなどが名を連ねている。JTBを中心に事務局に社員を出向させ、Go Toトラベルの事務所業務をしている。業界関係者からは「事務局に出向者を出している旅行会社とそれでない旅行会社で持っている情報が違いすぎる」と嘆く。予算配分の計算方法も不透明な部分も多く、予約サイト・旅行会社・宿泊施設ごとの配分額自体も公表されておらず、税金を使っていることから公明正大に公表すべきという声が上がっている。国土交通省は取材に対して公表については「(現時点では)答えられない」としたが、今回の件を機に公表するべきだろう。

 秋の行楽シーズンへ向けて10月・11月の予約も入り始めているなか、水を差すことにもなりかねない宿泊予約サイトのGo Toの予約制限の解消へ向けて、週明けすぐにでも枠を使い切ってしまった宿泊予約サイトなどに対して追加配分をし、従来通りに予約回数無制限の状況に戻して欲しい。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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