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ANA、ハワイ便で使用のエアバスA380で遊覧飛行。人気沸騰で新しいビジネスモデルになる可能性も

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
8月22日、ANAのエアバスA380型機を使った遊覧飛行の搭乗風景(筆者撮影)

 海外旅行へ出かけることができない2020年。昨年(2019年)5月にANAが成田~ホノルル線の専用機として投入した1機で520人をハワイへ運ぶことができる総2階建て飛行機エアバスA380型機「FLYING HONU」は、3月25日にホノルル空港から成田空港に到着後、お客様を乗せての運航を休止している。

ハワイ旅行解禁の目処が立たず

 6月24日にハワイ州デイビッド・イゲ知事が、到着前72時間以内におけるPCR検査の陰性証明を出発前に取得することを条件に8月1日から到着後14日間の到着後隔離措置を免除するという発表があり、8月から少しずつハワイへの渡航が動き出すのではないかと思われた。しかしながら、7月13日にアメリカ国内での感染者数が減らないこともあり、観光客の受け入れ再開を9月以降に延期することを発表。8月中のハワイへの旅行は幻のものとなった。

 現在、日本とハワイを結ぶ定期便は全便運休となっており、JAL(日本航空)が8月1日以降、羽田~ホノルルの臨時便の運航を開始し、8月中は4往復のみ運航しているほか、9月も臨時便が運航される計画となっているが、定期便再開は入国制限の解除後になるだろう。

ハワイ線専用機A380で成田空港発着の遊覧飛行

 「ハワイのウミガメ」をイメージした塗装で人気のANAのエアバスA380型機「FLYING HONU」は、3月25日以降は成田空港に駐機したままになっていたが、整備の関係で6月23日に約3ヶ月ぶりにお客様を乗せない形で整備フライトとして約30分ほど成田空港周辺を飛行した。筆者もこの日は成田空港で整備フライトの離着陸を取材していたが、多くのメディアが整備フライトを記事にしたことで、記事を読んだ人が「夏休みに旅行へ出かけられない中でお客様を乗せての遊覧飛行を是非実施して欲しい」という要望が複数ANA側に寄せられた。

 その声を反映する形で社内で検討を重ねた結果、ANAは8月22日にお客様を乗せて成田空港から約1時間半の遊覧飛行をするチャーターフライトを開催することを7月22日に発表した。

滑走路へ向かうANAのエアバスA380型機「FLYING HONU」の初号機(8月22日、筆者撮影)
滑走路へ向かうANAのエアバスA380型機「FLYING HONU」の初号機(8月22日、筆者撮影)
6月23日に成田空港からお客様を乗せない整備フライトを運航。遊覧飛行のきっかけとなった(筆者撮影)
6月23日に成田空港からお客様を乗せない整備フライトを運航。遊覧飛行のきっかけとなった(筆者撮影)

ファーストクラス5万円、ビジネスクラス3万円。倍率は150倍に

 今回の遊覧飛行は、ANAグループの旅行会社であるANAセールスが販売した。申込期間は7月22日~27日までの6日間で約300席を販売した。気になる金額は、ファーストクラス5万円、ビジネスクラス窓側3万5000円(通路側3万円)、プレミアムエコノミー窓側2万5000円(通路側2万円)、エコノミークラス窓側1万9000円(翼の上の窓側1万7000円、通路側1万4000円)だった。

 普段国内線としては乗ることができないA380型機に乗れること、加えて1時間半近い飛行時間であることを考えると、破格の安さであるという声が多く、かなりの申込倍率になるだろうと筆者も思っていたが、やはり最終的な倍率は約150倍となった。無料招待ではなく、有料販売における150倍近い申込件数は大ヒットといって間違いないだろう。航空ファンに加えて、遠出できない夏休みの思い出として親子で申し込みしたケースも多かったそうだ。ANAによると、特に申込倍率が高かったのがファーストクラスやビジネスクラスなどの上級クラスだったそうだ。ファーストクラス5万円、ビジネスクラス3万円(通路側)で乗れるのであれば申し込みが殺到するのも納得だ。

A380「FLYING HONU」のファーストクラス(2019年4月、筆者撮影)
A380「FLYING HONU」のファーストクラス(2019年4月、筆者撮影)
A380「FLYING HONU」のビジネスクラス(2019年4月、筆者撮影)
A380「FLYING HONU」のビジネスクラス(2019年4月、筆者撮影)

機内ではハワイの雰囲気を演出。空港周辺にも沢山の人が

 そして8月22日(土)に遊覧フライト当日を迎えた。今回334名(幼児11名を含む)が搭乗した。ANAも遊覧フライトを実施にあたって、参加者にハワイ気分を楽しんでもらえるように機内でハワイの雰囲気を演出し、機内ドリンクもホノルル線で提供されているパイナップルジュースやモヒートが提供されたほか、参加者には「FLYING HONU」オリジナルグッズがお土産として用意した。また、新型コロナウイルス対策も万全にした形で、お客様には機内でのマスクの着用と3密の回避をお願いする旨と、機内の空気は3分に1回入れ替わり、高性能フィルターを通して病院の手術室と同じ清潔度を保っていることが出発前に案内された。

遊覧飛行当日の成田空港チェックインカウンター(筆者撮影)
遊覧飛行当日の成田空港チェックインカウンター(筆者撮影)
参加者を出迎えるウエルカムボード(筆者撮影)
参加者を出迎えるウエルカムボード(筆者撮影)

 スポットでは、アロハシャツを着用したグランドスタッフが横断幕を持ってお見送りをし、14時06分に出発、14時27分に成田空港を離陸した。この日は募集の段階でA380型機の出発時間も発表されていたことから、成田空港第1ターミナルの展望デッキをはじめ、飛行機が一望できるスポットには飛行機ファンだけでなく、家族連れの姿も多く見られたそうだ。中には遊覧フライトに応募したが抽選に外れてしまった人も成田空港でA380型機の離陸を見に来ていたとのことだ。

スタッフが出発前に横断幕を持ってお見送り(筆者撮影)
スタッフが出発前に横断幕を持ってお見送り(筆者撮影)
搭乗前には記念撮影する光景も見られた(筆者撮影)
搭乗前には記念撮影する光景も見られた(筆者撮影)

 離陸後、富士山、名古屋、大島(三原山)などを遊覧して、普段はホノルル線にしか投入されないエアバスA380型機での1時間25分のフライトを堪能し、15時52分に着陸し、16時02分にスポットに入った。参加した人は笑顔で飛行機から降りてきた。

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機内での光景(写真提供:ANA)
機内での光景(写真提供:ANA)

 参加者は「広い大きな飛行機で安定していた。飛行機らしからぬ快適さがあった。スタッフの皆様もアロハシャツを着て、ハワイの映像も流れるなど、時間が長ければこのままハワイに着いてしまうのではないかと思った。この飛行機で今度はハワイへ出かけてみたい」などと話した。

遊覧フライトを終えて成田空港に戻ってきた降機風景(筆者撮影)
遊覧フライトを終えて成田空港に戻ってきた降機風景(筆者撮影)

新しいビジネスモデルになりうるA380型機の遊覧フライト

 現状、冒頭でも書いたがハワイを含めて海外旅行へ出かけられるようになるまではしばらく時間がかかることになりそうだ。国内旅行の回復にも時間を要するなかで、国際線の大半の便が運休中の状況下において、大人も子供も魅了する大型機であるエアバスA380型機を使った遊覧飛行は、航空会社の新しいビジネスモデルとして成立することが証明された形だ。

第2回は9月20日(日)。申し込みは8月28日午前10時まで

 2回目以降も実施して欲しいという声も多く寄せられたなかで、第2回目が9月20日(日)に実施されることが8月25日に発表された。申し込み期間は8月25日(火)の15時~28日(金)朝10時までとなる。価格は前回と同じ金額でANAの特設サイトからの申し込みとなり、抽選で参加者が決定される。

現在、2機のエアバスA380型機をANAは保有している(筆者撮影、写真左が2号機、右が初号機)
現在、2機のエアバスA380型機をANAは保有している(筆者撮影、写真左が2号機、右が初号機)

日本列島を周遊して機内食も提供する遊覧フライトを実施して欲しいという声も

 旅行商品として有料で販売し、遊覧フライトとして富士山などの景色を楽しむことはもちろん、普段は国際線でしか体験することができない夢のファーストクラスやビジネスクラスも低価格で体感できる絶好の機会であり、520席全てを販売しなくても今回のように300席程度の販売でも、今回の価格設定でも十分にANAの収益に貢献できることがわかった。既にジャンボ機(ボーイング747型機)が国内航空会社では全機引退したなかで、唯一の巨大飛行機であるA380「FLYING HONU」には、遊覧飛行だけでも人を惹きつける魅力がある。

 欲を言えば、4~5時間のフライト時間で、成田空港から東北→北海道→北陸→山陰→九州→沖縄→四国→近畿→東海など日本列島を空の上から一周して成田空港へ戻り、機内では各クラス毎に国際線で提供される機内食やお酒などを提供する「プレミアム遊覧フライト」を実施して欲しいという声もある。航空会社側がしっかり利益が確保できる価格設定で実施して欲しいものだ。ある程度の高額になっても需要は間違いなくあるはずだ。

遊覧飛行でファーストクラスを利用したお客様にプレゼントされたオリジナルグッズ。全クラスでグッズがプレゼントされた(筆者撮影)
遊覧飛行でファーストクラスを利用したお客様にプレゼントされたオリジナルグッズ。全クラスでグッズがプレゼントされた(筆者撮影)

 ANAでは現在2機のA380型機を保有していることから、リーズナブルな遊覧フライトとプレミアムな遊覧フライトを組み合わせる形でコース設定し、参加者を募集して運航することで海外へ出かけられないなかで機体の有効活用にもなる。国際線が復活するまでの期間限定という形で是非これからも実施して欲しい。withコロナ時代の新しい飛行機の楽しみ方になりそうだ。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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