Yahoo!ニュース

2020年就航の注目航空会社。日本初の中長距離国際線LCC「ZIPAIR」のシートから見る将来展望

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
ZIPAIRのビジネスクラスはLCCらしくない全席通路側アクセス(筆者撮影)

 2020年、日本国内を拠点とする5社目のLCC(格安航空会社)が誕生する。日本航空(JAL)が全額出資して設立された「ZIPAIR」だ。これまでのLCCは片道4~5時間以内の短距離国際線及び国内線で飛ぶLCCのみであったが、ZIPAIRは国内線には就航せずに、国際線のみ飛ばすLCCとして2020年5月14日から成田~バンコク(スワンナプーム)、7月1日から成田~ソウル(仁川)の2路線をボーイング787型機で飛ばすことを発表している。

ZIPAIRはボーイング787型機で5月14日にバンコク、7月1日にソウルへ就航する(筆者撮影、以下同じ)
ZIPAIRはボーイング787型機で5月14日にバンコク、7月1日にソウルへ就航する(筆者撮影、以下同じ)

スタートはバンコク、ソウル。早ければ2020年度中に北米路線へ

 将来的、早ければ2020年度中には北米へ飛ばすことを計画している。北米へ飛ばすにあたり、太平洋路線の就航に必要なETOPSが取得でき次第の就航となる。ETOPSとは、2機のエンジンのうち1機が停止しても洋上飛行中に規定時間内に最寄りの空港に着陸できるルートで飛行できる許可で、日本からアメリカへ飛ばす場合には必須となることから、取得の為にまずはバンコク線やソウル線への就航となった。

最初の就航はバンコク。ワットポーなど人気観光地が多いバンコク便からスタートする
最初の就航はバンコク。ワットポーなど人気観光地が多いバンコク便からスタートする

座席数は290席でエコノミークラスとビジネスクラスの2クラス制

 12月18日にはZIPAIR初号機の機内がメディア関係者にお披露目された。ボーイング787-8型機で座席数は290席となった。JAL国際線での同じ機材では161席・186席・206席(ビジネスクラスの座席数・シート仕様で席数が異なる)となっており、今年10月末から運航開始された国内線では291席となっている。JAL国際線に比べて約1.5倍の座席数で、国内線とほぼ同じ座席数となる。エコノミークラスに相当する「Standard」が272席、ビジネスクラスに相当する「ZIP Full-Flat」が18席の2クラス制となった。

ZIPAIRの客室乗務員。動きやすいようにスニーカーを採用した
ZIPAIRの客室乗務員。動きやすいようにスニーカーを採用した

エコノミークラスは足元が狭いが、最大限、中長距離国際線を考えたシート

 272席ある「Standard」のシートは、座席カバーには黒の人工皮革を採用し、シートモニターの代わりにタブレットホルダーを搭載している。快適度の指標となるシートピッチ(前後間隔)は79センチだ。フルサービスキャリア(大手航空会社)でも一部航空会社で同サイズの場合もあるが、最近ではエコノミークラスの快適度が上がっているなかで、実際に席に座ってみると足元の狭さを感じる。ただ、中長距離国際線LCCとして日本からクアラルンプールやバンコクなどへの便を持つエアアジアXやタイ・エアアジアXに比べると、シートの横幅が広いこともあり(ZIPAIRでは43センチ)、もの凄い窮屈な感じでもない。

ZIPAIRのエコノミークラス「Standard」。3-3-3の座席配列となっている
ZIPAIRのエコノミークラス「Standard」。3-3-3の座席配列となっている
画像
シートピッチは79センチとなっている
シートピッチは79センチとなっている
フルサービスキャリアでは当たり前のシートモニターがない
フルサービスキャリアでは当たり前のシートモニターがない

 しかしながら、LCCに乗り慣れていない人には狭く感じる人が多いだろう。ピーチやジェットスター・ジャパン、スプリングジャパン、エアアジア・ジャパンなどの国内LCCでは、国内線であれば1~3時間、国際線では3~5時間程度のフライト時間ということで、狭くても運賃が安いので耐えられるという声も多いが、5時間を超えるフライトになるといくら安くても狭い席での移動を避けたいという声が多い。ZIPAIRとしても、長距離フライトでも耐えられるギリギリのシートを投入しただろう。価格が安いLCCにおいては理にかなっており、座席数を増やすことで低価格を実現することになるが、狭い席での移動が厳しいというのであればフルサービスキャリアのエコノミークラスを利用すればいいのであるが、今回のシート発表で衝撃的だったのがビジネスクラス相当の「ZIP Full-Flat」だ。

ビジネスクラス「ZIP Full-Flat」は大手と同じレベルのシート

 ビジネスクラスに相当する「ZIP Full-Flat」は機体最前方に18席設置されるが、どんなシートが搭載されるのかが注目されていた。LCCにおけるビジネスクラスは、フルサービスキャリアのプレミアムエコノミークラスに近いシート(ジェットスター航空やスクートなど)、二人掛けのライフラットシート(エアアジアXなど)など航空会社によって大きく異なるなかで、LCCとしては最高級のシート、フルサービスキャリアと同じレベルのシートである全席通路側アクセスで隣を気にせず過ごせる1人掛けのシートを採用したのだ。寝るだけであれば完全にフルサービスキャリアと同じ快適な時間を過ごすことが可能だ。異なるのは機内食やドリンク類が有料であることや、フルサービスキャリアでは当たり前のシートモニターが付いていないくらいだ。

画像
全席通路側アクセスの「ZIP Full-Flat」
全席通路側アクセスの「ZIP Full-Flat」
特に窓側席は787型機の特徴である大きな窓があるのでより開放的だ
特に窓側席は787型機の特徴である大きな窓があるのでより開放的だ
フルフラット、180度倒した状態
フルフラット、180度倒した状態

 ZIPAIRの西田真吾社長は、ビジネスクラスにフルサービスキャリアと同じシートを採用した理由について「アメリカ路線への就航を考えた際に、機内サービスなどはエコノミークラスと同じく必要なものを有料化していく中で、1つのオプションと言う意味で、快適に移動したい人にワンランク上のシートを提供するということだ。ZIPAIRではビジネスクラスであっても機内食や各種機内サービスについてはエコノミークラス同様に有料化することを検討している。あくまでも座るシートのみグレードアップするのが「ZIP Full-Flat」であり、機内サービスは必要なものを有料にすることで提供していきたいと考えている」と話した。

機内Wi-Fiも有料で利用可能に。シートモニターはなし

 ZIPAIRでは、機内Wi-Fiサービスも提供する予定で、シートモニターはないが利用者のタブレットやスマートフォンでネットを楽しむことができる。機内Wi-Fiサービスは、有料になる可能性が高いが、エコノミークラスも含めて全席で利用できるとのことだ。また、シート電源も290席全てで利用可能となっている。

シートテレビはないがタブレットホルダーを設置している(Standard)
シートテレビはないがタブレットホルダーを設置している(Standard)
「ZIP Full-Flat」のタブレットホルダー
「ZIP Full-Flat」のタブレットホルダー

問題は価格がいくらになるのか

 今後、一番重要なのは当然ながら運賃となる。現時点ではまだ発表されていない。フルサービスキャリアに比べてどの程度安くなるのかによって、利用者がZIPAIRを選ぶかどうかが決まるだろう。これは「Standard」「ZIP Full-Flat」共にだ。まずはバンコクとソウルになるが、仮に1年後に北米路線に就航した場合には、LCCとして初めて北米(アメリカ西海岸など)路線となることで、劇的に安い運賃を出すのか、フルサービスキャリアより1~2割程度安い程度なのかにも注目される。やはりLCCは、サービス以上に価格次第で選ばれる傾向にあり、価格が全てと言ってもいいだろう。

 エコノミークラスにおいては、安くいけるようになることで新たな旅行需要を創出することができるのかに注目されるほか、ビジネスクラスでは、これだけの快適シートを投入することにより、機内サービスは不要で、ひたすら寝たり、機内Wi-Fiで仕事をするだけであれば、運賃が安いZIPAIRにフルサービスキャリアから乗り換えるケースも十分に考えられるだろう。

 2020年、訪日外国人観光客(インバウンド)においても1機で290人を運べることで大きく貢献することはもちろんであるが、JALが設立したLCCとして、日本人の海外渡航者の利用も多くなるだろう。日本の航空会社では初めてとなる国際線中長距離LCCが日本で根づくことができるのか、2020年、日本で最も注目される航空会社になれるのかに注目したい。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

鳥海高太朗の最近の記事