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ANA、中高生の障害者が不安なく飛行機で修学旅行に行ける為の出張型事前教室を開始。その授業の中身は?

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
保安検査場もそのまま通過できる樹脂製車椅子(モルフ)を体験する参加者(筆者撮影)

 障害者にとって飛行機を利用する際には不安が大きく、どうしても飛行機旅行を躊躇してしまうことがある。特に若い頃から障害を持っている人にその傾向が強い。

 そのような不安を取り除くべく、ANA(全日本空輸)が特別支援学校における修学旅行前の事前学習として、ANAグループの社員が学校に出向き、空港での搭乗手続き、保安検査、座席への着席、機内での移動などを座学と実際に空港や機内で使われている車椅子を使った疑似体験を通して不安を払拭して、安心して飛行機を利用してもらうことを目指した「ANAそらぱす教室」をスタートさせた。初回のそらばす教室を取材した。

ANAの社員が講師となり、空港・機内で使う車椅子やシートを持参して授業

 第1回は、7月19日に東京・板橋区の筑波大学附属桐が丘特別支援学校の高校1年生・2年生の肢体不自由で電動車いすで生活している8名を対象に実施された。

 授業を担当するのは、ANAのCS推進部ユニバーサルサービス推進チームのスタッフ5名。現役の客室乗務員やグランドスタッフや経験者を中心とした講師により座学から始まる。ANAホームページに掲載されている「おからだの不自由なお客様へ」の説明から始まり、テーブルが低くなっている専用カウンター(Special assitance)での搭乗手続きでの注意点、ANAで貸し出しする車椅子、座席指定する際のベストな席について、車椅子でそのまま通過できる保安検査場、飛行機への搭乗、機内での移動について学習したのち、空港・機内で実際に使われている車椅子と実際のシートを用意した疑似体験が行われた。

おからだの不自由な方などが利用できる専用カウンター「Special assitance」。テーブルも車椅子に対応して低くなっている(福岡空港にて筆者撮影)
おからだの不自由な方などが利用できる専用カウンター「Special assitance」。テーブルも車椅子に対応して低くなっている(福岡空港にて筆者撮影)
記念すべき「ANAそらぱす教室」に参加した高校生とANAグループ社員(以下全て、筑波大学付属桐が丘特別支援学校にて筆者撮影)
記念すべき「ANAそらぱす教室」に参加した高校生とANAグループ社員(以下全て、筑波大学付属桐が丘特別支援学校にて筆者撮影)
座学授業の光景。最初に飛行機に乗るときの不安・心配・困ったこと・疑問点などを参加者が記入するところから始まった
座学授業の光景。最初に飛行機に乗るときの不安・心配・困ったこと・疑問点などを参加者が記入するところから始まった

保安検査場をそのまま通過できる樹脂製の車椅子を体験

 疑似体験で使われた車椅子は2種類で、空港内で使われる樹脂製車椅子(モルフ)と機内での飛行中にトイレへ行く際などに使う機内用の車椅子が用意された。チェックインの際に自身の車椅子をカウンターで預けた後、ANAが用意する樹脂製車いすに乗り換えることになっている。金属製でないことから、車いすに乗ったまま保安検査場の通過が可能であり、体に触れられることなく、保安検査を受けることができる。そしてこの樹脂製車椅子の凄いところは、搭乗の際に飛行機のドア入口で外側の車輪を外すことで、機内の狭い通路も走行することが可能な点だ。広いスペースでは大きな車輪で走行性を重視し、機内の通路は小さな車輪で機内の通路が通れる機能的な車椅子に変わる。車椅子から降りることなく自分の席まで移動できるのは楽だろう。

樹脂製車椅子(モルフ)は保安検査場をそのまま通過できる
樹脂製車椅子(モルフ)は保安検査場をそのまま通過できる
搭乗の際には、飛行機のドア入口で外側の車輪を外すことで機内の狭い通路も走行可能
搭乗の際には、飛行機のドア入口で外側の車輪を外すことで機内の狭い通路も走行可能
ANAで貸出可能な車椅子の種類
ANAで貸出可能な車椅子の種類

 今回の実習では床にシートを貼り、機内と同じ幅の通路を再現し、樹脂製車椅子を大きな車輪が付いた状態と外して小さな車輪だけの状態の両方を体験し、車椅子から実際のシートに座るという実習も行った。基本的には通路側の肘掛けは上がらないが、客室乗務員のみが操作できるボタンによって通路側の肘掛けを上げることが可能であり、車椅子からスムーズに着席することができた。また座位を保つためのサポートベルトの疑似体験も行われた。

床にシートを貼って機内と同じ通路幅にして車椅子で通路を移動した
床にシートを貼って機内と同じ通路幅にして車椅子で通路を移動した
車椅子からシートに移動する実習も行われた
車椅子からシートに移動する実習も行われた
座位を固定する為のサポートベルトの疑似体験
座位を固定する為のサポートベルトの疑似体験

 また、機内でトイレを使いたい時には、機内に搭載されている折りたたみ式の機内用車椅子を使うことになるが、金属製で小回りがきくように工夫されており、上体と腰が固定できるベルトが付いており、安全に移動できるようになっている。最後に質疑応答が行われ、約1時間の「ANAそらぱす教室」が終了した。

機内用の車椅子は折りたたみ式になっている
機内用の車椅子は折りたたみ式になっている
機内用の車椅子を体験する参加者
機内用の車椅子を体験する参加者

参加者からは「飛行機に乗る際の不安がなくなった」

 参加した高校生からは、「不安なく飛行機で旅行ができそうで嬉しい」「樹脂製車椅子のクッションがフカフカで快適だった」「預けた車椅子がどのように運ばれるのかを知ることができた」「8月に上海へ旅行する際に早速利用してみたい」と話すなど、飛行機旅行への不安はかなり払拭できたようだ。

 また同時に、「機内用車椅子の胸ベルトの位置が調整できるとより便利」「機内用車椅子の車輪が滑りやすい」など実際に障害者でないとわからない指摘もあり、ANAでもダイレクトな意見をフィードバックした上で今後のサービス向上に活かしたいと考えるなど、障害者・航空会社双方にとってメリットのある講義となった。

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参加者からは感想と共に、実際に使ってみて感じた問題点についても意見交換した
参加者からは感想と共に、実際に使ってみて感じた問題点についても意見交換した

きっかけは修学旅行前に特別支援学校の先生からの連絡

 そらぱす教室のきっかけとなったのが、2017年にある特別支援学校の先生から連絡があり、修学旅行にあたり、生徒の飛行機への不安という声を払拭させるために出張授業をして欲しいという依頼からだった。学校へ出向いて障害を持つ生徒に直接授業をしたことで、これをプログラム化してはどうかということになり、動き出したプロジェクトが本格始動したそうだ。

 実際に空港や機内で使われる車椅子を体験・体感してもらうことが不安を取り除くために必要と考え、ANA機に実際に搭載されていたシートや車椅子もそらぱす教室用に用意した。ANAの担当者は「旅行に出かける前からの不安を楽しみに変えてもらい、飛行機に不安なく乗ってもらい、修学旅行を楽しんでいただきたい」と話す。

1時間の授業はあっという間に終了となった
1時間の授業はあっという間に終了となった

8月から出張教室の募集を開始予定。当面は首都圏が対象

 当面は、首都圏(1都6県)の特別支援学校(肢体不自由及び知的障害・発達障がい)の中学生・高校生を対象とするが、将来的には全国で実施したいと考えている。「全国のANAグループ社員にも知ってもらい、各空港のスタッフが地方でもそらパス教室を実施できるようにしたい」と担当者は話す。

 「ANAそらぱす教室」は、8月からANAホームページで募集開始予定となっており、修学旅行でANA便利用が確定もしくは検討中である特別支援学校の中学部・高等部が対象となる。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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