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「てるみくらぶ」の弁済見通しは立たず。今後、同様のケースが起きた時に「出国税」で保護できないのか

鳥海高太朗航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師
3月27日、破産申請後の記者会見(右から2番目が山田千賀子社長)筆者関係者撮影

 今年3月、約151億円の負債で経営破綻した旅行会社「てるみくらぶ」の山田千賀子社長など2人が銀行へ虚偽の書類を提出したとして詐欺などの疑いで11月8日に逮捕された。

 これまでの旅行会社の破綻では最大の被害額・被害人数となり、約9万人の旅行者に影響が出て、旅行者が支払い済みで出発前の旅行代金は約100億円にのぼった。激震が走ってから約7ヶ月が経ったが、クレジットカードで旅行代金を支払った人の一部で返金されたケースもあったが、多くの支払い済み旅行代金は返金されていない。

債権者集会が開かれたが弁済の見通しは立たず

 11月6日には東京都内で第1回の債権者集会が開催された。債権者に配布された資料を読むと、破産手続きに至った経緯や粉飾決算の実態などについての説明が中心だった。旅行代金以外に、ホテルなど宿泊施設への取引債務が約5億6600万円(2月末時点で金額は申立書添付の報告書より)、国際航空運送協会(IATA)への航空券支払い期限で支払えなかった約3億7100万円などがあったが、弁済額の見通しは明らかにされず、第2回の債権者集会が来年5月28日に開催されることが発表された。

 旅行会社における航空券の支払いは、IATAを通じて航空会社に支払われる。決済期日にIATAへの支払いができなければその時点で航空券の発券が停止される。旅行者自身で航空会社のホームページ上で決済する場合は決済と同時に航空券(eチケット)が発行されるが、旅行会社を通じた予約の場合(パッケージ型旅行商品など)は予約だけ入れておき、出発の1~2週間前に決済をして発券するという流れになっていることから、旅行者が全額の旅行代金を支払い済みであっても出発日まで日数がある場合には航空券が発券されていないことが多い。今回の「てるみくらぶ」においては、支払い済みの旅行代金は、直近に出発する別の旅行者の航空券やホテルなどの支払いに充てられていた。ホテルは後払いのケースも多い。

 旅行者においては、てるみくらぶは日本旅行業協会(JATA)の正会員であり、売上高に応じて供託した弁済業務保証金から総額1億2000万円が弁済に充てられるが、JATAが6月2日に発表したデータによると、対象件数は3万9091件、お客様の人数は9万6137人、債権額は105億8417万円となった。うち、クレジットカード利用額は59億1440万円となった模様だ。支払い済みで旅行に行けなかった旅行代金の総額が約105億円ということで1%程度しか戻ってこない計算になる。一部クレジットカードで支払った人の中でクレジットカード会社から返金された人もおり、最終的な保証制度の対象となる旅行代金の債権額が未確定ではあるが、数%程度になる公算が現時点では高い。

 旅行会社は登録制度になっており、取り扱う旅行の形態に応じて第一種旅行業者、第二種旅行業者、第三種旅行業者に区分される。てるみくらぶのように自社で募集型の海外旅行商品を販売する場合は第一種旅行業者での登録が必要で、観光庁に登録することになっている。最低でも1400万円の弁済業務保証金分担金(売上高に応じて異なる)を納付する必要があり、参入には一定の資金力が必要となっている。てるみくらぶの場合は、平成28年9月期の売上高が約195億円あり、150億円以上300億円以下の場合に必要な2400万円の弁済業務保証金分担金をJATAに支払っており、その5倍が弁済限度額になることから1億2000万円が弁済の上限となっているのだ。

出国税の税収を旅行会社の経営破綻時に使えないのか

 政府では日本を出国する人を対象とした「出国税」の導入を検討しており、2019年度中の導入を目指している。一人あたり1000円を航空券購入時に徴収する方向で検討されているが、2019年には日本を訪れる訪日旅行客が3000万人を超える可能性が高く、また日本人出国者が1700~2000万人程度が予想されることから対象となるのは約5000万人となる。金額は確定ではないが、1000円に設定されると年間約500億円の税収が入ることになる。

 出国税は、海外での宣伝活動やプロモーションなどのインバウンド(訪日外国人)向けの対策や出入国管理の強化などに多く使われる可能性が高いが、伸び悩んでいる日本人の海外渡航(アウトバウンド)を増やす為の政策にも一定額使われるべきだと思う。特に若者の海外旅行離れが続いており、若年層向けに海外渡航費用やパスポートの取得費用の補助などに充てるなどして、年間2000万人(2016年は1711万人)を目指して欲しい。

 同時に日本人が安心して旅行会社主催のパッケージツアーでも旅行ができるよう、今回のような旅行会社の経営破綻時に弁済業務保証金を超える部分を出国税の税収で消費者を保護できるような仕組みがあってもいいだろう。旅行業法は、消費者保護の観点で旅行者を保護する法律であり、旅行会社の登録制度がある以上、出国税という形で新たな財源が確保できるのであれば経営破綻時における消費者保護はインバウンドのプロモーション活動よりも大事ではないだろうか。

 また、監督官庁である観光庁やJATAを中心に旅行会社の経営実態をしっかり監視し、経営破綻を事前に回避できるような仕組みが必要な点も含め、今回のてるみくらぶで問題となった点を今後の教訓として活かして欲しい。

航空・旅行アナリスト 帝京大学非常勤講師

航空会社のマーケティング戦略を主研究に、LCC(格安航空会社)のビジネスモデルの研究や各航空会社の最新動向の取材を続け、経済誌やトレンド雑誌などでの執筆に加え、テレビ・ラジオなどでニュース解説を行う。2016年12月に飛行機ニュースサイト「ひこ旅」を立ち上げた。近著「コロナ後のエアライン」を2021年4月12日に発売。その他に「天草エアラインの奇跡」(集英社)、「エアラインの攻防」(宝島社)などの著書がある。

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