桝アナウンサーが博士なしで助教になることは批判されているのか?
日本テレビの桝太一アナウンサーが同志社大学ハリス理化学研究所の専任研究所員(助教)になるために退職されるそうです.
鉄腕DASHなどでよくお見かけしていましたが,こういった方がサイエンス・コミュニケーションの世界に来てくれることは歓迎するところです.
ところで,そんなニュースの中こんな内容のツイートが話題を呼んでいました.
分かりづらいかもしれないので,このツイートについて補足しておきましょう.
一般的に大学の教員になるには博士号が求められます.桝アナウンサーが着任される助教というポジションも通常博士号を持っている人がなります.
博士号と言うのは,博士論文を提出し審査に合格するともらえる学術的な称号のことです.一般的には大学4年間を卒業して学士号がもらえ,大学院の修士課程(または博士前期課程)2年間を終えて修士論文を書いて修士号をもらい,さらにその後博士課程で3年間学び博士論文を提出して博士号を得るというルートを通ることが多いでしょう.博士号を獲得した後ポスドク(研究員),助教,講師などを経て准教授,教授となるのが大学での一般的なキャリアプランとなります.
ちなみに,助教と助教授を混同されているツイートもいくつか見かけましたが,かつての助教授は現在では准教授と呼ばれており,助教はかつて助手と呼ばれていたポジションに概ね対応します.大学教員としては一番下っ端です.白い巨塔でいえば佃君.
さて,桝アナウンサーは東京大学大学院農学生命科学研究科をご卒業とのことで,修士号をお持ちですが博士号はお持ちではないようです.
つまり,博士号を持っていない桝アナウンサーが助教になることを快く思っておらず叩いている方がいるけれど,そういうのは良くないぞ,というのが話題となったツイートの趣旨となります.
ただし,一般的には大学教員になるには博士号を持っていることが求められますが,文科省の大学設置基準によれば,
とあるので,明確に修士号を持っていれば助教になれるとされています.従って桝アナウンサーが助教になることには何ら問題はないと言えます.
とはいえ,苦労して博士号を取得して助教を目指している方々にとっては面白くないかもしれません.実際どの程度の方が桝アナウンサーが博士なし助教になったことにネガティブな感情を抱いているのでしょうか?
ざっくりしたところを見るために,「助教」「博士」の双方を含むツイートデータを収集してみました.収集できたのは2022年1月16~25日までの3,741ツイートです.少ない.
得られたツイートを根性マイニング(目で見て頑張って分類する手法)を用いて分類してみました.
大きく,桝アナウンサーが博士号なしに助教になることに対してネガティブなツイート,どちらともいえないツイート,ポジティブなツイート,桝アナウンサー関連の批判と関係ないツイート,無関係なツイートに分けてみます.3741件とはいえ全部見るのは辛いので,そのうちリツイートではないオリジナルツイートを100件をランダムに抽出したものです.
その結果がこちら.
ざっくりと,桝アナウンサーが助教になることについての全体で見ると批判ツイートは10%以下で,どちらかというとポジティブなツイートが多く見受けられました.
というわけで,基本的に「博士を持っていないのに助教になるなんて」という批判は少なく,逆に「そういう批判がある」という前提で話が進んでいることがわかります.おそらくほとんどの方が実際には批判を目撃はしていない,ある種の非実在型炎上と言ってよいのではないでしょうか.
批判的ツイートは全体から見るとごく一部なため,アカデミア全体が桝アナウンサーを批判しているということはないとは言って良さそうです.むしろポジティブな反応の方が圧倒的に多かったようです.「アカデミアそういうとこ」じゃなくてよかった.
ちなみに,今回の件は非実在型炎上であることに気づいていた方はそれなりにいるようで,
といったツイートも結構ありました.
最近は,けっこう非実在型炎上が疑われる場合も多くなってきたようで,個人的には出番が減っている気がします.いや,良いことなんだけど.
なお,いくつかあった批判的なツイートは,
や
といった内容でした.
実のところ,博士号を取った後の大学でポジションを得たくても得られない方が多い分野も多いのは事実ですので,その辺りの問題が一部の批判の根底にあるのでしょう.逆に情報系では博士号を取った後一般企業に採用されたりベンチャーを起業したりする方も多いため,むしろ大学での人材不足が囁かれていたりして,なかなか一筋縄ではいかないのが難しいところですが.
ちなみに,今回は博士号なしで助教になることへの反応のみを取っているので,オリジナルツイートの10%くらいが批判的なツイートとなりましたが,桝アナウンサーが助教になることへの反応の10%が批判的ということではないことにご注意ください.
冷静に考えると,助教と博士号の話なんかに話題に興味があるのはアカデミア周辺の人だけですよね.タイムライン上でこれが話題になっていたと思って分析を始めたのですが,単に私自身がエコーチェンバーの中にいただけな気がしてきました.この記事の存在意義とはいったい・・・
いずれにしても,東日本大震災以降,新型コロナ禍においてもサイエンスコミュニケーションが十分に行われておらず,最新の研究結果を一般にうまく伝えることが出来ていないというのはアカデミア全体の大きな問題になっています.
そのような中で,桝アナウンサーのように科学にもコミュニケーションにも精通する方が,サイエンスコミュニケーション分野の研究者となることは,大いに歓迎すべきことかと個人的には思います.
研究の一環としてサイエンスコミュニケーション周りもやっている身としては,桝アナウンサーの今後の活躍には期待しかありません.