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非実在型炎上と言う勿れ

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
(写真:PantherMedia/イメージマート)

「ミステリと言う勿れ」という漫画があるのですが,それが今度ドラマ化されるそうです.

ところが,そのドラマ化を前に漫画内の一場面がツイートをパクったのではないかと話題になっているという記事が出てきました.「ネットで話題に」となったら本当かどうか調べるのが義務みたいな気がしてきているので,さっそく調べてみました.

2021年8月1日~8月22日までに「ミステリ(-)と言う(いう)」を含むツイートを収集し,その中で「パク(り)」を含むツイートの数を数えてみました.

その結果がこちら.

ミステリと言う勿れ+パクのツイート数(著者作成)
ミステリと言う勿れ+パクのツイート数(著者作成)

なんと,141件もツイートが見つかりました!ええ,最初の記事らしきものがネットに出るまでにあったのは57ツイートのみでした.

そして,そのうち23件がtogetterの記事をツイートしたものであり,25件がいわゆるまとめブログの記事をツイートしたものでした.それ以外のツイートも,パクリを直接指摘しているものはほとんどなく,2,3件と言ったところでしょうか.

以上の結果を考えるとパクリについて書いてあるツイートが100件にも満たず,しかもほとんどがまとめサイトの内容という状況ではとても炎上したとは言えなそうです.

こちらの記事では「炎上」などと書いていますが,ネットメディアによって作られた典型的な非実在型炎上と言ってよいのではないかと思います.いや,実のところネットメディアで取り上げられてもほとんど言及されていないので,非実在型炎上しなかった件,と言った方が良いかもしれません.

ところで,今回炎上した内容についてはtogetterのまとめを見ていただくとよいのですが,ここではパクリ疑惑が寄せられたツイートを見ていただくのが早そうです.

「こんな実験本当にあったの?」というあたりからこのツイートが発掘されたという流れのようですが,研究者としてはこういったものが社会学の実験と受け止められているとしたらそれが最大の問題ではないかなと思いました.

実験とは仮説を立てて,その仮説が正しいかどうかを調べるために行うものです.間違っても被験者に対してこのような説教じみたことをいうことを目的に実験は行いません.類似した実験があるとしたら,その目的は「途中で邪魔をされた場合とされなかった場合でどの程度効率に差が出るのかを調べる」と言ったところでしょうか.いずれにせよこんな実験(?),論文にもならないし倫理審査を通せないんじゃないですかね.

被験者に何かを理解させるための実験は学術実験ではなく,教育的な体験といった方が良いでしょう.実際,ツイートでは「実験」とは書いておらず,体験学習でのテストとしか書いてありません.それを「実験」と書き換えたのは「ミステリと言う勿れ」側のミスかなと言う気はします.

ちなみに,テレビのバラエティなどで「実験してみました」などということが良くありますが,あれは仮説検証と言う意味では実験かもしれませんが,基本的には社会実験の基礎を抑えていない場合が多く,その結果は信用できるものではありません.結論ありきで数人で試しただけの実験の何て多い事.実験の基本に「この結果は偶然ではない」ことを示すことがあるというのに.もちろん,バラエティにそこまで求める必要はないと思いますが,ああいった「実験」もその結果が曖昧にもかかわらず正しいものであると思わせてしまうのはあまりよくないのではないかなと思います.

閑話休題.

というわけで,実験の件はさておき(本当はここが一番今回の記事で書きたかった部分ですが)「ミステリと言う勿れ」炎上事件は非実在型炎上(ボヤにもならず)ということで良いのではないかと思います.

その意味では,記事タイトルにあった「菅田将暉主演の月9に暗雲!?」「菅田将暉が大ピンチ?」といったことは心配しないでよさそうです.

ただ,個人的には8月からの「ミステリと言う勿れ」を含むツイートそのものが18,188ツイートで,一日当たり850ツイートくらいしかない事が気になります.ドラマも開始前のツイートってどのくらいが普通なんでしょうね.

8月23日16:25 追記:

パクリだけではなく「盗用」でも調べるべきでは,という意見もありましたが,「盗用」についても初出が8月20日でありトータルでも100件に満たないツイート数でしたので,炎上と言うには足りないかと思われます.

また,「ポリコレアフロも入れるべき」という意見もありましたが,これはまた別の件だと思われるため対象としませんでした.ちなみに,ポリコレアフロ+パクり,盗用でもほとんど実態は変わりません.

気になる方はWeb Tweet Crawlerを使えば自分でデータ収集をしたうえで確認することができますので,是非.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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