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藤井聡太竜王が相掛かりブームの火付け役に。2022年度のタイトル戦ではどんな戦法がブームになるか?

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 第47期棋王戦五番勝負の閉幕をもって、2021年度のタイトル戦が全て終了した。

 藤井聡太竜王(19)の五冠達成が印象に残る一年となった。

 ここから、今年度のタイトル戦で指された戦法について解説していく。どの戦法が多く指されたのか。そして来年度はどんな戦法が流行るのだろうか。

相居飛車が席巻。相掛かりがブームに

 2021年度のタイトル戦は全34局。その全てが相居飛車の戦いだった。

 内訳は以下の通りである。

相掛かり戦法 16局

角換わり戦法 10局

矢倉戦法   7局

その他    1局

 相掛かりがトップに立った理由として、タイトル戦に多く出た藤井竜王が先手番において多用したことがあげられる。

 4つのタイトル戦において、先手番で相掛かりを6局指して5勝1敗という好成績をおさめ、3つのタイトル奪取に貢献した。

 角換わりも引き続き指されている。

 ただ、以前のように互いに二段金&一段飛車に構える格好ばかりではなく、早繰り銀のような急戦策も目立っている。

 藤井竜王と豊島将之九段(31)の3つのタイトル戦では、角換わり相早繰り銀と呼ばれる形が何度も出現した。

 矢倉は7局あるが、昔のようながっぷり四つの相矢倉に進んだ対局は1局しかなかった。7局全て渡辺明名人(37)が登場したタイトル戦で出現しているところに大きな特徴がある。

 「その他」とあるのは雁木戦法に進んだ対局だった。このことは後述する。

 横歩取りは1局もナシ。後手が苦しいと言われて久しいが、タイトル戦で1局も登場しないところにもそれが現れている。

 そして振り飛車に進んだ対局もなかった。アマチュアには振り飛車党の方が多いため、寂しいデータといえよう。

藤井竜王がブームの火付け役に

 相掛かりはプロ公式戦全体でも登場回数が大きく増えており、手元の調べでは昨年度から約1.5倍と急増している。

 これは藤井竜王が多く採用していることに要因がある。

 プロの下部組織である奨励会でも相掛かりが増えているそうだ。それだけ藤井竜王の戦法選択の影響は大きい。

相掛かりのスタート地点
相掛かりのスタート地点

 相掛かりはこの局面から広大な大地が広がっており、研究し尽くすのは不可能といえるほどだ。

 藤井竜王はこの局面で▲9六歩という手を好んでいる。

 他にも▲1六歩と逆の端を突く手や、▲5八玉や▲6八玉と玉を動かす手もある。

 幅が広く定跡を外れやすいため、新しい着想を求めて指す棋士も多い。

 矢倉においてガップリ四つの戦いが少ないのも藤井竜王の影響である。

 藤井竜王は矢倉の後手では常に桂跳ねを急ぐ急戦策を採用している。

矢倉の出だしで、後手の採用が増えている急戦策
矢倉の出だしで、後手の採用が増えている急戦策

 この作戦の優秀性もあるが、2021年度のプロ公式戦で他の棋士が多く採用したのは藤井竜王の影響が大きいだろう。

 そして渡辺名人が矢倉を多く採用するのも藤井竜王への対抗策という意味合いがある。

 渡辺名人は棋聖戦五番勝負と王将戦七番勝負での対藤井戦で矢倉において全く同じ形を採用し、研究勝負に持ち込んだ。

 これは藤井竜王が必ず△7三桂を急ぐ急戦策を採用することを見越して照準を合わせたものであった。

 2022年度では最低でも5つのタイトル戦へ出場することが決まっており、藤井竜王がどんな作戦を選択するのかによって、プロ全体の流行も決まってくるだろう。

 先手番での相掛かり採用は変わらない気もするが、もし他の戦法を採用するとプロ全体の流れも変わるかもしれない。

2022年度のタイトル戦。振り飛車の登場は?

 角換わりにおいて、先手が飛車先の歩を伸ばすか保留するか、という選択がある。

先手は飛車先を伸ばして角換わりを目指すと、後手に角道を止める変化を与えない
先手は飛車先を伸ばして角換わりを目指すと、後手に角道を止める変化を与えない

後手に△4四歩と角交換を避けるオプションがある
後手に△4四歩と角交換を避けるオプションがある

 先手が飛車先の歩を保留すると、後手は△4四歩と角交換を拒否できる。

 その展開の末、矢倉戦法と判定された対局もいくつかあった。その他に属する対局もその進行だった。

 矢倉を志向した出だしではなく、角換わりを志向しながら矢倉に変化したものを含めると、実は角換わりも相掛かりと同じくらい指されているのだ。

 そして年度末の若手同士の対局で、飛車先を保留して角換わり腰掛け銀に進み先手が快勝した対局が続けて現れた。

 角換わり腰掛け銀は先手側にやや停滞ムードがあったのだが、飛車先を保留することで新たな地平線が開けている可能性もある。

 この指し方を先日の棋王戦五番勝負で永瀬拓矢王座(29)が採用した。流行に敏感な永瀬王座がタイトル戦で採用するあたりに、若手で静かなブームになっていることを感じさせられる。

 2022年度のタイトル戦では、飛車先を保留した角換わりを先手が志向し、後手がそれを避けるかどうか、という展開が多く見られるかもしれない。

 2021年度は若手棋士を中心に振り飛車も復活の狼煙をあげた。

 特に三間飛車はブームといえるほど出現しており、2022年度も公式戦で多く指されるだろう。もしタイトル戦で再び振り飛車を見られるとしたら、三間飛車と予想する。

 2022年度は4月に名人戦七番勝負が開幕する。

 そして五段vs四段の挑戦者決定戦で話題となっている叡王戦五番勝負と続く。

 タイトル戦でどのような戦型が出現するのか、そういった観点からも注目いただくと、将棋を観る幅が広がることは間違いない。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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