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藤井聡太竜王ら次世代を担う若手棋士の昇級の行方は?ー第80期順位戦B級1組~C級2組中間展望ー

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
A級昇級を目前に控える藤井聡太竜王(写真:森田直樹/アフロ)

 第80期名人戦・順位戦は、B級1組~C級2組の各クラスで年内の対局を全て終えた。

 藤井聡太竜王(19)はA級昇級まであと一歩に迫っている。

 そして次世代を担う若手棋士も昇級を目指している。

 各クラスの途中経過と注目ポイントをまとめた。

B級1組

記事中の画像作成:筆者 「順位」は前期成績に基づいており、同星の場合はこの順位で最終順位が決まる
記事中の画像作成:筆者 「順位」は前期成績に基づいており、同星の場合はこの順位で最終順位が決まる

 B級1組については、9回戦終了時に記事を書いたのでそちらもご参照ください。

藤井聡太竜王、難戦を制してB級1組順位戦でトップに!年明けに昇級決定も?今後の展開は

 23日に10回戦が一斉に行われ、昇級戦線に動きがあった。

 7勝1敗の佐々木勇気七段(27)と3敗で追う千田翔太七段(27)の直接対決があり、千田七段が制して佐々木七段が2敗目を喫した。

 佐々木七段が敗れたことで、抜け番で対局のなかった藤井竜王が首位に立った。

 3敗同士の、三浦弘行九段(47)と稲葉陽八段(33)の一戦は稲葉八段が勝って昇級戦線に生き残った。こちらも大きな一番で、稲葉八段は4番手ながら順位がいいため昇級へ視界が開けた。

 藤井竜王が一歩抜け出した格好で、次戦で自身が勝って稲葉八段が敗れると2戦残しての昇級が決まる。

 ただ、相手は3敗の千田七段なので、もし藤井竜王が敗れると昇級戦線が混沌としてくる。

 2番手争いでは、7連勝から2連敗の佐々木七段に暗雲漂っている。最終戦の対藤井竜王戦が昇級をかけた大一番となるか。

 千田七段はなんといっても次の藤井竜王との一局が大きな勝負だ。

 降級(3名)をかけた残留争いでは、2勝の木村一基九段(48)、松尾歩八段(41)、阿久津主税八段(39)の3名が危ない位置にいる。

 次戦の松尾八段ー阿久津八段戦で負けたほうは残留がかなり厳しくなる。

 3勝も2名いて、一戦ごとに状況が変わってきそうだ。

B級2組

B級2組以下は3名が昇級する
B級2組以下は3名が昇級する

 中村太地七段(33)が全勝でかなり有利な状況だ。前期成績に基づく順位も上位なので、残り3戦で2敗しても昇級の可能性がある。

 2番手の澤田真吾七段(30)も順位上位のため、2勝1敗で昇級が決まる有利な位置にいる。

 毎年昇級候補にあげられる実力者2名が、いよいよ昇級を果たすか。

 2敗勢で順位上位の丸山忠久九段(51)が3番手だ。5勝2敗は表にあげた以外でも、C級1組からの昇級組である高崎一生七段(34)、高見泰地七段(28)、増田康宏六段(24)、そして前期の不振から巻き返した鈴木大介九段(47)と全部で8名いる。

 この中から残り3戦を全勝で駆け抜けた人が昇級をつかむとみる。

 このクラスは実力者が揃っており、楽な相手は全くいない。

 全勝の中村七段も他棋戦での成績が伸び悩んでおり、そういう状況では一つ負けるとガタッとくるケースもある。厳しい相手が続く中では決して油断できない。

C級1組

C級2組からの連続昇級なるか?!
C級2組からの連続昇級なるか?!

 首位を走るのは及川拓馬六段(34)。順位も上位で昇級へ向けて視界良好だ。

 前々期は9勝1敗で昇級を逃す不運に見舞われたが、今期も実力をみせている。

 2・3番手は前期C級2組から昇級した二人が続いている。

 2敗者が多いため、順位の悪い両者は昇級に向けて一つも負けられない。

 昇級争いのカギを握るのは北島忠雄七段(55)と青嶋未来六段(26)。9・10回戦で1・2番手の対戦相手となる。

 北島七段は勝つときの切れ味が鋭く、青嶋六段は朝日杯で本戦に進出するなど活躍が目立っている。昇級をかけて戦うのに嫌な相手といえよう。

 2敗勢は全部で7名。飯島栄治八段(42)、石井健太郎六段(29)は順位がいいため、残り3戦に勝てば昇級の可能性がかなり出てくる。

 高橋道雄九段(61)の名前にも目をひかれる。前節で痛い黒星を喫したとはいえまだ6番手。前期に続いて昇級争いに加わるベテランの奮闘にも注目が集まる。

 降級点を一つ持っている棋士に成績不振者が目立つため、このままだとC級2組へ降級する人数が増えそうだ。

 降級点のボーダーラインは、順位上位で3勝といったあたりか。

C級2組

全勝の2名を1敗の4名が追いかける
全勝の2名を1敗の4名が追いかける

 全勝で走る服部慎一郎四段(22)は昇級争いのメンバーで順位が一番上のため、非常に有利な状況にある。

 次戦は4番手につける渡辺和史四段(27)との対戦となる。順位戦参加2期目同士の若手対決が昇級争いに大きな影響を及ぼしそうだ。

 同じく全勝で2番手を走る西田拓也五段(30)は順位が悪く、1つでも負けると暗雲漂う。こちらは次々戦に1敗の本田奎五段(24)との直接対決を控えており、大きなヤマを迎える。

 3番手の杉本和陽五段(30)までが自力(自らが全勝すると昇級が決まる)となる。杉本五段が次戦・次々戦で対戦する相手はどちらもここまで5勝2敗と好調な棋士だ。イバラの道が待ち受ける。

 そして藤井竜王と同学年で、今年の新人王戦で優勝した伊藤匠四段(19)も1敗で追走している。上位陣の直接対決が多いため、残り3戦を全部勝つと昇級の可能性もおおいにある。

 表にはないが、毎期昇級候補にあげられる佐々木大地五段(26)が5勝2敗者の中で順位が一番上のため7番手につけている。上位陣との直接対決がないため、自分が勝ってあとは運を天に任せるよりない。

年明けは1月6日から

 1月6日(木)にC級2組の半分の対局が行われて順位戦が再開する。翌週は怒涛の順位戦ラッシュだ。

  • 1月11日(火)C級1組一斉対局
  • 1月12日(水)B級2組一斉対局
  • 1月13日(木)B級1組一斉対局&C級2組の残り半分

 なお筆者はC級2組に所属しており、佐々木五段に続く8番手につけている。周りの星も気になるが、何より自分が勝たないことには始まらない。これは全員にいえることで、皆それぞれ目の前の対局を必死に戦うことでしか道が開けない。

 年明けからが勝負所であり、一戦一戦が踏ん張りどころである。

 底力が問われる残り3戦、この3戦を制するものが順位戦を制するとも言われる。

 順位戦はここからが面白い。

 棋士の悲喜こもごもにぜひご注目ください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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