Yahoo!ニュース

藤井聡太三冠、羽生善治九段に勝って挑戦に前進!行く手を阻むのは誰か?〜第71期王将リーグ最終展望〜

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 9日、第71期ALSOK杯王将戦挑戦者決定リーグ5回戦藤井聡太三冠(19)ー羽生善治九段(51)が行われ、藤井三冠が勝って全勝をキープした。

 渡辺明王将(37)への挑戦権争いは、全勝の藤井三冠を1敗の2名が追う形になっている。

 ここから、佳境に入ったリーグ終盤を展望していく。

熱戦

 藤井ー羽生戦は総手数106手と長手数ではなかったが、一手一手が濃密な熱戦だった。

 矢倉から藤井三冠が急戦を志向し、最新形に進む。

 羽生九段は自陣角を放って攻撃態勢を整え、その攻めを藤井三冠が受け止める展開となった。

 中盤戦では互いに駒の損得を無視する理外の理ともいえる手が飛び出し、妙技がちりばめられたレベルの高い攻防が続く。

 終盤戦、藤井三冠が自陣の飛車を動かして敵陣にきかした時は、まさかその手が詰めろになっているとは、筆者には気が付かなかった。

 その手に対して羽生九段に適切な手段がなく、最後は藤井三冠が一気に羽生玉を詰ましあげた。

 一局通じて互いに最善と全力を尽くした、素晴らしい戦いだった。

挑戦権争いの現況

 ここで改めてリーグ表をご覧いただこう。

表の「▲」は先手番を表している
表の「▲」は先手番を表している

 全6戦のうち、藤井三冠は4戦全勝できている。

 追いかけるのは2勝1敗の2名だ。

 永瀬拓矢王座(29)は9日の対局で広瀬章人八段(34)をくだして1敗をキープした。

 先月5日に王座を防衛し、二冠へ向けてモチベーション高まるところだろう。前期の挑戦者でもあり、その雪辱もかかる。

 広瀬八段戦では難解な中盤のねじり合いを制して、好調を感じさせた。

 もう一人の1敗は近藤誠也七段(25)。順位戦でB級1組に所属しており、タイトル戦への登場が待たれる実力者である。

 広瀬八段戦、糸谷哲郎八段(33)戦といずれもトップ棋士相手に内容の良い将棋で勝ち星をあげており、充実の感がある。

 全勝の藤井三冠が残り2戦ということもあり、リーグ優勝のラインは1敗までだろう。そうなると挑戦権争いはほぼこの3名にしぼられたと言えそうだ。

直接対決

 ここで今後のスケジュールをご覧いただこう。

12日(金):△永瀬王座ー▲糸谷八段

15日(月):△永瀬王座ー▲近藤七段

19日(金):▲藤井三冠ー△近藤七段

24日(水):最終一斉対局

 挑戦権争いのカギを握るのは近藤七段だ。

 (12日の結果次第では)15日に1敗同士の決戦を行い、19日には全勝の藤井三冠と対戦をする。

 藤井三冠に土をつければ俄然リーグは混戦模様となるうえ、この2戦に連勝すれば近藤七段のタイトル初挑戦も現実的なものとなる。

 24日の最終一斉対局では藤井三冠ー永瀬王座のカードが組まれている。

 この一戦が挑戦権を争う重要な一番になる可能性も高い。

 永瀬王座が12日か15日に敗れた場合、19日に藤井三冠が勝つと最終戦を待たずに挑戦権を獲得する。

 渡辺王将への挑戦権を獲得するのは誰か。

 全勝の藤井三冠の優位は間違いないが、一つの結果でガラリと展開が変わる可能性もある。

 ここから約2週間、まさに佳境といえる状況が続く。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

遠山雄亮の最近の記事