Yahoo!ニュース

渡辺明名人、リターンマッチへ!藤井聡太棋聖との頂上決戦はどうなるか?

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
初防衛戦を迎える藤井聡太二冠(写真:森田直樹/アフロ)

 4月30日、第92期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦が行われ、渡辺明名人(37)が永瀬拓矢王座(28)に勝利し、藤井聡太棋聖(18)への挑戦権を獲得した。

 前期のヒューリック杯棋聖戦は藤井棋聖が渡辺名人に挑戦してタイトルを獲得した。渡辺名人にとってはリターンマッチとなる。

渡辺名人の逆転勝ち

 名人戦七番勝負第2局から中1日という過密日程で迎えた渡辺名人。

 連戦の疲れか、間隔が短いことによる準備不足か、序盤からやや精彩を欠いていた。

 一方、藤井棋聖とのタイトル戦を強く意識していたであろう永瀬王座は、その準備の確かさを感じさせる戦いぶりで大きくリードした。

 終盤戦、強く踏み込んで飛車交換を目指せば永瀬王座の勝利に終わっていただろう。

 渡辺名人も敗戦を覚悟していたと思う。

 しかし、そこで永瀬王座が指した馬引きが悪手で一気に混戦へ。

 息を吹き返した渡辺名人の指し手がそこから冴えて、逆にリードを奪う。

 永瀬王座も桂の乱れ打ちで迫るが、渡辺名人の応手は正確で勝負が決まった。

 これで渡辺名人が挑戦権を獲得。リベンジの機会を得た。

 対する藤井棋聖は初めての防衛戦に最強のチャレンジャーを迎えることになった。

前期の振り返り

 ここで前期五番勝負を振り返ってみよう。

記事中の画像作成:筆者
記事中の画像作成:筆者

 この五番勝負は名局揃いで、前期の全タイトル戦の中で注目度も充実度もNo.1だったといっても過言ではない。

 第1局:渡辺名人の王手ラッシュを振り切った藤井棋聖の正確な応手

 第2局:藤井棋聖の受けの妙手△3一銀

 第3局:渡辺名人渾身の研究手順

 第4局:初戴冠を決めた名手△8六桂

 先ごろ発売された専門誌の将棋世界6月号で「熱局プレイバック」の特集が組まれた。

 これは棋士女流棋士が投票をして、前年度の熱局を決めるものだ。

 そこで前期五番勝負から5位までに3局がランクインした。普通、番勝負のうち複数局ランクインされることも珍しいのだが、プロも興奮する熱局揃いだった証拠だ。

 今期五番勝負でも名局が期待される。

今期五番勝負の展望

 五番勝負は6月6日(日)に千葉県木更津市で開幕する。

 開幕まで1ヶ月以上あるため、その間に行われる他棋戦の対局がシリーズへ影響をもたらすだろう。

 藤井棋聖は現在19連勝中と充実している。

 ただここ2ヶ月は対局数が少ないので、調子についてはわからないところもある。

 ここから藤井棋聖の対局が増えていく。6月6日までに4局が決まっている。

  • 王座戦本戦(5月6日:深浦康市九段)
  • 順位戦B級1組(5月13日:三浦弘行九段)
  • 叡王戦本戦(5月17日:行方尚史九段)
  • 順位戦B級1組(6月3日:稲葉陽八段)

 強敵揃いだが、連勝がどこまで伸びるのか。調子をはかるバロメーターとなりそうだ。

 対する渡辺名人は、名人戦七番勝負の動向が五番勝負へ影響しそうだ。

 名人戦七番勝負は現在1勝1敗。6月6日までに第3~5局が消化される。

 もし名人戦で苦戦を強いられるようだと、棋聖戦への影響も出てくるだろう。

 一方、防衛を決めれば勢いに乗って棋聖戦へ臨むに違いない。

 この二人の対戦となれば、名局が生まれることは間違いない。

 頂上決戦といえるこのシリーズが今から楽しみでならない。

 五番勝負の開幕が待ち遠しい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

遠山雄亮の最近の記事