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名人戦七番勝負でペースをつかんだ渡辺明名人、藤井聡太棋聖へのリベンジを目指す戦いへ

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 28日に2日目が指し継がれた第79期名人戦七番勝負第2局は、渡辺明名人(37)が斎藤慎太郎八段(28)に91手で勝利し、通算成績を1勝1敗とした。

 序盤から緊迫感のある戦いとなった本局。

 中盤で渡辺名人が決断の馬切りから猛攻を仕掛けて斎藤八段の玉を追い詰めて、一気に寄せきった。

 2日目の夕食休憩前という早い終局だった。

相掛かりの選択

 渡辺名人が先手番で選択したのは相掛かり戦法。

 ここ最近は角換わり戦法を選択することが多かったので、やや意表を突く選択だった。

 直近で渡辺名人が先手番で相掛かりを選択したのは、逆転で話題になった第14回朝日杯将棋オープン戦準決勝藤井聡太二冠(18)戦以来だ。

 ちなみに前期の名人戦でも渡辺名人は第2局で相掛かりを選択している。

名人戦第2局、渡辺三冠の猛追を振り切った豊島名人の底力

 本局の進行は一つの前例をたどっていた。それは筆者が公式戦で指したものだった。

 その対局は、後手番だった筆者が主導権を奪って攻める展開となり、結果は敗戦だったものの悪くない展開だった。

 その対局を意識してか、先手番の渡辺名人が前例から手を変えた。

 そこから未知の展開となったが、長考を繰り返す斎藤八段に対して短考で手を返していく渡辺名人の様子をみると、準備に差があったかもしれない。

 現代将棋は、形勢に差はなくとも、「相手と準備に差がある展開に持ち込む」ことが勝つための手法として認識されている。

 特に渡辺名人はそういう展開に持ち込むのがうまい。本局もその例にもれなかった。

シリーズの行方

 中盤戦、2日目の昼食休憩を挟んで1時間を超える長考をみせた渡辺名人は、再開明けの一手から猛攻を仕掛けた。

 これが迫力のある攻めで、守りの薄い斎藤八段は耐えきれず勝負が決した。

 これで七番勝負は1勝1敗となった。

 第1局は劣勢の斎藤八段が終盤の逆転で勝ち、渡辺名人としては悪い流れで迎えた第2局だったが、その懸念を吹き飛ばす完勝だった。

 2局通じて押しているのは渡辺名人だ。逆転負けを喫したとはいえ、第1局も終盤まで優位に進めていた。

 さきほども書いたが、現代将棋は相手と準備に差がある展開に持ち込むことが重視されている。

 2局ともその点で渡辺名人が斎藤八段に差をつけており、シリーズとしてはペースをつかんでいるといえよう。

 第3局は斎藤八段の先手番だ。序盤から主導権を握って進めることができるか。そこが注目ポイントとなる。

 もし第3局で渡辺名人が勝つと、シリーズの流れを一気にもっていきそうだ。

 その第3局は5月4・5日に愛知県名古屋市で行われる。

 GW真っ只中に行われる名人戦、ぜひ各メディアでご覧ください。

棋聖戦挑戦者決定戦

 そして明日(30日)、渡辺名人は重要な対局を迎える。

 第92期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦、永瀬拓矢王座(28)戦だ。

 前期の棋聖戦では藤井二冠が初戴冠を果たした。その相手は渡辺棋聖(当時)だった。

 つまり渡辺名人にとって今期の棋聖戦はリベンジをかけた戦いだ。

 相手の永瀬王座とは、今年行われた第70期王将戦七番勝負での死闘も記憶に新しい。

 通算4勝2敗1千日手で防衛を果たしたが、3連勝からの2連敗でギリギリまで追い詰められた戦いだった。

 渡辺名人が勝って五番勝負に名乗りをあげれば、藤井棋聖とのシリーズは大きな注目を浴びるだろう。

 また永瀬王座が勝てば藤井棋聖と初めて番勝負を戦うことになる。これもまた楽しみなカードだ。

 名人戦七番勝負と合わせて、明日の棋聖戦にもご注目いただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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