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「強者は窮地で真価を発揮する」渡辺明棋王、苦境を脱して棋王9連覇へ一歩前進

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
画像作成:筆者

 20日、第46期棋王戦五番勝負第2局が行われ、渡辺明棋王(36)が糸谷哲郎八段(32)に勝って通算1勝1敗のタイに戻した。

 序盤は互いに得意とする角換わりへ進んだ。

 渡辺棋王が先攻し、自玉側の端から猛攻を仕掛ける意表の手順が秀逸だった。

 ここでリードを奪った渡辺棋王が糸谷八段に粘りを許さずに押し切った一局だった。

強者は窮地に強い

 20日はテニスの大坂なおみ選手が全豪オープンで優勝した日でもあった。

 テニスを趣味とする筆者はその試合をTVで観戦していて、「強者は窮地で真価を発揮する」ことを強く感じた。

 大坂選手の試合でいえば、第1セット4-4で迎えた第9ゲームが勝負の分かれ目だった。

 このゲームで苦境に立たされた大坂選手だったが、粘ってサービスゲームをキープしたことで試合の流れを渡さなかった。

 棋王戦五番勝負は第1局を挑戦者の糸谷八段が制していた。そして第2局は糸谷八段の先手番で、得意とする角換わりで必勝を期していた。

 また渡辺棋王は公式戦3連敗中で、その中には藤井聡太二冠(18)に喫した衝撃の逆転負けも含まれている。

 悪い流れの中で迎えた一戦だった。

 普通の棋士ならズルズルといってしまうところだろう。

 そこで踏ん張って白星をあげるのが三冠を保持する渡辺棋王の強さだ。

人事を尽くした後の幸運

 大坂選手が5-4とリードして迎えた第10ゲーム。ギリギリで拾ったボールを相手がミスする展開が続いた。

 大坂選手が人事を尽くしたことで、幸運が舞い降りてきたのだ。

 それによりこのゲーム、そして第1セットを奪うことに成功した。

 本局、渡辺棋王が自玉の端から猛攻を仕掛けてペースを握った。

 この攻めには立会人の深浦康市九段(49)やABEMA将棋チャンネルの解説陣からも驚きの声があがっていた。

 しかし渡辺棋王はこの攻めを部分的に知っていたと局後のインタビューで明かした。

 本局に合わせた研究ではなく、普段の研究で発見していた好手順が偶然実戦で現れたとのことだ。

 普段のたゆまぬ鍛錬が重要な一戦で生きたといえよう。

 また、本局は渡辺棋王が角換わりの中でもやや珍しい形を選択した。

 先手番の糸谷八段に端の位を取らせて、その間に攻撃態勢を作るというものだ。

 普段の渡辺棋王であれば選択しない格好なだけに、この一戦をどう勝つか考え抜いた末の選択だろう。

 結果的にそうして人事を尽くした結果として糸谷八段も気づかぬ攻め筋を繰り出すことに成功し、勝利をもぎとったのだった。

勝負の流れ

 大坂選手は接戦の末に第1セットを奪うと、第2セットでは開始から4ゲームを連取。一気に試合の流れを引き寄せて勝利した。

 勝負の常として、窮地を脱した後は流れを引き寄せやすい。

 そう考えると、五番勝負の流れを渡辺棋王が引き寄せつつある。

 今度苦境に立たされたのは糸谷八段のほうだ。第3局を後手番で迎えるが、ここ数年は後手での作戦に苦慮しているところがある。

 勝負の流れを再び引き寄せるためにも勝利がほしいだけに、どの作戦をもってくるか重要だ。

 糸谷八段も苦境での強さに定評がある。

 そのことは筆者が別の記事で書いているのでご参照いただきたい。

挫折のたびに強くなる糸谷哲郎八段、その原点に私は居合わせた

 一方、公式戦の連敗を3で止めた渡辺棋王は、自身のブログでホッとした旨を述べている

 来週末には永瀬拓矢王座(28)を挑戦者に迎える第70期王将戦七番勝負第5局が行われる。もし勝って防衛を決めればさらにいい流れに乗ることだろう。

 棋王戦五番勝負第3局は3月7日(日)に行われる。

 シリーズの行方を大きく左右する一番になりそうだ。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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