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渡辺名人・豊島竜王・藤井二冠・永瀬王座による「4強時代」が続くか?ー2021年将棋界展望ー

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
2020年、2つのタイトルを獲得した藤井聡太二冠(写真:森田直樹/アフロ)

 あけましておめでとうございます。

 厳しい社会情勢は変わらず続きますが、将棋界の動向、棋士の熱い対局が明るい話題を届けられれば嬉しく思います。

 2021年も棋士ならではの視点を交えて将棋界の記事を書いていきますので、お付き合いのほど宜しくお願い致します。

4強時代

 2020年、渡辺明名人(36)・豊島将之竜王(30)・藤井聡太二冠(18)・永瀬拓矢王座(28)の4名がタイトルを分け合い、「4強時代」が訪れた。

 タイトルを分け合うだけでなく、非公式のレーティングサイトでもこの4名は5位以下を大きく引き離している。名実ともに「4強」であるといえよう。

 実際に対局内容をみていても、この4名のクオリティの高さには目をみはるものがある。

 渡辺名人は8月に名人を獲得し、昨年輝きをみせた棋士の一人だった。

 ただ、10月以降は成績を落とし、非公式のレーティングサイトでは4名の中で一番下となっている。

 1月に第70期王将戦七番勝負。2月に第46期棋王戦五番勝負。4月に第79期名人戦七番勝負の開幕を予定している。

 王将戦では永瀬王座が挑戦を決めており、年明け早々4強の二人が激突する。

 立て続けに行われる3つの防衛戦は、渡辺名人にとって2021年の正念場といえよう。

 その非公式レーティングサイトで1位に立つのは藤井二冠だ。

 このまま一気にタイトルを増やす勢いにもみえるが、棋戦の進行上2021年はしばらくタイトル戦への出場機会はない。

 二冠(王位・棋聖)の防衛戦含め、タイトル戦での活躍は夏以降となる。

 豊島竜王と永瀬王座は次の防衛戦まで間がある。

 そのため「4強時代」が続くかどうかは、渡辺名人の3つの防衛戦にかかっている。

 渡辺名人が無冠に転落することはないと思うが、4強以外がタイトルを獲得する可能性は十分にある。

関西若手が躍進か?

 「4強」を崩す筆頭格は糸谷哲郎八段(32)だ。2月の第46期棋王戦五番勝負で渡辺棋王に挑戦する。

 もし糸谷八段がタイトルを獲得すれば、「戦国時代」が訪れる。

 糸谷八段は渡辺名人に対して分が悪く、現在6連敗中だ。厳しい番勝負ではあるが、最初の2局で一つでも勝てば苦手意識も払拭され、勝負の流れも変わってくるだろう。

 その糸谷八段に牽引されるかのように、関西の若手棋士が活躍している。

 斎藤慎太郎八段(27)は新A級の今期、5勝1敗で挑戦争いのトップを走っている。

豊島竜王の名人挑戦&羽生九段の残留争いの行方は?ー第79期A級順位戦中間展望ー

 斎藤八段はタイトル獲得経験もあり、今期も7割近い勝率を残している。糸谷八段同様、「4強」を崩す筆頭格だ。

 また今期の勝率ランキングをみると、10位までに関西の若手棋士が7名入っている。

 その中でも注目は池永天志四段(27)だ。

 若手登竜門ともいえる新人王戦と加古川青流戦で優勝するなど、若手棋士の中でも活躍が目立っている。

 1月から始まる第62期王位戦挑戦者決定リーグでは台風の目になるかもしれない。

中堅、ベテランの巻き返しは?

 昨年の第33期竜王戦七番勝負ではタイトル獲得通算100期を達成できなかった羽生善治九段(50)だが、2021年もタイトル戦の舞台に出てくる可能性は高い。

 先日筆者は羽生九段の対局で解説を担当し、スキのない指しまわしに改めてその強さを実感した。

 ファンは羽生九段と藤井二冠のタイトル戦を心待ちにしている。

 羽生九段は藤井二冠がタイトルを持つ第62期王位戦と第92期ヒューリック杯棋聖戦で挑戦の目があり、勝ち上がれば徐々にその期待は高まっていくだろう。

 もう一人、山崎隆之八段(39)をあげる。

 2月には40代に入り、関西若手棋士の中心として活躍してきた山崎八段も中堅に差し掛かっている。

 山崎八段は好調を維持していて、順位戦では悲願のA級昇級に向け先頭を走っている。

藤井聡太二冠の昇級の行方は?ー第79期順位戦B級1組~C級2組中間展望ー

 最近は一門の糸谷八段と切磋琢磨する機会を増やしているという。好成績を残す関西の若手棋士達に刺激を受けている側面もあるだろう。対局内容から充実ぶりがうかがえる。

 タイトル戦への登場、そして初タイトル獲得を願うファンは多い。

対局できる幸せ

 2020年は全棋士女流棋士が無事に対局できる幸せを痛感した一年であった。

 先を見通せない社会情勢の中、一年通じて対局をこなせるのか不安も残る。

 無事に公式戦が続いていくことを願うばかりだ。

 そしてこの社会情勢の中で将棋界の動向が皆さんに安らぎを与えていければ、それに勝る幸せはない。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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