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振り飛車の真骨頂!久保利明九段、「粘り」で勝利。王座戦はフルセットへ

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 6日、第68期王座戦五番勝負第4局が行われ、久保利明九段(45)が永瀬拓矢王座(28)に201手で勝った。

 シリーズは通算2勝2敗となり、タイトルの行方は最終戦へ持ち越しとなった。

 先手番の久保九段が四間飛車を採用して持久戦の戦いに進んだ。

 中盤は永瀬王座がリードするも、久保九段も粘って長期戦に。

 終盤は二転三転したが、久保九段の粘りに手を焼いた永瀬王座に大きなミスが出て、久保九段の逆転勝利となった。

わずかなスキ

 「永瀬王座の防衛が決まったか」

 そう思わせるほど久保九段に厳しい情勢だった。

 しかし久保九段は諦めない。ABEMA将棋チャンネルの中継に映るその表情も、勝負を諦めていない様子が窺えた。

第68期王座戦五番勝負第4局▲久保利明九段ー△永瀬拓矢王座 134手目△6八角まで 全=成銀
第68期王座戦五番勝負第4局▲久保利明九段ー△永瀬拓矢王座 134手目△6八角まで 全=成銀

 △6八角は次に△4六角成の王手竜取りを狙っている。

 防ぐだけなら▲4八香と打てば受かるが、△5九角成▲3九金に△4九馬▲同金△1七銀、といった感じで攻め切られてしまう。

 もはやこれまでかと思った矢先、久保九段の指し手は▲4五竜!

 △同歩には相手玉を取れるのだが、それにしても歩の頭に竜を持ってくるとは派手な手だ。

 これで形勢を挽回したわけではないが、この辺りから逆転のムードが漂ってきた。

 戻って△6八角では△1七銀と攻めれば永瀬王座の勝利で終わっていただろう。

 うまい手にみえた△6八角がわずかなスキを生み出し、ここから久保九段の驚異の粘りを呼んでしまう。

崩れかけた穴熊

 先ほどから30手ほど進んだ図。

第68期王座戦五番勝負第4局▲久保利明九段ー△永瀬拓矢王座 172手目△2四香まで
第68期王座戦五番勝負第4局▲久保利明九段ー△永瀬拓矢王座 172手目△2四香まで

 永瀬王座が端を絡めて攻めたことにより、久保九段の囲いは穴熊が崩れたような格好になっている。

 この△2四香は厳しい手で、次に△2七香成と指せば受けなしだ。

 かといって▲3六銀と取れば△2八金で詰まされる。

 もはやこれまでか、そう思った矢先に指された▲4二角成。

 △同銀に▲3四桂から攻めても一手負けが濃厚なだけに、意表を突く手だ。

 しかし△同銀に▲2八金!と埋めるのが久保九段の狙いだった。

 この崩れかけた穴熊が妙に攻めにくい。結果的にこの手が秒読みに追われている永瀬王座の焦りを誘った。

 最近は振り飛車の新戦術がスポットライトを浴びている。

振り飛車復活へ!タイトル挑戦を決めた久保九段も信頼を寄せる「令和の振り飛車」

 しかし本来はこうした粘りこそ振り飛車の真骨頂であり、久保九段の真骨頂なのだ。

 いまのプロ棋界において、長期戦にもつれこめば永瀬王座の右に出る人はなかなかいない。

 しかしこの久保九段の粘り、執念に永瀬王座が大きなミスを出した。

 ▲2八金に対して△3七銀成から攻め込めば受けなしに追い込めたのだが、△3一銀と受けにまわってしまったのだ。

 ここを境に一転して流れは久保九段に傾いていく。

 そして迎えた図。

第68期王座戦五番勝負第4局▲久保利明九段ー△永瀬拓矢王座 187手目▲1四香まで
第68期王座戦五番勝負第4局▲久保利明九段ー△永瀬拓矢王座 187手目▲1四香まで

 この▲1四香が急所をとらえてついに久保九段が優位をつかんだ。

 直前に△1六歩と打ったことで、歩の合駒がきかないのが痛い。

 やむを得ない△1三桂に▲4一竜が▲3二竜からの詰めろで厳しい攻めとなった。

 以下は絶対に詰まない自玉をバックに攻め立てた久保九段が勝利した。

最終戦

 これで王座戦五番勝負は2勝2敗のタイとなり、最終戦にもつれ込んだ。

 改めて勝敗表をみてみよう。

王座戦五番勝負は最終戦に
王座戦五番勝負は最終戦に

 本局の逆転勝ちで、流れは久保九段にあるといえる。

 一方、こうした状況下で踏ん張るのが永瀬王座の強さでもある。

 「令和の振り飛車」を引っさげて、振り飛車復活をかける久保九段か。

 執念を押し出し勝負に徹して、初防衛を目指す永瀬王座か。

 タイトルの行方はまったくわからない。

 ここまで全て先手番が勝利していることもあり、振り駒はキーになる。

 勝負を決めるのは終盤とはいえ、ペースを握って戦うためにもお互いに先手番が欲しいのは間違いない。

 振り飛車はアマチュアに人気が高く、久保九段を応援しているファンも多いことだろう。

 そうしたファンの吹かせる風は、最後の最後に対局者の背中を押す。

 その光景をどこかで見た記憶はないだろうか。そう、昨年の第60期王位戦七番勝負だ。

 その時は若きタイトルホルダー(豊島将之現竜王)に、初タイトルを狙う40代の木村一基九段が挑む構図だった。

 今回も若きタイトルホルダーに、振り飛車復活を狙う40代の久保九段が挑む構図だ。

 ファンのあと押しが振り飛車復活の夢をかなえるのか。

 注目の第5局は14日に行われる。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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