この夏は豊島将之名人(29)と木村一基九段(46)が2つの棋戦で番勝負を争っている。

 第60期王位戦七番勝負と第32期竜王戦挑戦者決定三番勝負だ。2つを合わせると十番勝負となる。

 昨日は広瀬章人竜王への挑戦権を懸けた竜王戦挑戦者決定三番勝負の最終第3局が行われ、豊島名人が勝って挑戦を決めた。

 王位戦七番勝負は現在豊島王位の3勝2敗で、竜王戦挑戦者決定三番勝負と合わせての十番勝負は豊島名人が5勝3敗とリードしている。

昨日の対局

 昨日の対局を振り返ってみよう。

 再度の振り駒となり、先手番を得た豊島名人はエースの角換わり戦法を採用した。

 膠着状態となった中盤戦で豊島名人が技をかけにいった。銀を捨てるかわりに桂と香を得て馬を作る手順だった。

 ただその瞬間は木村九段に手番を渡しており、しかも木村九段の玉は堅陣におさまっている。猛攻を食らってもおかしくない格好だった。

 木村九段はその瞬間に角を捨てて飛車を成りこみ技をかけにいった。しかしこの動きがどうだったか。木村九段も対局後にこの角捨てを反省する旨を述べている。

 有利にたった豊島名人だが、自玉が不安定な中で攻めを続ける必要があり、神経を使う展開だっただろう。

 終盤は木村九段に目の覚めるような銀捨ての勝負手が出るなど、白熱した戦いだったが、豊島名人がリードを生かして逃げ切った。

エース戦法

 先月こちらに書いた記事で、豊島名人の角換わりを「エース戦法」と表現した。まさにその通りの展開で、王位戦第5局、そしてこの竜王戦挑戦者決定三番勝負第3局と、大きなところでエース戦法が星を稼いだ。

 頼れるエースがいることの大きさを改めて実感する。この夏の高校野球でいえば星陵高校の奥川恭伸投手のような存在と言えそうだ。

 豊島名人は春先の名人戦七番勝負でも先手番で角換わり戦法を採用して2勝(後手でも1勝)している。

 そして豊島名人の竜王戦決勝トーナメントでの勝ち上がりをみると、ベスト8で藤井聡太七段に、準決勝で渡辺明三冠に、それぞれ角換わり戦法で勝っている。

 豊島名人は王位戦第6局を後手番で迎えるため、角換わり戦法を使うことは難しいであろう。しかしもし第7局にもつれての振り駒で先手番を得れば、さらには第6局が千日手になれば、エースの投入が可能だ。

 先手番を握れば、ここ一番でエースを投入することは間違いない。

炎の十番勝負の今後と王位戦第6局の展望

 炎の十番勝負も決着の時を迎える。今後の日程は下記となる。

  • 王位戦第6局▲木村九段―△豊島王位:9月9・10日
  • 王位戦第7局(先後未定)豊島王位―木村九段:9月25・26日

※第6局で木村九段が勝った場合のみ第7局が行われる

 前述の通り、第6局は木村九段の先手番だ。炎の十番勝負での先手番では3局とも木村九段は相掛かり戦法を選択している。

 この第6局も相掛かり戦法を採用すると予想する。

 相掛かりという戦法は他の戦法と比べて幅が広いため、一口に相掛かり戦法といってもいくつものパターンがある。実際ここまでの3局とも木村九段は違うパターンを選んでおり、豊島名人としては研究の的を絞りづらそうだ。

 相掛かり戦法は炎の十番勝負における木村九段のエース戦法になっている。

 木村九段が第6局を勝てば決着は最終第7局に持ち込まれる。

 そこでは改めて振り駒が行われ、先後が決められる。

 どちらも先手番にエース戦法を持つだけに、振り駒の持つ意味合いは大きそうだ。

木村九段の巻き返しは

 木村九段としては王位戦第6局を勝つのは絶対条件となる。ここまで先手番における相掛かり戦法では局面をリードする展開が多いため、安心感があるだろう。相掛かりは戦法として幅が広いため、豊島名人の深い研究を回避しやすいという側面もある。

 炎の十番勝負も開幕当初は押されていたり逆転を喫したりしていたが、途中からは木村九段が押しているケースも目立つ。地力勝負となれば培ってきた経験が生きてくるのだろう。

 タイトル戦の雰囲気にも慣れ、力を十二分に発揮できる態勢は整っている。悲願の戴冠に向けて、王位戦第6・7局での連勝も可能性は十分にある。

 炎の十番勝負もいよいよ最終章だ。夏の熱い戦いが終わるのは、高校野球の甲子園での決勝戦と同じように寂しさも感じる。

 残された王位戦七番勝負を制するのはどちらの棋士か。ご注目いただきたい。