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将棋界の歴史が動いた!藤井聡太七段初優勝など2018年を振り返る

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
(写真:アフロ)

 2018年の将棋界は、話題に事欠かない一年となった。

 羽生善治竜王(当時)の国民栄誉賞受賞で始まり、藤井聡太七段の棋戦初優勝、そして年末は平成の最後に羽生九段が無冠に転落した。

 この一年で歴史的だった出来事をピックアップし、当時の対局と共に振り返る。

藤井(聡)七段が全棋士参加棋戦で初優勝!

 当時中学3年生だった藤井(聡)五段(当時)が、2月に第11回朝日杯将棋オープン戦で自身初めての棋戦優勝を果たした。

 これはタイトルホルダーも揃う全棋士参加棋戦での優勝ということに大きな意味がある。

 藤井(聡)五段(当時)が本戦で勝ったメンバーは、

澤田真吾六段→佐藤天彦名人→羽生竜王(当時)→広瀬章人八段(当時)

 このメンバーをゴボウ抜きしての優勝は驚愕の出来事だった。

 決勝の相手である広瀬八段(当時)は、年末に竜王を獲得して2018年に輝いた棋士の一人だ。

 その強敵を相手に見せた次の一手は鮮烈だった。

第11回朝日杯オープン戦決勝 ▲藤井(聡)五段(当時)-△広瀬八段(当時)
第11回朝日杯オープン戦決勝 ▲藤井(聡)五段(当時)-△広瀬八段(当時)

 ここで▲4四桂のタダ捨てが決め手となった。

 △同飛に▲4五歩と飛車道を止めて▲3七金と角を取るのが狙いだ(すぐに▲3七金は△4九飛成と飛車を取られる)。

 後手玉は薄いので、攻めが続いてはひとたまりもない。

 藤井(聡)五段(当時)の、決勝のプレッシャーを感じさせない指しまわしが印象的だった。

新タイトル戦でニューヒーロー誕生!

 将棋界は長らく七大タイトルだったが、叡王戦が加わって八大タイトルになった。

 これは現役のプロ棋士である筆者としてもたいへん嬉しい出来事だった。

 その叡王位を懸けた七番勝負は、金井恒太六段ー高見泰地六段(当時)という若手棋士同士のフレッシュな顔合わせに。

 金井六段が形勢をリードするも、高見六段(当時)が追い上げて逆転、というパターンで全4戦を高見六段(当時)が制したシリーズとなった。

 象徴的だったのが第2局。金井六段が優位に局面を進めたが、攻めを焦って逆転。高見六段(当時)の次の一手が勝負を決める一着だ。

第3期叡王戦七番勝負第2局 ▲高見六段(当時)-△金井六段
第3期叡王戦七番勝負第2局 ▲高見六段(当時)-△金井六段

(注:全=成銀、圭=成圭、杏=成香)

 ここで▲4五銀と攻めの桂を取り、△同歩に▲2三桂が急所の王手。以下△2二玉▲2四馬と進んで▲1一角の詰めろが受けづらい。以下は数手で投了に追い込んだ。

 新タイトル戦でニュースターの誕生となった。ただそのニュースター高見叡王は、タイトル獲得後に思うような成績を残せていない。これも後述する実力拮抗の時代を表している。

八大タイトルを8人で分け合う戦国時代

 7月に豊島将之八段(当時)が羽生棋聖(当時)から棋聖を奪い、念願の初タイトルを獲得した。

 それにより八大タイトルを8人で分け合う、実力拮抗を象徴する歴史的な瞬間が生まれた。

 複数タイトル所持者がいないのは1987年以来31年ぶりのことだった。

 その状況を打破したのも豊島棋聖(当時)で、菅井竜也王位(当時)から王位を奪取して二冠となった。

 王位戦七番勝負は互いに先手番を勝ち、迎えた最終第7局も先手が勝って全局先手番が制するシリーズとなった。

 激闘となった王位戦七番勝負、豊島棋聖(当時)が王位奪取を決めたのが次の一手だった。

第59期王位戦七番勝負第7局 ▲豊島棋聖(当時)-△菅井王位(当時)
第59期王位戦七番勝負第7局 ▲豊島棋聖(当時)-△菅井王位(当時)

 ここで▲8二角成が英断の一着。先手玉は崩れかけの穴熊だが、王手がかからず詰みはない格好だ。そのスキに一気に攻めかかった。

 以下△8二同玉▲7三銀から守備駒を一掃して、一気に決着をつけた。

 豊島二冠は、2018年最も輝いた棋士と言えよう。A級順位戦でも全勝で名人挑戦争いのトップを走っており、三冠も視野に入っている。

藤井(聡)七段、史上最速・最年少・最高勝率で100勝達成

 藤井(聡)七段は、2018年当初は四段だった。それが、

2月1日:五段

2月17日:六段

5月18日:七段

 あっという間に七段に到達し、師匠の杉本昌隆七段に追いついてしまった。驚異的なスピードと言える。

 その勝ちっぷりが、最速・最年少・最高勝率での通算100勝達成につながった。

 通算94勝目は、新人王戦優勝を決める1勝だった。

第49期新人王戦決勝三番勝負第2局 ▲藤井七段-△出口若武奨励会三段
第49期新人王戦決勝三番勝負第2局 ▲藤井七段-△出口若武奨励会三段

 ここで、▲6三香△同金▲6一銀△同玉▲6三馬がうまい攻めだった。

 「金なし将棋に受け手なし」の格言通りで、後手は持ち駒に金が無いので受けがない。

 2018年は2つの棋戦優勝を果たした藤井(聡)七段だが、王座戦挑戦者決定トーナメントでベスト4敗退など、タイトル戦出場にはあと一歩届かなかった。ただ高勝率に変わりなく、タイトル戦に出場する日もそう遠くないであろう。

羽生九段が27年ぶりの無冠に

 平成元年に初タイトルを獲得した羽生九段は、平成の最後についに無冠へ転落した。

 2018年は、

名人戦:2勝4敗で挑戦失敗。

棋聖戦:2勝3敗で防衛失敗。

竜王戦:3勝4敗で防衛失敗。

 結果的にはタイトルを失ってしまったが、どれも僅差のものであり、巻き返しの可能性も高いと思われる。

 次にタイトルを獲得すると通算100期の偉業達成となる。その日を待ちわびるファンも多いことだろう。

 竜王戦七番勝負は、防衛まであと1勝としながら、その1勝が遠かった。

 第5局は羽生竜王(当時)らしさが出た一局だった。

第31期竜王戦七番勝負第5局 ▲羽生竜王(当時)-△広瀬八段(当時)
第31期竜王戦七番勝負第5局 ▲羽生竜王(当時)-△広瀬八段(当時)

 ここで、▲2三歩成△同歩▲2四歩がうまい攻めだった。2筋は押し込んでいるのでいじりたくない所だが、常識を超えた指しまわしに感動を覚えた。

 これで攻めがつながり第5局を制して通算3勝2敗としたのだが、第6・7局を連敗して失冠となってしまった。

 羽生九段の実力には疑う余地がない。ただ他のトップ棋士の実力がそれ以上に伸びている感じを受ける。将棋AIの影響もあるだろう。2019年羽生九段の巻き返しがなるか、注目される。

2019年はどんな歴史が生まれるか?!

 将棋界は年初から見どころが尽きない。

・棋王戦五番勝負で、渡辺明棋王に絶好調の広瀬竜王が挑戦!

・無冠に転落した羽生九段は名人挑戦なるか?

・王将戦七番勝負で、久保王将は振り飛車の牙城を守れるか?

・藤井(聡)七段の順位戦連勝記録更新とB級2組への昇級はなるか?

 ぜひ2019年も将棋界にご注目いただきたい。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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