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【将棋】なぜ竜王戦は角換わり戦法が続くのか?

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
(写真:アフロ)

 将棋界の最高棋戦で、羽生善治竜王(48)に広瀬章人八段(31)が挑戦する竜王戦七番勝負第2局の2日目が行われている。将棋連盟のHPで特集が組まれ、将棋連盟ライブ中継でも配信されている。

 本局は第1局に続いて角換わり戦法となった。2局連続で同じ戦法が続くのは、わりと珍しい。その理由をプロの立場から、なるべく易しく解説していく。これを読めば、「竜王戦は角換わりが続く」と自信を持って言えるはずだ。

第2局も角換わりに

 本局は広瀬八段が先手で、角換わりに誘導した。第1局は先後を入れ替えて、やはり角換わりだった。

 いま、プロの将棋、特にトップ棋士同士の対戦では角換わりが非常に多く指されている。羽生竜王もその傾向があり、先手番だったここ10局中7局で角換わりを指している。

 角換わり戦法は、その名の通り角を交換する戦法で、古来より指されている有力な戦法である。

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(竜王戦第2局▲広瀬八段-△羽生竜王)

なぜ角換わりが指されるのか?

 将棋には大きくわけて2つの分類がある。

 ・居飛車

 ・振り飛車

 角換わり戦法は居飛車に分類され、居飛車は大きくわけて4つの戦法に分類される。

 ・矢倉

 ・角換わり

 ・相掛かり

 ・横歩取り

 このうち、後手が自分から誘導できるのは横歩取りだけだ。

 最近はこの横歩取りは後手が苦労しており、プロ間で対局数が大きく減っている。

 後手が主導権を先手に渡せば、今度は先手が戦法を誘導する番だ。そしてプロ間では先手が戦法を誘導する際に、角換わりを選択するケースが大きく増えているのである。

 数年前までは矢倉に誘導するケースが多かった。しかし近年、後手からの急戦策が有力とされており、先日筆者も急戦策を用いてタイトルホルダーから金星をあげた。

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(竜王戦4組昇級決定戦準決勝▲高見叡王-△遠山六段)

 後手も攻めきるのは大変だが、最初から攻められっぱなしの先手は愉快ではないだろう。

 もうひとつの相掛かりは、先に指せる先手の得を生かすのが難しいとされており、どこかで見解が変わる可能性はあるが、現状は他の2つと比べて人気がない戦法だ。

 まとめると、

・後手が横歩取りを指さない

・先手が矢倉を指さない

 この2点により、角換わりが増えているのだ。

 角換わりが優秀だから、という積極的な理由ではなく、消極的な理由で増えているのが面白い。

 先ほど羽生竜王の先手番での戦法選択について書いたが、その内訳は

『角換わり=7局、相掛かり=2局、矢倉=1局』

トップ棋士である豊島将之二冠や、昨日も勝って順位戦の連勝を15に伸ばした藤井聡太七段も角換わりが多い。

竜王戦は角換わりシリーズに?!

 第2局は1日目を終えたところで先手の広瀬八段がリードを奪ったようだ。第1局は先手の羽生竜王が勝っている。そうして見ていくとどこかで後手が角換わりを避けそうにも思うが、いま現在は後手で角換わりを指すと工夫の余地が多くて面白い。

 先手が裏をかいて、人気のない相掛かりや、急戦策への対抗策をもって矢倉を採用する可能性も否定はできないが、決着局まで全て角換わりという可能性はかなり高い。

 

 そういった戦法面でも注目して竜王戦をご覧いただくと、さらに将棋を観る目が磨かれることは間違いない。

 本日行われている第2局は広瀬八段がややリードしていると書いたが、波乱なく終わるとも言い切れない。終盤戦までもつれる、熱戦を期待したい。終局は18時頃の予定だ。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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