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shezoo版〈マタイ受難曲2021〉証言集のトリセツ

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
〈マタイ受難曲2021〉上演中ステージの全景(撮影/写真提供:永島麻実)

2021年2月20日と21日の2日間、東京・豊洲の豊洲シビックセンターホールで、ある“音楽作品”が上演されました。

その〈マタイ受難曲2021〉と題された“音楽作品”をまとめたのは、ピアニストであり作編曲家であるshezoo(シズ)。そして、その“音楽作品”のもととなっているのが、バッハが作曲した〈マタイ受難曲〉でした。

折悪しくコロナ禍に翻弄され、当初の上演予定は延期や変更が重なりましたが、ようやく実現したのが前述の期日。

印象深いラストシーンを記憶に残して幕を閉じたこの上演は、日本の音楽史のみならず演劇史にも刻まれるものであった──という想いが日を経るごとに高まり、関係者の声だけでも記録しておきたいと取材の申し込みをしたのが半年後のことでした。

2021年の夏に、出演者とスタッフ計20名の方々に時間を作っていただき、オンラインでインタヴューを敢行。それをまとめるのにまた半年ほどかかり、どうやって発表していくかというアイデアを固めるのにまた数ヵ月……。

ようやく披露するかたちを整えられたのが、これから連載していく“shezoo版〈マタイ受難曲2021〉証言集”です。

ということで、週刊ペースで20人分の“証言”を送り出していく予定ですが、その前に、軽く“shezoo版〈マタイ受難曲2021〉証言集”の概要を説明しておきましょう。

バッハ作〈マタイ受難曲〉とは?

shezoo版〈マタイ受難曲2021〉は、ヨハン・セバスチャン・バッハが作曲した〈マタイ受難曲〉をベースに、現在の世界的な状況を反映した脚本をオリジナルに制作して楽曲と組み合わせた作品。挿入された楽曲はヨハン・セバスチャン・バッハによるものをベースに、編成や使用楽器、アドリブの可能性を加味した点などで、大幅に変更したアレンジ版になっています。

ヨハン・セバスチャン・バッハは1685年生まれ、現・ドイツ連邦共和国アイゼナハ出身の作曲家・音楽家。ヨーロッパで17世紀初頭から18世紀半ばにかけて隆盛したバロック音楽を代表する人物として現在に伝えられています。

〈マタイ受難曲〉は、バッハがライプツィヒの聖トーマス教会の指導者(カントル)に就任した時期(1723〜1750年)に書かれたもので、上演されたのはその聖トーマス教会にて、1727年のことでした。キリスト教の新約聖書「マタイによる福音書」の一部を題材にして、音楽劇仕立てに構成された作品になっています。台本は、“ピカンダー”ことクリスティアン・フリードリヒ・ヘンリーツィによるもの。

バッハという音楽家は、宮廷音楽家としてのみならずオルガン奏者としても名を知られる存在で、欧州の諸侯に招かれるほどの名声を得ていましたが、同時に、当時としては前衛的な試みにも立場を省みずに挑戦して、世間を驚かせる“トラブルメーカー”でもあったようです。こうした気質が〈マタイ受難曲〉にも反映されていたせいか、バッハの死後は(大作というハードルの高さもあり)長らく忘れられていました。

これを1829年に復活上演して再評価したのがドイツ・ロマン派の音楽家として知られるフェリックス・メンデルスゾーン。メンデルスゾーンはすでにこの時点で、バッハが想定した古楽器ではない新たな楽器を使用し、現在の私たちがオーケストラと認識できる編成にアレンジしていました。

曲の体裁は、第1部が29曲、第2部が39曲の2部構成で、通しでの一般的な上演時間は約3時間と言われています。

68曲は大まかに、テノールによるエヴァンゲリスト(福音史家)や登場人物に割り当てられたバリトン/バスあるいは合唱で歌われる聖句(聖書からの引用)、4曲のアリア(独唱曲)と10曲のレチタティーヴォ(叙唱=語るように歌う部分をもったアリア)、コラール(宗教歌)に分けられます。

このうちコラールは、宗教改革を主導したルター(1483-1546)らの主張に基づき、ドイツ語の歌詞と単純な旋律によって作られた賛美歌のスタイルをとっています。ルター以降の賛美歌とは、それまでが聖書の原文を使って創作されていたために、旧約聖書ではヘブライ語、新約聖書ではギリシア語を用いて作られていましたが、宗教改革後は自国語による平易な歌詞を用いたものが多く生み出され、バッハが〈マタイ受難曲〉に用いたのはドイツ語によるコラールだった、ということです。

〈マタイ受難曲2021〉では、オリジナル・ストーリー部分は日本語、歌詞はバッハ版に準じたドイツ語が用いられたハイブリッド仕様になっています。

shezooとは?

〈マタイ受難曲2021〉の“首謀者” shezooのバックショット(撮影/写真提供:永島麻実)
〈マタイ受難曲2021〉の“首謀者” shezooのバックショット(撮影/写真提供:永島麻実)

shezoo(シズ、作・編曲、ピアノ)

16歳でミュンヘン国立音楽大学に入学。情景や映像を喚起させるアーティストとして多様なかたちで音楽を生み出す。その音楽は美しく懐かしく妖しく、異次元の世界へと聴くものを誘う。

活動は多岐にわたり、CM、映画(「白い犬とワルツを」ほか)、舞台音楽(東京セレソンデラックス「流れ星」ほか)の作曲、アートとのインスタレーションなどを手がける。

バンドとして自身のオリジナル作品を展開する“Trinite(トリニテ)”を率いている。ユニットとしては、藤野由佳(acc)との“透明な庭”、髙橋美千子(vo)との“Eternal flame”、さらに2022年からは、石川真奈美(vo)、永井朋生(perc)との” shinono-me”などに参加するほか、さまざまなアーティストと共演。

また、「ソロヴィオラのための3つの作品 words」(アサヒビール芸術文化財団委託)などの楽曲提供も行なっている。

音楽担当として、日曜美術館「愛を描いてベラとシャガール」、東京国立近代美術館展示作品「魂の軌跡(カンディンスキー展)」(NHKエデュケーショナル)など。絵画、朗読、音楽によるアンデルセン「絵のない絵本」(2018年)、夏目漱石「夢十夜」の制作・音楽監督を担当。

画家ジェームズ・アンソールのピアノアルバム『La Gamme D'amour』、ピアノソロアルバム『nature circle』、オリジナルアルバムとして『月の歴史』(Trinite)、『神々の骨』(Trinite)、『prayer - sabato santo-』(Trinite)、「Invisible Garden」(透明な庭)のほか、音楽担当映画、舞台のサウンドトラック、DVDのリリースがある。

2021年2月上演〈マタイ受難曲2021〉の企画、プロデュース、編曲、脚本を担当。

引用:shezoo公式サイト http://shezoo.cocolog-nifty.com/

〈マタイ受難曲2021〉証言集のアウトライン

2021年2月に上演された〈マタイ受難曲2021〉について、出演者14名と主なスタッフ/関係者6名に取材した内容をまとめた記事。Yahoo!ニュース個人に連載企画として公開していきます。

information

♬ マタイ受難曲2021 Matthauspassion2021(初回限定版) [DVD]

http://shezoo.cocolog-nifty.com/blog/2021/12/post-167e34.html

♬ 〈マタイ受難曲202×〉

乞うご期待!

Coming Soon !

♬ 〈マタイ受難曲2021〉オフィシャルWEBサイト

http://shezoo-matthauspassion.info/

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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