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銕(くろがね)の振動をエールに変えるフュージョン・マレットのマジック

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

2011年12月にファースト・アルバム

『Here goes!』をリリースした

山崎ふみこ。

オリジナル曲にもにじみ出る

独特の音楽観を楽しませるだけでなく

稀少なヴィブラフォン奏者として

その活動を見守っているファンも

多いようです。

と、まあ、

「見守っている」なんて

書いているけれど、よくて伝聞、

ほとんど想像なんでしょ?

と思われる読者も

多いかもしれませんね。

残念ながらその風潮が色濃い

業界であったりすることは

否定しません。

でもね、山崎ふみこの場合は、

ちゃんと確認しているんですよ。

ファースト・アルバムの発売記念以降、

定期的に行なっている彼女のライヴに、

ボクはまあまあ出席率。

そのなかでも、ゴールデンウィーク

真っ只中にスケジュールされる

彼女のバースディライヴ、

2017年も参加させていただきました。

今年のサプライズは、なんと言っても

3年ぶりとなる3枚目のリーダー作を

その一週間ほど前に録り終えて、

7月の発売を待たずに

「やっちゃいまーす!」というもの。

8月には正式なリリース記念ライヴ

の予定があるというのに、

やっちゃったわけです。

そんなところも山崎ふみこらしいなぁ

と思いながら、その5月と、

もうひとつ8月のステージを観て

感じたことをまとめてみましょう。

♪ “二重性”をしたたかに使ったメロディ・メーカー

画像

ライヴの音に浸っていると、

山崎ふみこが届けようと

している音のなかに

なにか異なる性質のものが

混じり合っていることに

気付きました。

それを言葉にするならば、

ヴィブラフォンとピアノの

“二重性”ということに

なるでしょうか。

リーダー・セッションでは

ピアノ・トリオを配置した

編成に固執している感が

ある彼女。

これは一般的なケースですが、

ピアノ・トリオにもうひとつ

楽器が加わる場合、それは

メロディなどを主導する

フロント・ポジションの

役割が与えられます。

つまり、山崎ふみこバンド

の場合はヴィブラフォンの

彼女がフロントになります。

しかし、彼女のバンドの

ライヴを観るかぎり、

自分がメインのメロディ担当

ポジションだという頑なさが

あまり感じられないのです。

そうなってしまうのは

もちろんリーダーである彼女の

意識が重要なわけなのですが、

併せてヴィブラフォンという

楽器が実は打鍵楽器で、

リズムセクションに属する

というところに謎を解く鍵が

あるんじゃないかと

思ったりしたわけです。

その重複性を意識している

ことで、独特の山崎ふみこ

ワールドが生まれるのでは

ないかと推測してみると、

なるほどピアノという

キャラクターへのこだわり

が強いのも頷けたりする

わけなのです。

ピアノとヴィブラフォン

といえばチック・コリアと

ゲイリー・バートンの

コラボレーションがまず

念頭に浮かぶほど、

ジャズではすでに“定番”

といえる組み合わせです。

しかし、そこにある

“ジャズ的な空気”を

あえて薄めてバンド感を

押し出そうとしているのも

山崎ふみこの特徴と

いえるでしょう。

そうすることで、より

彼女が大切にしようと

しているメロディが

しっかりと描かれる

ようになっていると

思います。

それはまた、ポップさ

を失わずにジャズ的な

アンサンブルを可能に

しようとする

“体育会系”

とも言えるような

パフォーマンスに

つながっている

ようです。

天然なだけじゃない

したたかさがあるから

グッとくるメロディを

紡ぐことができる、

ということなのかも

しれません。

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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