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【ジャズ盤】ヌルいクリソンは聞き飽きた!とお嘆きの方に効くジャジーな2枚

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

話題のジャズの(あるいはジャズ的な)アルバムを取り上げて、成り立ちや聴きどころなどを解説。今回は、「クリスマスなんてケッ!」という反骨の皆さまに捧げる2枚。

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まずは、気鋭のJジャズ・ミュージシャンの作品をを精力的にリリースしているT5レコーズの、クリスマス・スペシャル・コンピレーション2015年版。

2013年にリリースした『T5Jazz Records presents: Jazzy Christmas / Peaceful』の続編なのだか、クリスマス商戦に乗っかったお手軽企画ものと侮ったら火傷するぜ(笑)。

内容は、レーベルからアルバムをリリースしている小沼ようすけ 、鈴木央紹、宮川純、類家心平といった面々が、自分の仕切りで1曲を仕上げたものを集めて1枚にするという趣向。

だから、セッション的なお祭りモードではなく、自己バンドのマジモードに近いかたちでクリソンをカヴァーしているというわけなのだ。

いわゆるレーベルのカタログ的な体裁にもなっているわけなんだけれど、こんな豪華なカタログをサンタがもってきてくれるんなら、クリスマスだって「ケッ!」じゃないと思えるんじゃないだろか。

♪T5Jazz Records presents: Jazzy Christmas / Peaceful (Sound Sample- Official)

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2枚目は、立石一海トリオ。

ジブリ・ソングをジャズに仕立てたシリーズで大ヒットを飛ばしているこのトリオの2015年の新作は、なんとクリスマス・ソング集というニッチなものだった。

業界的に聞きかじった範囲では、季節ものは注目度が高いけれど、変わり目も早いということ。つまり、ロングテールでようやく息をつこうというジャズのマーケットにあっては、無謀とも言える企画ものというわけだ。

しかし、立石一海トリオには勝算があったから、この勝負に打って出たに違いない。

ジブリのカヴァーで培ったリスナーとの関係性を積み重ねてきた彼らならではの、耳慣れたメロディを高度なジャズで変質させてもシームレスに聴き手の感情を動かし得ることを知っているからこその選択ーー。それが決してカヴァーの範疇にとどまったものでないことは、ありきたりのクリスマスの演出には使えないであろうリアルなスウィング感にあふれたサウンドに触れてもらえば納得できるはずだ。

ムーミントロールと一緒にクリスマスを、しかも上質のジャズに彩られてなんて、こんな粋なプレゼントをしてくれるサンタがいるんだったら、大きな荷物を預からせて、一緒に飲みに行きたいもんだなぁ……。

♪Kazumi Tateishi Trio- Have Yourself A Merry Little Christmas

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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