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【JAZZ】変幻自在の歌声がメロディという配役に輝きを与える

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

話題のジャズの(あるいはジャズ的な)アルバムを取り上げて、成り立ちや聴きどころなどを解説。今回は、青木カレン『Eternal Melody』。

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青木カレン『Eternal Melody』
青木カレン『Eternal Melody』

シンガーとして出演するライヴのみならず、ラジオ番組のナビゲーターやTV番組の進行役などマルチな活動を展開している青木カレンが、2014年11月にリリースしたフル・アルバムが、この『Eternal Melody(エターナル・メロディ)』だ。

学生時代からスタジオ・ワークに携わり、インディーズから(別名義で)アルバムをリリースしたりしていた青木カレンが、ポピュラーの世界からジャズへと歩みを進めたのは2003年。

ジャズ・ヴォーカリストとしてのファースト・アルバム『TOKYO Jz TRIPPIN』を2006年にリリースした後は、ジャズ・ヴォーカルにとどまらない柔軟な視点で、声によって表現できる世界観との関係性へのチャレンジを続けている。

人格を演じ分ける才能を遺憾なく発揮

“声によって表現できる世界観との関係性”とは、本作をひととおり聴いた人なら必ず納得してもらえるに違いない、彼女独特のキャラクターの部分に関係している。もっと直裁に言ってしまえば、曲によって「別人?」と思えるほど歌い方と声が異なるということだ。

もちろんそれは、ポピュラー・メロディとジャズ・メロディを習得した彼女が的確に歌い分ける技量と資質を持ち合わせているからと言ってしまえばそれまでなのだけれど、さらに歌詞やアレンジを含めての総合的な部分でも的確にマッチングさせていくには、相応のセンスと勇気が必要であるということを指摘しておかなければならない。

いろいろ歌いたいのは個人の趣味の問題だけど、それを作品として完成させるには、客観視できる才能が不可能ということだ。

青木カレンは、ファニー・ヴォイスでポップスを軽やかに歌うことができる人格と、ジャズ・スタンダードをジャジーに歌いこなすことのできる人格、この2つを併せもっているうえに、そうした分裂するキャラクターをひとつにまとめる第三者的な視点を備え、破綻のない多層的な表現力をサウンドに落とし込むチャレンジに成功していることが、本作で明らかにされているわけなのだ。

まるでおもちゃ箱をひっくり返したような選曲も、1人何役もの役柄を演じ分ける舞台であると想定すれば、「違っていてあたりまえ」であるはず。そしてその別々の主人公たちが、どれも存在感をもって輝いていることに圧倒されることになる。

また、青木カレンは2014年秋に放映され話題となったTVドラマ「昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜」の挿入歌「Never Again」でも注目されていたが、本作にはジャズ・アレンジが施されたそのフル・ヴァージョンが収録されている。

アルバムのラストに添えられた“ボーナス”的な位置づけではあるが、彼女の“本領発揮”と言えるような、ジャズとポピュラーの融合がこの曲で実現していると感じることができる。

つまり、新しい曲とほかの曲との温度差が感じられないところも、彼女がめざそうとしている多層的な表現力が完成に近づいていることを感じることができる結果と言えるのではないだろうか。

♪青木カレン「Eternal Melody」

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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