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【JND】山崎ふみこ『Departure!!』はポップ・インストゥルメンタルの新たな潮流を予感させる

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
山崎ふみこ『Departure!!』
山崎ふみこ『Departure!!』

話題のアルバムを取り上げて、曲の成り立ちや聴きどころなどを解説するJND(Jazz Navi Disk編)。今回は山崎ふみこ『Departure!!』。

ジャズ/フュージョンのシーンで注目を集めているヴィブラフォン奏者・山崎ふみこのセカンド・アルバム。独特の視点から生まれるオリジナル曲を満載したファン待望の新作だ。

不器用ゆえの個性をあえて封印

ヴィブラフォンは不器用な楽器だ。しかし、その不器用さが逆に個性となり、独特の魅力を放つ効果をもたらす。ジャズでは個性が尊重されるため、ヴィブラフォンが放つ個性はとくに高く評価されている。

一方で山崎ふみこは、ジャズで定着しているヴィブラフォンのイメージとは異なるサウンドをめざしているフシがある。つまり、ジャズを象徴するようなヴィブラフォンの名曲・名演奏が築いてきたイメージに頼らず、自らのオリジナル曲を表現できる丸くてウォームなサウンドを選んでいるようにみえるのだ。

同質のコラボが生んだ異質なサウンド

本作ではサウンド・プロデューサーに松本圭司が加わったことで、前作『Here goes!』とは方向性の異なる曲がめだつことも特徴的と言える。T-SQUARE出身である松本圭司はポップ・インストゥルメンタルというキーワードで山崎ふみこの音楽観と重なる部分も多いのだが、そうした“想定どおり”の結末に流されないようにする意志と工夫がこのアルバムの堅固な骨子となって、トータルな印象をインパクトの強いものに一段押し上げている。

ポップ・インストゥルメンタルとBGM的なイージー・リスニングの違いは、このようなしっかりとした骨子とインパクトの強さによって生まれるのではないだろうか。甘いだけのヴィブラフォン音楽ではないサウンドを生み出すために、山崎ふみこはメロディを磨き上げ、異なるテイストのコラボレーションにも挑戦した。音楽的なタフネスを重ねることで、メロディやサウンドの存在感は確実に増していく。そんな成長の跡を感じることができるセカンド・アルバムになっている。

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以下の販売サイトで試聴することが可能。

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音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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