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【JNS】ブルースの“呪縛”を解いた「ブルース・イン・ザ・ナイト」

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家
ダイナ・ショア『Blues in the Night』
ダイナ・ショア『Blues in the Night』

ジャズ・スタンダードと呼ばれる名曲を取り上げて、曲の成り立ちや聴きどころなどを解説するJNS(Jazz Navi Standard編)。今回は「ブルース・イン・ザ・ナイト」。

この曲は1941年公開の映画「ブルース・イン・ザ・ナイト」の主題歌として作られた曲。作曲はハロルド・アーレン、作詞はジョニー・マーサーという、ブロードウェイを代表する売れっ子作家のコンビだ。

翌年にダイナ・ショアがカヴァーするとヒット。彼女の代表作となっただけでなく、アメリカを代表するポピュラー・ソングのひとつに数えられるまでの地位に押し上げることになった。

タイトルにはブルースとあるが12小節のブルース形式ではなく、16小節のサビを挟んだポピュラー・ソングによくあるスタイル。つまり、単純な構成のブルースにちょっとジャズ的な工夫を加えた“ハイブリッドなブルース”だったのだ。

♪1940s TV: Dinah Shore sings "Blues in the Night"

この曲の名声を一気に高めたダイナ・ショアが歌う1949年のテレビ・ショーの動画。女優としても活躍した彼女の華やかさが、それまでのブルースのイメージを一新させた功績は大きい。

♪Jimmy Smith- Blues in the night

数多くのブルースの名演を残しているソウル・ジャズの名手、ジミー・スミスのヴァージョンも有名。装飾音を多用し、粘着性の高いイメージを生み出すことによってブルースに新風を吹き込んだ彼のモチーフとしてこの曲がピッタリとハマったことは、このプレイを聴けば言わずもがなだろう。

♪Amy Winehouse- Blues in the night

イギリスのソウル/R&Bシーンで注目を浴びたが2011年に急逝してしまった歌姫、エイミー・ワインストックのヴァージョン。ブルースはイギリスに渡ってロックを生むなど独特の影響を与えることになるが、この曲がその範となったのではないかという想像はあながち外れていないかもしれないという気がしてきた。エイミーの舌足らずで囁くような歌い方もまた、ブルースのもっている時代的な背景を一気に現代へと引き寄せる効果を生んでいるから、古く感じないのだろう。

まとめ

ブルースをブルースのまま歌ってしまうのではブルースにしかならない。身も蓋もない言い方だが、これは逆にそれだけ“ブルースのままで歌う”ことの難しさも物語っている。

独特の背景を背負っているブルースには、それを歌うための“資格”のようなものが要求されている気がする。そんな不可侵領域をもつからこそ、ブルースは聴く人も歌う人も演奏する人も惹きつける魅力を放つのだろうが、「そこまで厳しく考えなくても」と思うのは世の常。

そこで考えられたのが、かぎりなくブルースに近いポピュラー・ソングだったのではないだろうか。「ブルース・イン・ザ・ナイト」はR&Bが生まれる1940年代後半に先立って作られたのだから、時代の要請に叶う先駆けの曲だったと言えるのかもしれない。

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音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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