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[訃報]スパニッシュな超絶テクでジャズやロックに衝撃を与えたパコ・デ・ルシアさん逝去

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

World-renowned Spanish guitarist Paco de Lucia has died aged 66 in Mexico, reportedly of a heart attack while playing with his children on a beach.

出典:http://www.bbc.com/news/world-europe-26351251

パコ・デ・ルシア『El Duende Flamenco』
パコ・デ・ルシア『El Duende Flamenco』

スパニッシュ・ギターの名手として神技的なテクニックを披露し、ジャズやフュージョンにも大きな影響を与えたギタリストのパコ・デ・ルシアさんがなくなりました。享年66歳。

パコ・デ・ルシアさんの超絶テクなギターは、オン・タイムでボクのジャズ熱に油を注いでくれました。

その存在を知ったのは、アル・ディ・メオラのアルバム『エレガント・ジプシー』でのこと。1977年リリースのこのアルバムを、おそらく新宿のロック喫茶(たぶんサブマリンだと思う)で聴いたボクは、その圧倒的なテクニックと表現力に打ちのめされて、せっせとお小遣いを貯めてアルバム(もちろんアナログLP盤)を購入しました(当時は高校生だったので)。

アル・ディ・メオラを知ったのはその少し前。彼が参加していたツトム・ヤマシタの“GO プロジェクト”(1976年)がきっかけで、彼がチック・コリアとともにフュージョン・シーンに大きな足跡を残したリターン・トゥ・フォーエヴァーでの活動はそこから遡って知ることになります。

中学生のころからロックに興味をもっていたボクは、ギタリストでいちばん上手い人は誰なのかということを友だちと競っていて、リッチー・ブラックモア→ジェフ・ベック→ロバート・フリップというような図式を頭のなかに描きながら悦に入っていたカワイイやつだったのですが、その妄想を吹っ飛ばしたのがアル・ディ・メオラの出現でした。

ところが『エレガント・ジプシー』では、超越した存在だったはずのディ・メオラとのフォー・バース(4小節から数小節ごとに交互に行なうアドリブ合戦)で、ロックにはない独特のラインを奏でてディ・メオラを驚かせているようすが伝わってくるプレイを披露するギタリストが現われたわけです。

彼の業績はなんといっても、「アコースティック・ギターの弱点をエレクトリック・ギターが補って音楽は進化してきた」とされる1950年代から70年代までの“ポピュラー音楽界の常識”を、根本からひっくり返してしまったこと。

1980年代のスーパー・ギター・トリオ(ジョン・マクラフリン、ラリー・コリエル or アル・ディ・メオラとのアコースティック・ギターによるトリオ・プロジェクト)の成功などは、その証拠として挙げることができるでしょう。

♪Mediterranean Sundance Friday Night in San Francisco

ご冥福をお祈りします。

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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