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[訃報]邦楽とジャズの異種格闘技に先鞭をつけた山本邦山さん逝去

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

尺八奏者で人間国宝の山本邦山さんが亡くなられました。享年76歳。

尺八の歴史を受け継ぎながら、ジャズにかぎらずさまざまな分野とのコラボレーションによって、日本ならではの美学を織り込んだサウンドを全世界に発信した、戦後音楽界のイノヴェイター=革新者のひとりです。

尺八奏者で多彩なジャンルでの共演で知られる人間国宝の山本邦山(やまもと・ほうざん、本名泰正=やすまさ)氏が10日午前、東京都板橋区の病院で死去した。76歳だった。大津市出身。葬儀日程は未定。喪主は長男で尺八奏者の真山(しんざん、本名英則=ひでのり)氏。幼時より父の手ほどきを受け、中山蝶山氏に師事。独奏や箏(こと)、三弦との合奏など伝統的な邦楽演奏、作曲に加え、1967年には米国のジャズ祭に出演。その後も、ジャズやクラシックなど異分野との共演に積極的に取り組み、「尺八ルネサンス」と呼ばれるブームの立役者になった。

「悪魔が来りて笛を吹く」(79年)など映画音楽多数。東京芸大教授も務めた。2002年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定され、11年度の芸術院賞を贈られた。

出典:人間国宝の山本邦山氏死去=尺八奏者、76歳|時事ドットコム

山本邦山、原信夫とシャープス&フラッツ『日本のニュー・ジャズ』
山本邦山、原信夫とシャープス&フラッツ『日本のニュー・ジャズ』

山本邦山の名前は、1960年代から80年代にかけての多くのジャズ・アルバムに記されています。

その代表的なものを1つ挙げれば、1967年に開催されたニューポート・ジャズ・フェスティヴァルに原信夫とシャープス・アンド・フラッツが日本人グループとして初めて出場した際にソリストとして出演し、当時の「ニューヨーク・タイムス」紙にもその独自性を賞賛されました。

♪Take Five- Yamamoto Hozan with Blue Coats Orchestra[Live]

ポール・デスモンドのサックスもクールな雰囲気ですが、そこへさらに“幽玄”という言葉をあてはめたくなる奥行きの出た表現になっています。

♪大吟醸- Summertime

山本邦山とブルース・ギタリストの高谷秀司を中心に結成されたユニットのライヴ映像です。

後続の若手尺八奏者に取材をした際、邦楽の楽器はそもそも西洋音階に対応していないので、クロマチックな表現のためにはかなりの技術がなければ対応できないという苦労話を聞いたことがあります。

しかし、山本邦山の演奏はそれがいとも簡単にできるかのようにしか感じさせず、さらに尺八特有の音程変化やヴィブラートによって西洋楽器には出せない独自の世界観へと誘ってくれます。

ご冥福をお祈りします。

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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