月曜ジャズ通信 2014年1月13日 寒波来襲ドテラだ号

もくじ

♪今週のスタンダード~オール・オブ・ミー

♪今週のヴォーカル~ダイアン・シューア

♪今週の自画自賛~ハービー・ハンコック『エンピリアン・アイルズ』

♪今週の気になる1枚~トーマス・エンコ『ジャック&ジョン』

♪執筆後記

「月曜ジャズ通信」のサンプルは、無料公開の準備号(⇒月曜ジャズ通信<テスト版(無料)>2013年12月16日号)をご覧ください。

Songs for Young Lovers & Swings Easy
Songs for Young Lovers & Swings Easy

♪今週のスタンダード~オール・オブ・ミー

1931年に作られベル・ベイカーがラジオで歌い、その年の暮れにルース・エッティングがレコーディングしてヒット。翌1932年にはルイ・アームストロングが歌って大ヒットとなったのみならず、映画「ケアレス・レディ」にも使われて、1930年代を代表するばかりか、全アメリカン・スタンダードを代表する曲として知られるようになりました。

セイモア・シモンズとジェラルド・マークスの共作で、ともにアメリカの作曲家。シモンズはマークスの4歳年上ですが、ラジオ・プロデューサーとしても活躍していて、1920年代後半から30年代前半にかけてオーケストラを指揮しながらラジオ番組を作っていたようです。おそらくそのときにマークスが作っていた「オール・オブ・ミー」の原案をスウィングに仕立て直して放送したところ、反響が大きかったことからレコーディングしたのでしょう。

さらに、1952年のミュージカル映画「ミーティング・ダニー・ウィルソン」ではフランク・シナトラが歌って、これまた大ヒット。“キング・オブ・スタンダード”の地位を不動のものにしました。

♪All Of Me 訳詞付/ビリー・ホリデイ

この曲は“ジャズ・ヴォーカルの女王”ビリー・ホリディも早くに取り上げており、彼女の代表的なパフォーマンスのひとつに数えられています。

この動画は訳詞付き。しかも関西弁(どうやら神戸弁らしいですが)なので紹介するのを躊躇したのですが、聴き直してみると関西弁がビリー・ホリディの声にしっくりくるような気がしてきました。さて、いかがでしょうか(笑)。

バックでサックス・ソロをとっているのはレスター・ヤング。彼のあだ名である“プレズ(Prez)”は「(サックスを)代表する者=President」を略したもので、ビリー・ホリディが付けたと言われています。

♪Frank Sinatra Singing'All Of Me'

ミュージカル映画「ミーティング・ダニー・ウィルソン」でフランク・シナトラが歌っている動画を見つけました。

♪Lennie Tristano, Lee Konitz & Warne Marsh- All of Me

“クール・ジャズ”を代表するアーティストが一堂に会して「オール・オブ・ミー」を演奏するとこうなります。複雑なコードを多用しているのにメロディ・ラインが柔らかくなっていて、それが“直情型”だったこの曲の表情を深みと憂いのあるものに変化させています。

ダイアン・シューア『Deedles』
ダイアン・シューア『Deedles』

♪今週のヴォーカル~ダイアン・シューア

“エラ・サラ・カーメン”が“元祖”女性ジャズ・ヴォーカル御三家だとすれば、“新”御三家と呼ばれたのがダイアン・シューアを含めた1980年代後半に注目を浴びた3人の歌姫たちです。

ポピュラー音楽シーンにおけるジャズの存在感は1970年以降のロック・ムーヴメントによって薄れていくことになりましたが、1980年代中盤に老舗レーベルの復興などで1950~60年代のジャズへの再評価が活発になると、ジャズ・ヴォーカルにも注目が集まるようになります。

1953年に米ワシントン州タコマで生まれたダイアン・シューアは、生まれながらにして目が不自由だったそうです。幼いころから音楽に興味をもって歌とピアノを習い、やがて教会の聖歌隊に入って歌うようになると、1970年代には西海岸で知られる存在に。1982年にスタン・ゲッツの推薦でホワイトハウスのジャズ・パーティで歌うことになり、これが関係者の目に留まってレコード・デビュー。1987年にグラミー賞を受賞しています。

♪Diane Schuur-The Very Thought Of You

デビュー当時のダイアン・シューアの映像。日本の斑尾高原で開催されたニュー・ポート・ジャズ・フェスティバルに出演したときのものです。YouTubeの概要には1984年となっていますが、調べてみるとダイアン・シューアが出演したのは1985年の第4回のときだったようです。また、Wikipediaでは「ディジー・ガレスピー & Diane Schuur」での出演となっていますが、この映像からもわかるようにダイアン・シューアはトリオで出演、ディジー・ガレスピーはジョン・ファディス・クインテットのゲストとしてのエントリーだったようです。

♪Diane Schuur- Lousiana Sunday Afternoon (live in Milan 07/13/2013)

ダイアン・シューアのご近影です。デビュー当時は貫禄があるなぁと思ったけれど、いまでは逆に若々しさを感じるパフォーマンスになっているのではないでしょうか。

ハービー・ハンコック『エンピリアン・アイルズ』
ハービー・ハンコック『エンピリアン・アイルズ』

♪今週の自画自賛~ハービー・ハンコック『エンピリアン・アイルズ』

限定発売された最新の24bitリマスタリング盤のライナーノーツを富澤えいちが執筆しました。

「すべてが本格始動した1964年の記念碑」「いまだに更新される未完のプロフィール」「クラブ・ジャズを先導した眠れる名曲を収録」の3部に分けて解説しています。

翌1965年リリースの『処女航海』を代表作とする人が多いためか、いまいちスポットの当たらなかった本作に注目したのは1990年代に入ってからのクラブ・ジャズ・シーンでした。

っていうか、ハービー・ハンコックってキャッチーな曲とそうでない曲のギャップが激しすぎて、20代のころのボクには理解できない部分が多かったんですね。だから深入りできなかった。

アナログLPレコードからCDにかわっていった1980年代中ごろ、続々とリイシューされたブルーノートの諸作を買い集めながらジャズの勉強に勤しんだわけですが、『処女航海』は買っても『エンピリアン・アイルズ』は買えなかったのはそのせいです。

しかし、現在のジャズ・ピアノ・シーンを俯瞰してみればハービー・ハンコックの影響を受けていないピアニストは皆無に等しいという実情を鑑みて彼のオリジネーター的な部分を探ってみると、発見がザクザクあって、とてもおもしろいと感じることができるようになりました。

であるならば、当時理解できなかったことが、いまオススメできるポイント――ということですよね。

フレディ・ハバードのよどみないモード・フレージングのすばらしさ、そしてハービー・ハンコックとトニー・ウィリアムスが繰り広げる緊張感あふれるインタープレイあたりがそれに当たるんじゃないかと思うのですが……。

ジャズは“個”を聴く音楽でもあります。このアルバムはまさに、“個”のぶつかり合いが偶発的に織りなす芸術をとらえた見本のようなもの。細部にこだわって聴き込むためのいい教科書になってくれると思います。

♪Herbie Hancock- One Finger Snap

アルバムの冒頭を飾るハードバビッシュでモーダルなナンバー。彼らがオン・タイムでやりたかったサウンドはこちら。そして、1990年代のジャズが着目したのは“息抜き”の「カンタロープ・アイランド」だった、というところもまた、ジャズが時代とともに成長していた証拠であったりするのです。

トーマス・エンコ『ジャック&ジョン』
トーマス・エンコ『ジャック&ジョン』

♪今週の気になる1枚~トーマス・エンコ『ジャック&ジョン』

新鋭ピアニストのトーマス・エンコは1988年パリ生まれ。9歳でヴァイオリンのディディエ・ロックウッドのグループに招かれライヴを行なったという経歴の持ち主です。

“神童”と呼ばれる経歴を携えてデビューするミュージシャンはそれほど珍しくありません。むしろ、“栴檀は双葉より芳し”なのだから当然と言えるのかもしれません。

ところが、“昔神童いまタダの人”であることも、これまたとても多い。

子どものころは器用に技術を習得できて、思考も柔軟なので、オトナから見るとビックリするようなことを平気でやれたりするのですが、思春期になり自我が発達すると、オトナが喜ぶことを素直にやれなくなったりするわけです。

その葛藤を乗り越えられるのが、本当に“天才”と呼ばれるようになる人たち。

トーマス・エンコの演奏を聴いていると、“神童”としてのオトナへのおもねりや媚を見つけ出すことはできません。それはつまり、彼が磨き上げたテクニックを、自分が伝えたいことを表現するために使うという“大前提”をまっとうできているということ。

そして重要なのは、自らの表現に溺れず、会話ができているということ。優れた演奏技術を備えていても、共演者との調和に欠けているのでは、音楽になりません。

その点で、チック・コリアの1980年代のサウンドを支えたベーシストのジョン・パティトゥッチ、エレクトリック・マイルスのリズムを担ったのみならずキース・ジャレットのスタンダーズではピアノ・トリオの新たなスタンダードも築いたドラマーのジャック・ディジョネットという“両巨頭”を招いての本作は、トーマス・エンコの真骨頂が試される場ともなったわけです。

本作を聴いて“会話している”と感じるのは、まさに共演者との調和が具現されているからです。ジャズだと周知される曲を取り上げ、ジャズっぽいリズムを交えて流麗に弾けばジャズになるかといえば、そうではありません。

トーマス・エンコの演奏にはジャズ的なクリシェが少ないのに、ジャズから距離があると感じられないのは、彼の演奏が“会話している”からです。

“(自分の音を)弾けること”ではなく“(共演者の音を)聴けること”、それがジャズに必要な才能であることを、彼の演奏は伝えてくれています。

♪Thomas Enhco Live In Paris- You're just a ghost

紹介したアルバムとは異なるメンバーなので、ちょっと叙情的な面が強く出ているトーマス・エンコの演奏です。これが本来の彼のサウンドだとしたら、ジャック・ディジョネットとジョン・パティトゥッチを迎えての演奏は、彼の内面から湧き出た“ジャズへの敬意”ということになるでしょう。そういう比較もジャズの楽しみのひとつです。

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富澤えいち『頑張らないジャズの聴き方』
富澤えいち『頑張らないジャズの聴き方』

♪執筆後記

先日、ドラマーのスティーヴ・ガッドさんに取材する機会がありました。彼はフュージョンを代表するドラマーとして知られていますが、ボクが彼のプレイでいいなぁと思ったのはデイヴィッド・フリーゼンの『スター・ダンス』やアート・ファーマー&ジム・ホールの『ビッグ・ブルース』だったので、当時はガッド・ギャングなどとの振り幅の大きさに戸惑った覚えがありました。

ところがその取材で、彼が現代音楽の作曲家オリヴィエ・メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」のパーカッション・パートを自分でアレンジしたという話題が出たりして、長いあいだ頭の隅にあった疑問がフワッと消えた気がしました。そういえば、CTIではジム・ホールの『アランフェス協奏曲』にも参加するなど、リズム的にジャズとクラシックをフューズ=融合する活動の先駆者的な役割を果たしていたことをもっと評価するべきなのではないかと思った次第。惜しむらくは取材時間が少なくてそちらへ脱線できなかったことですが、次に取材できる機会に備えて勉強しておきたいと思います。

富澤えいちのジャズブログ⇒http://jazz.e10330.com/